平坂寛

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

ゲストは、生き物ハンターで生き物ライター、そして人気YouTuberでもある平坂寛さん。今回は、最新著書『釣って 食べて 調べる 深海魚』をもとに、私たちが知らない深海魚の生態、美味しさ、そして尽きることのない探求のロマンについて語っていただきました。

「深海魚スイッチ」が入った瞬間

平坂さんは幼い頃から生き物全般が好きでしたが、深海魚に対しては「生きた姿を見られない」「実在感がない」という理由から、当初は興味が薄かったと言います。

しかし、大学生・大学院生の頃に深海魚釣りの船を発見し、静岡の駿河湾へ。そこで釣り上げたのが「バラムツ」でした。

「水圧の変化で目が飛び出したり、形が変わったりすることが多い深海魚の中で、バラムツは浮き袋を持たないため、美しい姿のまま釣り上がってくるんです。生きてビチビチ動いている深海魚を間近で見たことに、僕はものすごく感動しました。」

この体験がきっかけで、平坂さんの「深海魚スイッチ」が入り、深海魚の魅力にのめり込んでいきました。

日本の深海は「世界一身近な秘境」

平坂さんは、日本は世界的に見ても深海が非常に身近な国だと語ります。

「世界中の研究者が日本のことを羨ましいと思っています。駿河湾であれば、港からわずか10〜20分で水深200mを超えてしまう。急深な地形のおかげで、私たちは様々な深海魚に出会いやすい土地に生まれているんです。」 深海魚は身近でないと思われがちですが、実はタラやキンメダイ、高級魚のノドグロ(アカムツ)なども水深200m以深に生息する立派な深海魚です。

なぜ深海魚は美味しい?その秘密は「油」

平坂さんの本の中で気になるのは、「深海魚が美味しい理由」です。見た目がグロテスクなイメージとは裏腹に、美味しい深海魚は多いと言います。

その美味しさの秘密の一つが「油」です。

バラムツやアブラボウズなど、名前に「油」がつく深海魚の多くは、全身が大トロのように油が乗っています。これは、彼らが深海で浮力を得るための生存戦略です。多くの魚は浮き袋で体を浮かせていますが、水圧の変化で破裂するリスクがあります。そのため、アブラボウズなどの一部の深海魚は浮き袋を持たず、水より軽い油を体に蓄えることで浮力を保ち、自由に動き回れるように進化しました。この油が、人にとっては極上の美味しさとなるのです。

アブラボウズ

「水っぽい魚」と「黒いお腹」の謎

一方で、「これはまずかった」という深海魚もいます。

駿河湾でよく見られる「ミズウオ」は、全身が水っぽく、身は透明でクラゲのよう。フライにしても衣がふやけてしまうほどで、「ナタデココみたいな」食感だと平坂さんは表現します。ミズウオもまた、油ではなく水を蓄えることで、体全体の密度を周りの海水に同調させ、少ないエネルギーで漂うという、独自の戦略を取っています。

また、高級魚ノドグロの「お腹が黒い」理由にも、深海ならではの秘密があります。 彼らの餌であるホタルイカなどの発光生物は、食べられた後も腹の中で光を放ちます。腹の膜が薄いと光が外に漏れ出し、サメなどの捕食者に自分の居場所を教えてしまうため、ノドグロは喉とお腹を黒い膜で覆い、光が漏れないように身を守っているのです。

ガイドブックに載っていない新種との出会い

平坂さんの深海魚探しの醍醐味は、まだ誰も知らない魚との出会いです。

かつて、平坂さんが釣り上げたアオスミヤキという魚は、当時ほとんど標本が存在しない希少種でした。写真を研究者に送ると「絶対食うな」という連絡が来たほどで、そのとき平坂さんは「ガイドブックに載っていない隠れた名店を探すような、生き物探しの旅」に目覚めたと言います。

「なんでこんな色をしているの?」「なんでこんな形なの?」といった素朴な疑問こそが、深海魚研究の全てだと平坂さんは語ります。

最後の秘境が持つ「巨大な可能性」

現在、平坂さんは個人で釣り上げる深海魚の水深記録に挑戦しており、今後も海外や国内のより深い海域で、新種の深海魚を追いかけ続けたいと熱く語ります。

「私のようなフリーライターが個人で新種を発見できる可能性を秘めた場所が、海の中でも深海なんです。」

長年、海の生き物と向き合ってきた平坂さんは、海、特に深海を「巨大な可能性の塊」だと捉えています。

「人間の未知、これから知るべきこと、知りたいことがすべて詰まっている場所。僕にとって最後の秘境です。」

深海は、私たちに常に新しい発見とロマンを与えてくれる、尽きることのないフロンティアです。

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