アーティストが語る海の魅力とサステナブル

Know The Sea Special

2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、お届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回はFUJI ROCK FESTIVAL’24とコラボレーション!

FUJI ROCK FESTIVALは、自然環境に配慮したクリーンでサステナブルな音楽フェスとして、世界から評価されています。そんなフジロックに出演したアーティスト達をゲストにお迎えし、「海の魅力とサステナブル」についてお話を伺うスペシャルバージョンです。

1組目のアーティストは、様々なジャンルの音楽と、ダンス・映像・照明などが一体となったパフォーマンスで観客を魅了するバンド「渋さ知らズオーケストラ」。インタビューしてくれたのは、ジョージ・ウィリアムズさんです。

ステージに最大150人が上がる自由なバンド

7月26日のFUJI ROCK FESTIVAL’24の初日、「FIELD OF HEAVEN」ステージにトップバッターとして登場した「渋さ知らズオーケストラ」。お話を伺ったのは、「フンドシで暴れています」と自己紹介してくれた渡部真一(わたべ しんいち)さん、ボーカルの玉井夕海(たまい ゆうみ)さん、サックスとハーモニカを担当している川口義之(かわぐち よしゆき)さんです。まずは、どんなコンセプトのバンドなのかを玉井さんが教えてくださいました。

「リーダーの不破大輔(ふわ だいすけ)から聞いてきました。『一人ひとりの自立と自由』というのがテーマです」

とは言うものの、渡部さんがおっしゃるには「それはリーダーの持っているテーマ。あんまりそういうことを共有していなくて、多分川口さんと俺のも違う」とのこと。ただ、3人とも一致していたのは「共有していないことが自由」なのだそうです。

そんな渋さ知らズオーケストラはこの日、メンバー30人がステージに立ったそうで、過去には150人が上がったこともあるとのこと。玉井さんが「自称・渋さ知らズがいっぱいいて」とおっしゃると、渡部さんが「知らない人いるもんね」と盛り上がってらっしゃいました。

「海はつながっている」ことがイチバン好き

そして、「海」の話題へ。まずは、玉井さんに海との関わりについて伺ってみると

「私は名前に“海”の字が入ってるので、自分の中に海があるという気持ちでいつもいます。海でイチバンいいのはつながっているところだと思っていて、海ってみんなで大事にしているものだと思うんですね。それがあって私たちが生きてるという。そのつながってるというところがイチバン好きですね」

釣りで知った海の危機

最後に、川口さんと渡部さんも海とのつながりをお話してくださいました。川口さんは

「海は海岸とかを歩いているだけで気持ちいいですよね。僕も一昨年ぐらいからやたらと鎌倉とか由比ヶ浜とか歩いています」

そして、渡部さんは海でビックリしたことがあるそうで

「俺、釣りをするんですよ。ビックリしたのは今まで絶対に釣れていた場所から魚がいなくなったこと。釣り具メーカーの人たちが『ここに行ったら絶対釣れますから。ここは産卵場だから絶対に釣れますよ』と言っていたのですが、今は『すいません。魚がいなくなりました』と言っていて。魚が産卵場所を変えるのは大ごとらしくて。絶対変えないらしいから。それぐらい海の中で大変なことが起きているみたいですよ」

続いてのアーティストは、フィンランド出身の5人組ロックバンド「US(アス)」。インタビューしてくれたのは、渡辺麻耶さんとフォーンクルック幹治さんです。

世界で大注目のロックバンドが初来日!

ガレージロックの新星バンドとして注目を集めている「US」は、2021年に結成。フィンランドやイギリスのライブハウスで評判を重ね、Glastonbury Festival(グラストンベリー フェスティバル)をはじめ、ヨーロッパ各地のフェスティバルにも出演。初期のArctic MonkeysやThe Hivesと比較され、新世代のロックバンドとして話題を集めています。そんなUSはフジロックで3日間に渡って出演。まずは日本の印象について伺いました。

「フジロックにずっと来たかったし、バンドとして初めて日本に来れました。すごく楽しいです」

ちなみに、東京に何日か滞在してからフジロックの会場にいらっしゃったそうですが、フィンランドは全人口が500万人ほどなので、東京の人の多さにビックリしたようです。そんなフィンランドと日本で、夏の違いも感じたそうで

