私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回は、日本を代表する水族館の多くをプロデュースし、「水族館はメディアである」という独自の哲学を持つ中村元さんにお話を伺いました。鳥羽水族館の飼育係からキャリアをスタートさせ、数々のヒット展示を生み出してきた中村さんが、水族館の真の役割と、海に対する日本人の責任について熱く語ります。
メディア志望がたどり着いた「水族館」という現場
中村さんの水族館キャリアは、意外な動機から始まりました。元々メディア業界を志望していた中村さんは、成績の壁に阻まれて夢を諦めかけていた時、三重県の鳥羽水族館から経営・営業職で声がかかります。
水族館に興味はなかったものの「魚を見せて伝える場所だから、ここもメディアだ」と自身に言い聞かせ、入社を決意。しかし、生き物に関する知識のなさを痛感し、自ら願い出て3年間だけアシカチームの飼育係を経験します。
この飼育係の経験が、中村さんの転機となりました。
「先輩や同僚たちは生き物の知識が豊富でしたが、見に来る人のことを知らなかった」。特に忘れられない出来事がありました。タツノオトシゴは魚類であるにも関わらず卵でなく子どもを産み、さらに子どもを産むのはメスではなくオスだということを知ります。中村さんにとっては衝撃の事実でしたが、先輩・同僚にとってはそれが当たり前、一般の人にとっては驚くべきことだという認識がなかったのです。
中村さんは、ここに自然界の生物の面白さを伝える「メディア」としての水族館の可能性を見出しました。
世界初の映像が切り開いた「広報室」の道
ほどなく、中村さんは鳥羽水族館の中に当時の動物園・水族館にはなかった広報室を立ち上げることに成功します。勝因は飼育係3年目、当時出たばかりの家庭用ビデオカメラでスナメリの出産シーンを偶然にも撮影することに成功。それをテレビなどのメディアに融通したのです。その映像はNHK関係者から「世界初の鯨類の出産シーンだろう」と言われるほど貴重なものでした。
映像がテレビで全国に流れると、それまでスナメリをよく知らなかった人たちもスナメリ目当てに鳥羽水族館を来訪。この経験から「情報を発信すれば、必ずお客さんは増える」という確信を得て広報室設立の企画書を作成、社内でこれが通ったのです。その後、テレビ局と組んでタツノオトシゴの出産や、後にブームを巻き起こすラッコの映像を次々と提供し、鳥羽水族館を全国区の存在に押し上げました。
「天空のペンギン」と淡水魚への情熱
独立後、水族館プロデューサーとして数々の企画を手がけてきた中村さん。特に印象的な実績の一つが、サンシャイン水族館で「空を飛んでいるように見える」と話題になった「天空のペンギン」の展示です。
「ペンギンは水中を飛ぶ鳥。その姿をすぐにわかるように、そして彼らが縦横無尽に泳いでいることを見せたかった」と、中村さんは展示の意図を語ります。
さらに中村さんが誇りに思っているのが、小さな水族館で行った日本の淡水魚展示への挑戦です。
日本では人気がないとされる淡水魚に目を向けさせるため、北海道の北の大地の水族館で、以下のような世界初のユニークな展示を実現しました。
滝壺を下から眺める水槽
凍った氷の下で魚が春を待つ姿を見せる水槽
独創的な展示により、淡水魚だけの水族館にも関わらず集客に成功し、「小さくても特徴があり、魅力のある水族館」を作るという信念を証明しました。
水族館は「大人」のための教養施設
中村さんは、水族館の社会的な役割について、非常に明確な哲学を持っています。
「水族館は子どもたちに教える場所ではなく、大人に教える場所です」。
社会教育施設である水族館や博物館は、法律上「青少年から成人」が対象と規定されています。青少年とは一般に12歳から18歳ぐらいまで。つまりいわゆる“子ども”ではないのです。中村さんは、自然の生物を水槽に閉じ込めていることを「かわいそうでしょうがない」と感じながらも、そこに水族館や動物園の意義を感じています。
それは「野生の状況を大人たちに知ってもらい、世の中を『これまずいな』『これ大事にしなくちゃいけないな』と考える人を増やす」こと。
例えば、葛西臨海水族園でのマグロ展示が象徴的だといいます。市場やスーパーや飲食店で見る頭のない切り身の状態が、一般の人たちが思い浮かべるマグロ。しかし、生きて、美しく、キラキラと泳ぎ回る姿で見ることによって、私たちが、大きくて優雅に海で生きている生物を「食べる」行為に対する教養を持ち、責任感を感じることに繋がります。
「生き物を閉じ込めているのは、彼らの海に棲んでいる仲間たちのために、必ず良いことになるからだ」—中村さんの展示へのこだわりは、この強い使命感に根ざしています。
最後に中村さんは、日本は海に囲まれた島国なので「日本人こそ、世界中の海の環境を守り、持続させていく先頭に立つべきだ」と、海に対する強い思いを話して下さいました。水族館は、そうした意識を大人に伝える、唯一無二の場所なのです。

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