保坂直紀

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回は、サイエンスライターの保坂直紀さんにお話を伺いました。東京大学大学院で海洋物理学を専攻し、長年、科学記者として活躍されてきた保坂さんに、地球規模の海洋プラスチックごみ問題について、その本質と私たちにできることを聞きました。

海を科学する:海洋物理学の視点

保坂さんが大学院で専攻していたのは、海洋物理学。これは、地球の表面を覆う海の「流れ」、つまり海流がどのようにして生まれるのか、そのメカニズムを物理学の観点から解き明かす学問です。

「海流と気象の研究はとても似ています。どちらも流体(水と空気)を扱い、使っている物理学の方程式もほとんど同じなんです」。

地球表面の約7割を占める海は、私たちにとってまだ未知の領域が多いと保坂さんは言います。その「わからないことが多い」という点に研究のやりがいを感じ、海洋研究の道に進みました。気象と海は密接に関わりあっていて、地球温暖化も大気だけの現象ではなく、海と一体となって進行していると指摘します。

プラスチックの功罪:便利さの裏に潜む問題

一方で、保坂さんは、「海のプラスチックごみ 調べ大事典」「海洋プラスチック 永遠のごみの行方」といった海洋プラスチックごみに関する著書を執筆しています。そもそも、なぜプラスチックごみが問題になるのでしょうか。

「プラスチックは、安く、丈夫で、衛生的。とても良い素材だからこそ、私たちの生活の隅々にまで広がりました」。

しかし、その「丈夫さ」が、使い終わった後には大きな問題となると保坂さん。生ごみのように土中のバクテリアに分解されて消えることがないため、いつまでもごみとして残り続けます。街で不注意に捨てられたプラスチックごみは、雨水と共に川へ流れ込み、やがて海へとたどり着いてしまうのです。

クジラやウミガメがビニール袋をクラゲと間違えて食べてしまうことはよく知られていますが、保坂さん海のプラスチックごみに特に注目したきっかけは「マイクロプラスチック」でした。

「2015年頃から『マイクロプラスチック』という言葉が広まり、東京湾のイワシの体内からも検出されることがわかりました。ということは、私たちも知らないうちにそれを食べている可能性が高い」これをきっかけにマイクロプラスチックごみについて調べ、執筆するようになりました。

未知の健康被害と途方もないごみの量

人間の健康への影響はまだはっきりと分かっていませんが、プラスチックに添加されている薬剤が、魚や鳥の体内に蓄積されているという研究結果もあると保坂さんは言います。

現在、世界中の海に存在するプラスチックごみの正確な量は不明ですが、一説には1億5千万トンとも言われています。そして、毎年新たに1千万トンのごみが海に流れ込んでいると推測されています。

「北極や南極といった遠い場所でもプラスチックが見つかっていることから、海全体にごみは広がっていると考えるのが自然でしょう」。

解決への道筋:一人ひとりの意識改革から

この海洋プラスチックごみ問題を根本的に解決することはできるのでしょうか。

「一度海に流れ込んだプラスチックはなかなか消えてくれません。私たちが流れ込む量をゼロにしても、問題が解決するわけではないんです」。

保坂さんは、まず「これ以上ごみを増やさない努力」が大切だと語ります。

世界的にプラスチックの生産量を減らすための国際会議が開かれていますが、各国の思惑が絡み合い、厳しいルールはなかなかできません。

プラスチックごみを燃やして熱エネルギーに変える「サーマルリサイクル」のような日本の独自技術もありますが、地球の温暖化を止めるためのCO2削減に反してしまうという問題を抱えています。また、リサイクル品は新品よりも品質が劣るというイメージや、消費者の意識も、リサイクルを阻む大きな壁になっていると保坂さんは指摘します。

「まずは、私たち一人ひとりがプラスチックごみを出さない意識を高めることが大切です」。

プラスチックは注射器や点滴パックのように、医療現場では欠かせない便利な素材です。しかし、使い捨てなくてもいいものは繰り返し使う、そして、ごみはきちんと分別して捨てる。そうした意識が広まれば、企業も積極的に環境対策に乗り出し、社会に大きなムーブメントが生まれるはずだと語ります。

海への愛:汚したくないという思い

最後に、保坂さんに好きな海について伺いました。

ご両親が函館出身で、幼い頃から海に親しんできた保坂さん。特に印象深いのは、新婚時代に訪れた能登半島の美しさや、この夏に旅したギリシャのミコノス島の海だと言います。

「エメラルドグリーンから紺碧の青に変わっていく海の美しさと、真っ白な建物のコントラストを見た時、『この景色を汚したくないな』と強く思いました」。

日本にも、沖合に出れば世界に誇れる紺碧の海が広がっています。その豊かな海をいつまでも守っていくために、私たちはまず、身近なプラスチックごみ問題に目を向けることから始めなければならないと、保坂さんは言います。

「安心して美味しい魚が食べられるようになるといいですね」。

私たち一人ひとりの行動が、未来の海の景色を変えていくことになるでしょう。

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