「フィンランドは22時ぐらいまで白夜で、ずっと夜が続きます。でも、やっぱりフィンランドの方が涼しいと思います」

また、初めて出演したFUJI ROCK FESTIVALの印象もお話してくださいました。

「世界各地のフェスと比べて、とにかく自然がすごく多い。ジャングルにいるようでフェスにいるような感じです。2日目にして一番好きなフェスになりました」

そうおっしゃるUSの皆さんは、初日本、初フジロック以外にも初めての体験をしたそうで

「初めて温泉に入りまして、すごくリラックスができました」

海が近くにあるヘルシンキ出身

そんなUSの皆さんに、海との関わりについて伺ってみると

「5人全員がヘルシンキ出身なので、汚染などの影響がすぐ近くで見えるという環境で育ってきています。身近に湖ぐらいの小さい海があり、そういう環境との関わりは見えています」

ちなみに、マリンアクティビティとしてボートを漕ぐことがあるそうです。

海洋ごみ問題などに高い関心を持っている

海ではさまざまな問題も起きていますが、そういった環境問題についてどんな意識を持っているのでしょう?

「ごみを捨てるといった海洋汚染は、生態系に影響を与えてしまうと思います。それは私たちにも返ってくる。海の魚を我々は食べますので。そういう問題を止めていきたいと思っています」

最後に、海の好きなところを伺いました。

「魚や鳥、哺乳類などを見るのももちろん好きです。あとは、ビーチで落ち着いて水平線を見る。これがいいんです」

続いてのアーティストは、さらささん。インタビューしてくれたのは、渡辺麻耶さんです。

大注目のシンガーソングライター

さらささんは、単独ライブが追加公演もソールドアウトするほど注目されているシンガーソングライター。まずは、フジロックに出演した感想を伺いました。

「すごい楽しかったです。初日の朝、トップバッターだったんですけど、ゆったりした雰囲気で。ステージが“PYRAMID GARDEN(ピラミッドガーデン)”という場所で、そこは、子どもが遊んでいたりとか、みんながコーヒーを飲んだりしていて。そして、キャンプサイトにあるので、テントの中から聞ける場所でもあるので、ゆったりとしたイイ雰囲気が流れていました。あと、ゴハンもお腹いっぱい食べたし、川にも入ったし。友達がいっぱい集まるので、話していたら2~3時間経っていてみたいな感じでゆったり過ごしました」

湘南生まれで海が当たり前にあった

そんなさらささんは湘南生まれ。父親が茅ヶ崎でウエットスーツのお店、沖縄でサーフショップを営業しているそうですが、さらささんにとって海はどんな存在なのでしょう?

「当たり前に海がありました。お父さんがサーフィンしているのを海で待っていたりとか、たまにサーフィンしたりとか、砂浜で遊んだりとかしていました」

一方で、コロナ禍で海に対する接し方が変わったとおっしゃっています。

「それまでは当たり前すぎて海に行く時間はありませんでした。けれども、コロナ禍から海によく足を運ぶようになって。『あっ海っていいな』と思うようになったのがそれぐらいの時期です。特にミュージシャンになってからは、自分でつくったデモとかを聴きながら、夕暮れに海を歩いたりとかしています。あとは、すごいエネルギーチャージなんだなと実感しているので、ちょっと疲れている時とかはアーシングというか砂浜を裸足で歩いたり、足だけ海に浸かったり、癒しとして使っています」

ライブグッズも環境を意識

海に近い環境で育ったさらささんは、ライブグッズも環境に配慮したアイテムにしているそうです。

「自分で古着を買いつけてきて、そこに『LIVE BLUESY』という自分の制作のモットーみたいな言葉をロゴにして刷っています。というのも、新しい生地で大量にTシャツを生産するというのが気持ちよくないというか落ち着かないというか、違和感があって。そこで、古着を買いつけてこようと思ったのですが、古着も世界中に溢れすぎていて問題になっていて。だから、新しいものを生産するというよりも、なるべくすでにあるものにしようと。それが皆さんにも楽しんでもらえているようで、毎回ライブで1点ものになるから古着をディグする感じで。それに、もともとのロゴやデザインが入っている上からシルクスクリーンをしているので、それも楽しんで選んでいただけているようです。これによって誰かにキッカケを与えようなんて思ってやっていませんが、思ってないからこそ、『環境のことを考えるようになりました』と言われると、やっていて良かったなと思いますね」

ちなみに、今は水筒をグッズとしてつくっている最中とのことです。

9月にはセカンドアルバムをリリース!

