私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回は、1999年から北米の「ノースウッズ」をフィールドに、森と湖、そして野生動物の生命を追い続ける自然写真家、大竹英洋さんにお話を伺いました。敬愛する写真家・星野道夫さんの影響を受け写真家となった大竹さんが、星野さんの足跡を辿ったアラスカの旅で経験した、時空を超えた奇跡の出会いについて語ります。
大陸の中心、ノースウッズという原生の森
大竹さんが20年以上にわたって撮影を続ける「ノースウッズ」は、北米大陸中央北部に広がる、森と無数の湖が散らばる湖水地方です。山がなく、どこまでも広がる世界最大級の原生林には、世界最大の鹿であるムース(ヘラジカ)やアメリカクロクマなどが生息しています。
この地で大竹さんが追い続けるのが、日本では絶滅してしまった野生のオオカミ。大竹さんの代表作『そして、ぼくは旅に出た はじまりの森 ノースウッズ』や『ノースウッズ─生命を与える大地─』には、この森と生命の物語が収められています。


星野道夫の訃報が指し示した写真家の道
大竹さんが写真家を志すきっかけとなったのは、1996年夏、大学2年生の時に新聞で見た星野道夫さんの訃報でした。
「一体どんな方だったんだろう」と本屋に駆け込み星野さんの写真集を開いた瞬間、「初めて写真の力に打ちのめされた」と言います。その写真からは、アラスカの風が吹いてくるような臨場感と圧倒的な説得力を感じたそうです。 カメラを触ったこともなかった大竹さんでしたが、「自然のことを伝えるなら、写真家として伝えたい」と決意。特に星野さんの、ただ撮影地に出かけるのではなく、アラスカに住み、フィールドに身を長く置いてじっくり時間をかけて自然を理解しようとする姿勢から生まれる、哲学的で深く考えさせてくれる作品に強く惹かれました。
奇跡:30年の時を超えて出会ったザトウクジラ
写真家となって20年目、大竹さんにNHKから星野さんの足跡を辿るアラスカの旅のオファーが舞い込みました。半年間の旅の中で、星野さんがテーマにしていたザトウクジラを追うため、南東アラスカの海域を訪れます。
そこは、氷河が削り取った山肌のミネラルが混じり合い、栄養分が非常に豊かな「豊穣の海」です。遠くのフィヨルドを望む海面には、10頭以上のザトウクジラが餌を求めて群れていました。
その旅の出発前、撮影隊はクジラの研究チームと協力し、星野さんが90年代に撮影した尾びれの裏側の写真23枚を研究者に送りました。そこから20の個体が識別され、そのうち11体が「まだ生きている可能性が高い」ことが判明したのです。
そして、広大な海でクジラを追う旅の最中、ついに大竹さんは星野さんが30年以上前に出会ったのと同じクジラと再会を果たします。
尾びれの模様で識別されたその個体は、研究者によって「コルヌコピア(豊穣の角)」と名付けられていました。そのクジラが仲間たちと元気に群れで移動する姿を見た瞬間、「胸にぐっと迫るものがあった」と言います。 「僕が星野さんに出会った時間と、星野さんがこの海域で撮影をしていた時間、そしてこのクジラが生きている時間が、クジラを介してクロスした瞬間でした。生前お会いできなかった星野さんの情熱に触れることができたような、本当に不思議で感動的な体験でした。」

26年ぶりに届いたタイムカプセル:星野の最終フィルム
さらに、今回の旅ではもう一つの奇跡が起こります。
アラスカにある星野道夫さんの家で、26年間行方不明だった星野さんのカメラが地下で見つかりました。取り出されたカメラのカウンターには「7」の数字。中にフィルムが残され、何枚か撮影された後だと判明したのです。
現像されたフィルムに写っていたのは、星野さんが亡くなる1年前に撮影したホッキョクグマの親子の姿でした。26年の時を経て退色し、ぼんやりと色が抜けたその写真は、奥様が言う「26年前から届いたタイムカプセル」でした。
大竹さんは、このフィルムを見た時に、「星野さんから、26年前に撮ったこの世界は今も残されていますか? と問いかけられたようだ」と言います。
「記録して時間が経てば経つほど、その記録は力を持つ」—この経験を通じ、大竹さんは自身のメインフィールドであるノースウッズで、オオカミの内面や精神性に迫るような撮影、そして自然と共に暮らす先住民の人々の姿を、時間をかけて記録し続ける決意を新たにしたそうです。 大竹さんが写真を通して伝える、自然のメッセージにこれからも注目です。

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