私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回は、琉球大学理学部海洋自然科学科生物系教授の池田譲さんに、イカやタコなど「頭足類」の驚くべき生態について伺いました。頭足類学という新しい学問分野の創設を目指す池田先生が語る、イカとタコの「知の世界」とは、どのようなものなのでしょうか。
頭足類とは:イカ、タコ、そしてアンモナイト
頭足類とは、イカとタコを主な構成員とし、絶滅したアンモナイトや現生のオウムガイを含む生物のグループです。特徴は、文字通り頭から直接「足」(専門的には「腕」)が出ていることで、世界には約700〜1,000種類が生息していると言われています。
池田先生が頭足類の研究を始めたのは大学院時代。当初はグッピーのホルモン研究をされていましたが、赴任してきたスルメイカの研究者との出会いをきっかけに、ミステリアスなイカの世界に魅せられました。
「ウナギのように、意外と身近な海産物ほど生態が分かっていません。スルメイカも、いまだに自然産卵された卵が海中で見つかっていません」と、未解明な部分が多いことが研究の面白さだと語ります。
「海の霊長類」:高度な目と大きな脳
フランスの海洋冒険家ジャック・クストーが提唱した「海の霊長類」という言葉の通り、イカとタコは無脊椎動物の中で極めて知性の高い動物です。
イカ・タコは、昆虫のような複眼ではなく、私たちと同じような大きなレンズが1つある眼を持っています。無脊椎動物でありながら脊椎動物と同じく高い精度で物を見ることができるのです。
そして、背骨がない動物の中でイカとタコは体の割に大きな脳を持っています。魚や爬虫類よりも大きく、鳥類や哺乳類に近い知的基盤を持っていると言えます。脳が大きいことで、彼らは学習や記憶といった高度な行動が可能です。さらに、全身の神経を駆使して体色を瞬間的に変化させ、周囲の風景に擬態するなど、非常に高度な行動を可能にしています。
イカの「社会性」とタコの「観察学習」
イカとタコは、知性だけでなく、それぞれに独自の社会性を持っているといいます。
イカの複雑な群れ社会:
イカの群れは、ただ集まっているだけでなく、その中で役割が分かれていて、例えば見張り役がいる、構成員にヒエラルキー(階層)があるとか。さらに、池田先生の研究室の調査では、群れの中の個体同士に仲の良さなど、個々のつながりがあることも分かっていて、彼らの社会が非常に複雑なものであることが見えてきたといいます。
タコの高度な知性:観察学習:
イカ以上に知性で注目されているのがタコで特に学習能力が極めて高い動物。特に、観察学習ができることが実証されています。これは、同じ種の仲間がやっている行動を、見て真似してできてしまうという能力で、人に近いとされるチンパンジーでも難しいとされる高度な学習です。
また、タコは腕にある200個ほどの吸盤が触覚として働き、腕で触ることによって物の形などを把握し、世界を理解しています。これは「腕で考える動物」とも言えるでしょう。最近の研究では、タコも人間と同じように自身の手が見えないようにした上で、ニセモノの手と本物の手を同じように刺激すると、ニセモノの手が本当の手のように感じてしまうという「ラバーハンド錯覚」を起こすことが実験で明らかになり、その知性の深さが次々と解明されています。 「なぜ彼らだけが、系統的には遠く離れた霊長類の人間と同じような目や大きな脳を持っているのか。知性というものがこの地球上にどうやって現れたのかを考える上で、イカ・タコは非常に重要な観察対象です」と池田先生。ひょっとしたら、イカ・タコが地球上で先に知性を発揮していたのかもしれないという、壮大な謎の解明に挑んでいます。
沖縄の海と環境の変化
沖縄に在住されている池田先生にとって、海は研究対象であり、身近な存在です。
「沖縄の海は本当にきれいな青い珊瑚礁ですが、一方で、アメリカ軍基地の移設など、人為的な手が加えられることもあります。海は本来、私たちのものではありません。それを人が手を加えることで変えていってしまうという現状は、いつも感じています」と環境変化への危機感をにじませます。 頭足類という貴重な研究対象の生態系を守るためにも、海洋環境への配慮は不可欠。池田先生は、今後もイカやタコの社会、コミュニケーション、知性といった、まだ解明されていない分野の研究を続け、彼らがなぜ高度な知性を持つに至ったのかという根源的な謎に迫っていきたいと語りました。

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