9月4日にセカンドアルバム「Golden Child」がリリース予定です。先行シングルとして8月21日から「Roulette」が配信されています。また、先行シングルでは「祝福」も配信中。どんな楽曲なのでしょう?

「この祝福は、アレンジャーが初めてご一緒する西田修大さん。UAさんのギターを担当されていたりして、アレンジャーとしてもギタリストとしても活躍されている方です。楽曲は今までのR&Bの要素が強いというよりは、ちょっとロックとかシューゲイザーのような雰囲気が入ってきている曲で、アルバムの中で挑戦、新しい扉を叩いていくこともちょっとずつやろうかなと思っていて。この祝福もそうです。西田さんにはほかにも2曲ほどご一緒させてもらっているので、それも楽しんでもらえたら嬉しいなと思っています」

東名阪ライブも開催!

そして、セカンドアルバムのリリースツアーを東名阪で行うそう。最後に、どんなツアーにしたいかを伺いました。

「名古屋には初めてワンマンライブとして行けるので、名古屋の皆さんにお会いできるのが楽しみです。大阪は土地柄なのか、お客さんが面白いです。いつもアンコールをリクエスト制にしていて、みんなに叫んでもらって最も声が大きい曲が選ばれるというのをやっていますが、以前に信じられない声量で叫んでくれた男の人がいて。『jjj』っていう曲を叫んでくれたんですけど、それ以来『jjjニキ』と呼ばれていて。だから、何を叫ぶか事前に選んできてもらった方がいいかもしれません」

最後のアーティストは佐藤タイジさん。インタビューしてくれたのは、引き続き、渡辺麻耶さんです。

徳島県人は朝に海に飛び込む!?

ファンクロックバンド「シアターブルック」を率いる佐藤タイジさんは、徳島県出身。海が身近にあったそうで、海で遊んでいたとおっしゃっています。

「夏は、阿波踊りに行って、朝まで飲んで遊んで、そして、朝に海へ行ってジャボンっていう。徳島人はそういうコースですね」

「チヌ」こと“クロダイ”が絶品!

海産物では「チヌ」と呼んでいるクロダイが名物で絶品だそう。

「お刺身でもいいし、焼いてもいいし、鯛メシみたいにご飯と一緒に炊いてもいいし。おいしいですよ。皆さん遊びにいらしてください」

自慢の美しい海岸は70~80年代からビーチクリーン活動

そんな徳島県で行われている海を守る取り組みについて教えて頂きました。

「サーフィンをするエリアがとても多いので、ビーチクリーンの意識は大分早いうちからありました。70~80年代にはそういう活動をしていたので、ビーチクリーンに参加するというのは違和感なかったですね」

ちなみに、海岸の特徴は「人がいない」こと。大小さまざまなビーチがあり、完全にプライベートなところもあって非常に美しいのだそう。

ごみの分別はフジロックから広がっていった

環境に配慮しているフジロックについて、佐藤さんが驚きのエピソードを教えてくださいました。

「いわゆる分別ごみはフジロックが90年代にやり出したんだよ。細かい分別をしていたら、それが市町村に広がっていった。フジロックがスタートなんです。そういう意味では、海をきれいにするためにちゃんとごみを分けてちゃんと捨てるというのはとても大事なことじゃないかな」

そうおっしゃる佐藤さんは、2012年から「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」という再生エネルギーを使ったフェスを毎年開催されています。今年はお休みでしたが、2025年はというと

「来年は必ず復活するので応援をよろしくお願いします。ソーラーが電源の音楽フェスは音が良くて、友達のギタリストのCharもイイねと言って演奏しに来てくれています」

そんなソーラーを使ったフェスですが、フジロックを参考にしたとおっしゃっています。

「実は元々アバロンがソーラーで全部やっていて。それでSOLAR BUDOKANをやる時に、どうやっているのか質問しにいきました。だから、後輩フェスとしてフジロックは常にリスペクトしています」

気候変動に対する思いを乗せた新曲を配信中!

