今井栄一

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

渡航歴が100回を超えるハワイマスター、ライター&エディターの今井栄一さんに、彼が愛してやまないハワイの海と文化、そしてマウイ島の復興への静かな祈りについてお話を伺いました。今井さんの言葉からは、ハワイの海が単なる美しい景勝地ではなく、人々の生活と精神に深く根ざした、「生きている存在」であることが伝わってきます。

島々が紡ぐ、千の顔を持つ海

今井さんがハワイの海に魅了され続ける理由は、その多様な表情にあります。ハワイはオアフ島、ハワイ島、マウイ島など、個性豊かな島々からなる諸島です。

「一言で言うのは難しいのですが、ハワイでは島ごと、そして地域ごとに海が全く違う顔を見せてくれるのが魅力です。ワイキキの穏やかな海と、火山が作り出したハワイ島の荒々しい海岸線では、色の深さも、波の力強さも、すべてが異なります。まるで、訪れる場所の数だけ個別の物語が海に宿っているように感じるのです。」

Oahu
Big Island
Molokai

また、ハワイの文化や言葉にも、日本人が古来より大切にしてきた感覚と響き合う部分があると言います。ハワイ語には、一つの「雨(rain)」を表現するのではなく、優しく降る雨、激しく降る雨など、自然を形容する豊かな語彙があります。これは、日本の「八百万の神」の思想や、自然の微細な変化を捉える日本語の豊かさに通じるものがあり、今井さんの心を強く惹きつけています。

祝詞に応えた、ザトウクジラの奇跡のジャンプ

数多くの思い出の中でも、今井さんが「忘れられない」と語るのが、ハワイ島のコナコーストで体験した奇跡的な瞬間です。

冬になると、ザトウクジラが親子で回遊してくるコナコーストで、今井さんはクムフラ(フラのマスター)であるダニエル・アカカさんを取材していました。海に向かってアカカさんがハワイ語の「チャント」(祝詞)を捧げる最中、彼は途中で聖なる言葉を間違えてしまい、アカカさんは仕切り直して再びチャントを海に捧げました。

「その祝詞が終わった、まさにその瞬間、僕らがいるところからわずか200〜300メートル先に、ザトウクジラが大きな体でジャンプしたんです。それは、まるでアカカさんの心からの祈りに、クジラが『応え』てくれたとしか思えない光景でした。」

タイミングがあまりに完璧だったため、「もし間違えずにチャントを続けていたら、この瞬間は訪れなかったかもしれない」という思いが頭をよぎったと言います。ハワイの海は、時にこのように、人間の情熱や祈りに「会話」するかのような、神秘的で畏敬の念を抱かせる瞬間を与えてくれる場所なのです。

海は「心と体を整える」聖域

ハワイに住む人々にとって、海は単なる生活の場以上の「聖域」のような存在です。今井さんは、ハワイの早朝と夕方の光景を、深く心に残るものとして語ります。

「早朝、日が昇る直前の静寂の中、地元の人々は仕事や学校に向かう前のわずかな時間を利用して海にやってきます。彼らはサーフィンや遠泳、カヌーを漕ぐことで、一日を始める前に心と体をリセットし、自分自身を整えます。

また、観光客が夕食のために去った後の夕方も、海は特別な表情を見せます。夕日が沈んだ後のトワイライト(マジックアワー)を求めて、仕事を終えた家族や恋人同士が、三々五々ビーチに集まります。そこでバーベキューする人もいるし、何もせず、ただそこに座って空と海が織りなす残照を眺めている人もいる。

「海が一番リラックスできる時間」を知り尽くした地元の人々の姿は、とても平和な光景ですよね。」 ハワイの人々にとって海は、日々の喧騒から離れ、ゆとりと安らぎを取り戻すための、なくてはならない存在なのです。

マウイへの思いを込めた「12の物語」

今井さんは、2023年8月に発生したマウイ島の大火災を受け、復興支援のための書籍『Dear Maui マウイを巡る12の物語』の制作に参加しました。

この本のきっかけは、火災でラハイナの街が消滅したことに大きな衝撃を受けた、小さな出版社の女性の「本を作って、売り上げをマウイに送りたい」という強い思いでした。

今井さんは、エッセイストとして参加し、マウイ島を拠点とするハワイのスターシンガー、ケアリイ・レイシェルとの出会いの旅の思い出を綴りました。また、ハワイアンルネッサンスのきっかけとなった名盤『ギャビー』のプロデューサーに会いに行った話など、ハワイの音楽と文化に深く関わった自身のルーツを一つの物語にまとめ上げました。

この本には、高砂淳二さんら一流の写真家による美しい写真が添えられ、その全収益がマウイ島の復興支援に充てられています。「ぜひ、この美しい本を手に取り、ハワイアンミュージックを聴きながら、マウイへの温かい思いを寄せてほしい」と今井さんは語り、ハワイへの深い愛と、再生を願う静かな祈りを込めています。

このコーナーはAuDeeでも配信中です。ぜひアクセスしてみてください!

アーカイブ

  • 井植美奈子

    海の環境をおいしく守る「ブルーシーフードガイド」

    井植美奈子

    一般社団法人 セイラーズフォーザシー日本支局 理事長兼CEO

  • 畠山信

    「森づくりは、人づくり」かき漁師・畠山重篤さんの遺志を受け継ぎ未来へ

    畠山信

    牡蠣漁師、森は海の恋人 理事長

  • リサ・ステッグマイヤー

    ハワイの海が教えてくれること~オープン・ウォーターに魅せられて

    リサ・ステッグマイヤー

    タレント

  • 中村英孝

    日本初!「さかな」の専門学校で学ぶ若者たちの未来

    中村英孝

    日本さかな専門学校 学務課長

  • 村山司

    イルカの言語能力を探る旅

    村山司

    東海大学 海洋学部 海洋生物学科 教授

  • 矢澤良輔

    日本の漁業を変える可能性を秘めた“代理親魚技法”

    矢澤良輔

    東京海洋大学 教授