奥泉和也

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回は、山形県の鶴岡市立加茂水族館 館長の奥泉和也さんをお迎えしました。クラゲ展示で世界的に知られる別名「クラゲドリーム館」の生みの親である奥泉館長に、廃館になりかけていた水族館復活の奇跡と、それを救ってくれたクラゲから見えてくる海の課題について伺いました。

潰れる寸前の水族館を救ったクラゲと飼育員魂

加茂水族館は1930年開館の歴史ある水族館ですが、奥泉さんが働き始めた約30年前は年間来場者数が10万人を割り込み、いつ潰れてもおかしくないというどん底の状態でした。

そんな窮地を救ったのが、今や水族館の代名詞となり、世界的なブームを起こした「クラゲ」です。

きっかけは、なんとか集客を図ろうと開催した特別展でした。準備をしている時にサンゴの水槽に正体不明の4mmほどの生物が泳いでいるのが見つかったのです。それが何であれ、生物を生かし、飼育するのが飼育員魂。奥泉さんたち飼育員は面倒を見始めました。知人に尋ねて正体が判明したその「サカサクラゲ」は成長し、増え、2ヶ月ほどたって500円玉の大きさになった段階で展示したところ、お客さんが大喜び。

「アシカショーやラッコを入れても反応が薄かったのに、クラゲは誰が見ても本当に楽しそうに見ていた」—この気づきが、加茂水族館がクラゲで館を復活させる転機になりました。

トライ&エラーで世界に一つだけの水槽へ

現在、加茂水族館には約86種類、5万匹以上のクラゲが展示されています。この展示を可能にしているのが、奥泉館長が設計したオリジナルの水槽。

経済的に厳しかった当初は、クラゲ用の水槽を買うことは出来ず、一般の魚用の水槽で飼育していました。しかし、クラゲはすぐに死んでしまう。そこで、奥泉館長はクラゲが死んでしまった原因を記録し、その原因を1つずつ取り除いていったのです。「擦れて死ぬなら擦れないように」「吸われて死ぬなら吸われないように」と水槽を改造するトライ&エラーを積み重ねた結果、独自のノウハウと水槽開発に成功しました。

その成果が実り、今や加茂水族館は「クラゲ好きの聖地」と呼ばれ、クラゲにさほど関心がなかった人でも「加茂に来たらクラゲ通になる」と言われるほどの展示を誇ります。

クラゲの世界の深さと多様性

奥泉館長は、クラゲと接する中で、その「美しさ」と「増え方、育成の面白さ」に尽きない魅力を感じています。

クラゲとはゼラチン質を持ち水の中を漂って生活する動物の総称。大きく、サンゴやイソギンチャクと同じように毒針を持つ「刺胞動物」と毒針はなく光が当たると虹色に輝く「有櫛動物」の2つのグループに分けられます。

クラゲは地球上に5億年以上前から存在していたと考えられていて、現在も4,000種以上いるにもかかわらず、水族館で展示されているのはわずか2%程度。「もっともっと可能性のある展示」だと、奥泉館長はコレクションする楽しみに目を輝かせます。

休館後のリニューアル:海の汚染を伝える

加茂水族館は2025年11月から2026年3月まで休館して、その後にリニューアルオープンします。

今回のリニューアルでは、展示が変わるだけでなく、奥泉館長が「自分が退職しても10年後、15年後でも通用する」と自信を持つ最新の研究ラボがバックヤードに新設されるそうです。

奥泉館長が今後、加茂水族館から強く伝えていきたいテーマは「生物の多様性」と「海洋汚染」です。加茂水族館では、コロナ禍をきっかけに海ゴミの展示を行っています。水槽の中の生物と一緒にゴミを展示したり、アート作品として分類したりしています。

特に印象的なのは、クラゲの飼育が得意な水族館だからこその展示。クラゲの水槽のすぐ後ろに、ミズクラゲとビニールゴミを並べて漂わせることで「似ているでしょう?」と来館者に問いかけます。ウミガメやマンボウがビニール袋をクラゲと間違えて食べてしまう現状を視覚的に訴えかけているのです。

また、日本には大陸からのゴミが漂着しているのはよく知られていることですが、実はハワイやアメリカ西海岸には日本のゴミが流れている現実を展示しています。

「大人は諦めていますが、子どもたちにしっかりと現状を見てもらい、次に繋いでもらう」—奥泉館長の言葉には、未来の世代に美しい海を残すための、切実な願いと決意が込められています。

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