佐藤さんを中心として結成した「シアターブルック」は、2025年でデビュー30周年。そこで、最後に今後の活動について伺いました。

「デビュー30周年に向けて6月あたりから新曲『私をアムスに連れていって』をリリースしていて、配信中でございます。この間は『白くまとボノボ』という新曲の配信もスタートしています。この曲は、いとうせいこうがポエトリーリーディングをしていて、私の気候変動に対する思いも乗っています。来年のツアー、アルバムリリースに向けて頑張っていこうと思っていますので、ぜひともよろしくお願いします」

最後は、「Know The Sea」のレギュラー番組に出演してくださった海を愛する写真家によるスペシャル対談。世界80カ国の海に潜り、シャッターを切り続けている中村征夫(なかむら いくお)さん。もう一方は、日本人で初めて世界最高峰の自然写真賞「自然芸術部門」最優秀賞を受賞された高砂淳二(たかさご じゅんじ)さんです。

最近は魚から苦情を言われているような気がする

「征夫さん」、「淳二」と呼び合い、家族ぐるみのお付き合いもあるというおふたり。向かい合って話すことが不思議だと思いながらも、高砂さん司会進行のもと、写真家同士でさまざまなエピソードを展開してくださいました。まずは、高砂さんから「海の中に潜っていて、魚と向き合った時に、魚はどんなことを考えていると思っていますか?」と質問された中村さんは

「最近は、文句を言われてるような感じ。『何しに来たんだ』、『俺、今は生活で精一杯なんだよ、お前達のせいだぞ!』みたいな。いろいろと苦情を言われているような気がしょっちゅうしますよ。この異常気象はどこから来てるのかというと、我々人間の日々の暮らしからであって。だから、自分の家の中から始めてくださいと思っていて、無駄な電気を消すだけで環境保護に十分貢献していると僕は思う」

宮城県や北海道で海産物に異変

異常気象などの影響が海の中にも顕在化しているとおっしゃるおふたり。実際に高砂さんが地元・宮城県のダイバーから聞いたエピソードを話してくださいました。

「地元が宮城県の石巻の方なんですけど、そこのダイバーの友人から聞いたのが、最近はワカメも高温で海の中で腐っちゃっていると。あとは、僕がいつも食べていたホヤも暑くて死んじゃっているとか、カキも全然ダメだとか。今までもサンゴが白化しているとか色々ありましたけど、まだそこまでじゃなかった。あるポイントを過ぎると加速度的に進行する、環境の分野では『プラネタリーバウンダリー』と言われている状態に入っちゃったのかなと感じていますね」

中村さんも「北海道でも、昆布が溶けてなくなってるらしい。そうなると、出汁の文化が無くなってしまう可能性があるよね。とてもまずいことだよね」と危惧してらっしゃいました。

世界中にある竜宮城のようなスポット

海への心配が尽きないおふたりですが、話題は変わって「竜宮城」がお題に。すると、中村さんは

「竜宮城のような場所は、とっても多いと思う。潜る際、身体が水面からすっと沈んでいく時に、なんて素敵なんだろう!なんて心地いいんだろう!といつも思うのね。そして、だんだんおぼろげに下の景観が現れてくると、まさに竜宮城に辿り着いたのかなという感じがするんだよね。サンゴとか藻場とか砂地とか、いろんな景観が露わになってくる。なにもいないと思ったところに、さまざまな生き物がうごめいていて、ひとつの暮らしがそこで見える。そこにちょっとお邪魔させてもらう感じで、正にたくさんの竜宮城に出会うことができる」

高砂さんも竜宮城について、独自の感覚があるようです。

「水面上から見ている時と、顔を海の中につけた時で全然違います。顔をつけた途端に、もうひとつの別の世界が広がっていて、砂漠もあれば林もある。鳥のようなエイが飛んでいたり、カラフルな熱帯魚が泳いでいたりとか。同じ地球なのに水面の下は別世界で竜宮場と言えるのかなと思います」

そんな海の中で、海と生き物、そして、自然の偉大さを感じると中村さんはおっしゃっています。

「泳いでる小さな魚1匹、我々は捕まえることができない。そして、いつの間にか魚に囲まれていて、写真に撮ると全部こちらを見ている。『ふーん、人間ってそんな機材いっぱい身につけなきゃ潜れないの』みたいに言われている気がして。また、もたもた泳いでいて、潮の流れが速くなるとすぐ流されちゃうから『弱い生き物だね』とも言われているような気がする。小魚1匹に敵わないし、完全にあざ笑われているような。でも、そういう世界があるということが僕は嬉しいと思う」

海で痛い目に遭うのは人間のせい?

続いて、話題は海の中で痛い目に遭ったエピソードへ。中村さんはダイビングを始める前に危機一髪だったことがあるとのことです。

「ダイビングはまだ始める前、友人が家の中に長さ1m50cmほど、深さ1m以上あるような大きな水槽を持っていて、呼ばれて見に行ったら魚が1匹も入っていなくて。『何もいないじゃない』と言ったら、『お前が取ってくるんだよ』と言われました。それで、葉山や湘南の海に連れて行かれて、夜に2つの球を持たされて泳ぎながら捕まえろと言うわけ。海の中には、チョウチョウウオの赤ちゃんやミナミハコフグの赤ちゃんとかがいたんですが、そこにミノカサゴがいまして。これは素手で捕まえようかなと思って、えいと両手でバシンとやったらヒョイと逃げて。当時はすばしっこいやつだなと思っただけだったけど、ミノカサゴは背びれに猛毒があるじゃないですか。だから、もうミノカサゴを見る度に思い出す。あれは危なかったなと」

中村さんのように、海の中で危険な目に遭うのは人間のせいであって、生き物から危害を加えることはないと高砂さんもおっしゃっています。

「海の中では、噛みついてくるとか、刺しに来るっていうのはまずないですもんね。大体自分が間違えて捕まえてしまったとか踏んじゃったとかです」

ちなみに、高砂さんは、ガンガゼという針の長いウニの一種を思いっきり踏んづけてしまったことがあるそう。そして、中村さんも、沖縄でガンガゼに太腿を刺されたことがあるとのことで、「ほとんど我々の無知が原因であって。向こうから襲ってくるってことはまずない」とおっしゃっています。

プロはイメージが違う!サメは慎重で臆病!?

痛い目の話題は、そのままサメの話へ。高砂さんが「サメだってみんな逃げますからね」とおっしゃると中村さんも同意されて

「臆病だよね。逆に写真を撮ろうと思って、人間が追いかけてるもんね。サメは臆病さと慎重さを持ち合わせているから、もう3億年も進化のしようがないぐらい進化してるんじゃないかな。死んでいる魚を目の前に置いても噛み付かないもんね。ぐるぐるぐる回った後、だんだん近づいて鼻で突っついたら、すっ飛んで逃げていく。『これは死んでいるよ、冷凍だよ』と言っても慎重。あの慎重さがサメの歴史を脈々とつなげているなのかなと」

高砂さんも襲われなかったエピソードがあるそうです。

「ミッドウェーに行って潜った時、コアホウドリが飛び立つ練習をする時期でした。すると、時々失敗して海に落ちちゃうコアホウドリがいるので、そのシーズンはサメがそれを目当てに集まっているんですよ。その時に潜ったもんだから、潜航していくとサメが何匹も追いかけてきて。そして、浮上してボートで上がろうとすると、周りをぐるぐる回りだして。だけど、慎重だからこっちに来て噛みつくとかはないんです。ずーっと回られました」

このお話について、中村さんはなぜ襲われなかったのかの見解をお話してくださいました。

「淳二のリズムが、非常に規則正しかったんだと思う。やっぱりリズムはとっても大事。リズムが崩れると病気や怪我をしてると思われて、それはイコール餌だから。穏やかにしていればいい。そうは言ってもビビってしまうんだけど」

ちなみに、ニュースで話題となるクラゲの“カツオノエボシ”についても、「人間が触りに行ってしまっている」とのこと。パシャパシャしていると、小魚がいると思って沖から近づいてくるものの、魚ではないとわかって去っていくそう。ところが、半透明で人からは全く見えないため、大人も子どもも泳いでいるうちに自分から近づいてしまい、毒針のある触手に触れているとおっしゃっています。

ナマケモノは怠けていない!学ぶところが多い

続いて、新種と名前の話題に。中村さんは「新種自身は名前をつけられるのは不本意だろう」とおっしゃると、高砂さんがナマケモノのエピソードをお話してくださいました。

「ナマケモノを何回か撮影していますが、すごい名前つけちゃったなと思っています。英語でも“SLOTH”という『のろま』みたいな名前で、スペイン語でも同じような名前だと聞きました。でも、ナマケモノは、現地のガイドさんの話とかを聞くと、とてもエコな動物だったんです。葉っぱを2~3枚食べただけでその日1日は間に合う。しかも、背中がしっとりと濡れていて、その毛にわざわざコケとかを生やして、時々その生えたコケを食べるという自給自足をしてるんですね。さらに、1週間に1度、自分の住んでいる木からおりて、お返しのように少し穴を掘って、根っこのところに大便をすると。その大便に関して、最近わかったようなんですが、背中のしっとりした毛の中に住んでいる蛾の仲間が、大便をしにおりた時に飛んでいき、大便に卵を産むらしいんですね。そして、その卵が孵ると、そのナマケモノの背中に住み着く。その上、ナマケモノはその蛾がいることで、もっとしっとりとして自分の食べるコケが増えるらしいんです。だから、共生関係にあって、怠けてもいないし、ノロマでもなくて、あれはエネルギーを最小限にして生きているわけです」

ボロカサゴやオジサンもちょっと可哀想?

名前で言うと、魚にも残念な名前があると中村さんはおっしゃっています。

「和名で『ボロカサゴ』。カサゴの仲間で、色んなヒラヒラをいっぱいつけているから、そう言われていますが、ボロですよ。ちょっと可哀想だなと。だけど、英名では、レースをまとったオコゼという。「Lacy Scorpionfish(レーシースコーピオンフィッシュ)」と言われていて、名前のつけ方が全然違う。美しいよね。あと、ヒゲがあるオジサンという魚もなんか申し訳ないという気持ちになる」

しんかい6500で見たマリンスノー

名前や生態など、不思議なことだらけの海の世界。特に深海は宇宙のようだという話題に。すると、中村さんが有人潜水調査船「しんかい6500」に乗った時のお話をしてくださいました。

「僕は“しんかい6500”で1313mまで潜りました。マリンスノーが見たくて。世界中に降り注いでいるらしいけれども、そのマリンスノーの量がすごかった。死んだプランクトンの死骸が分解され、白くなって、牡丹雪のように積もる。相当に栄養価が高いらしくて、深海の中層を泳ぐ魚のエサになり、また、深海の泥の上に積もることで深海生物の栄養の源となっているそう」

循環から感じる地球と生き物の神秘

そんな深海と循環の話で盛り上がったおふたり。高砂さんは地球の循環の凄さに感心しているそうで

「地球の中の循環というのは、深い海底の中まで全部続いてるんですよね。深層水の海流が1000年ぐらいかけて1周する。それが深いところの栄養分とかをまた持ち上げたりとかして。地球の循環というのは、人の知恵をはるかに超えていますよね」

そうおっしゃると、循環に関しては生き物もすごいと中村さんはおっしゃいました。

「その循環を海の生き物や鳥たちはみんなわかっている。いつどこで海流が湧き上がるか、いつどこで暖流と寒流がぶつかってプランクトンが上がってくるかがわかっている。そこはエサが豊富になるから集まる。イワシの大群が集まるサーディンランなんかもそうでしょ。そこにマグロもイルカも海鳥も来る。そのことをみんなが知っているというのがすごい!人間なんて気象予報が外れることもあるけれども、彼らは全く外れないでしょう。すごいなと思うんだよね」

「撮れなくなる」が多発するかもと危惧

最後に、おふたりは今後についてお話してくださいました。79歳の中村さんは、長く撮影し続けているものがあり、そのひとつが“東京”です。その東京の今後については「もう50年になるからそろそろ一区切り。ストーリーに終止符を打つ」とおっしゃっています。一方で、水中写真家として、まさかの問題に直面しているそう。

「生き物を何種類か定点的に観察して撮り続けているんだけど、それが一切いなくなってしまったんですよ。物語が途中で切れちゃう、繋がらないという事態で。そういうことはこれから多々あるんじゃないかなと思っているんですよね。だから、そうなると、そういう現実は現実として、その場その場で撮っていくしかない。こういう世界にしてしまった僕の責任もあるなと思いつつ、記録していくしかないなと思っています」

高砂さんも同じように、今まで撮っていたものが撮れなくなることがあるとおっしゃっています。

「今まで撮っていた氷がなくなってしまったというのがあります。その時、僕らは氷がなくなったで済むけど、氷に生きていたものたちは住む環境がなくなる。これはとんでもないことですからね」

そんな高砂さんは今後について、つながりや影響がわかる全体の流れを写真で撮っていけたらと展望を語っています。

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