鹿谷麻夕

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回は、沖縄で自然ガイドや環境教育を行っている「しかたに自然案内」代表の鹿谷麻夕さんに伺いました。東京出身でありながら、沖縄の海に魅せられ、その保全活動に人生を捧げる鹿谷さん。その情熱の源に迫ります。

東京から沖縄へ:海への情熱が導いた新たな道

東京で社会人として働いていた鹿谷さんですが、「海の生き物やサンゴ礁のことをもっと学びたい」という思いから、25歳で沖縄の琉球大学に入り直しました。しかし、学びを深める中で、サンゴ礁の環境変化を目の当たりにし、研究よりも「自然を守ること」を積極的に行わなければならないと感じるようになったと言います。

「よそ者や研究者が『ここは大事だ』と言うよりも、地元の方々が『この海は本当に大事だよね』と言ってくれた方が、きっと保全の声につながるはずです」。 当たり前のように海に囲まれていても、地元の人々がサンゴ礁の仕組みや豊かさを学ぶ機会は少ないという現実に気づいた鹿谷さん。「研究の世界と社会を結びつけ、地域の人々に海の魅力と大事さを伝えたい」という思いから、環境学習を始めることを決意しました。

遊びの中から学ぶ、サンゴ礁のひみつ

鹿谷さんが行う環境学習は、シンプルで楽しい自然観察会がベースです。

沖縄の人々にとって海は「ビーチパーティーをして遊ぶ場所」というイメージが強く、サンゴ礁はいろんな生き物がいて楽しい反面「危険生物がたくさんいる危ない場所」と思われがちです。

「まずは海がどういう場所かを楽しみながら知ってもらう機会を作っています」。

潮が引いたサンゴ礁の干潟を歩き、親子で海の生き物を観察します。その中で、安全に楽しむためのマナーも伝えているそうです。

「石の裏を覗いてカニを探したら、ちゃんと元の場所に戻す。マリンシューズを履いて怪我を防ぐ。そんなシンプルなルールを守るだけで、より安全に海を楽しめるようになります」。

守り続ける「天然記念物」:オカヤドカリの魅力

しかたに自然案内のウェブサイトでは、沖縄に生息する様々な生き物が紹介されています。たとえば、鹿谷さんが「絶対に誰でも知っている」という、砂浜に住むオカヤドカリです。

ヤドカリは本来、海の生物ですが、陸上での暮らしに適応したグループです。

「砂浜にキャタピラーみたいな足跡をつけているので、満ち潮の時でも探して遊べます。そして何より、天然記念物なんです」。

沖縄ではたくさん生息しているため、地元の人にとっては身近な存在ですが、法的には採取したり触ったりすることはできません。

「ヤドカリが貝殻を交換したり、時には喧嘩をしたりする様子を観察するのは本当に面白いですよ」。 生き物のリアルな「コミュニティ」や「生き方」を間近で見ることができるのが、オカヤドカリの魅力だと話してくれました。

伝統料理に隠された海の恵み:「スクガラス豆腐」の物語

沖縄の食文化にも、海と人々の関わりを示す興味深い物語があります。

豆腐の上に小さな魚が乗っている「スクガラス豆腐」。この「スク」は、実はサンゴ礁の藻場を食べてしまうため、本土では厄介者扱いされるアイゴという魚の稚魚です。

「スクガラス」は沖縄の方言でアイゴの稚魚「スク」と、塩辛を意味する「ガラス」と合わせて「スクの塩辛」という意味になります。

スクを塩辛にするのは、アイゴの生態と深い関係があります。

アイゴの稚魚は、サンゴ礁の沖で生まれ、2センチほどに成長すると、藻類を食べるために群れで浅瀬に入ってきます。この食性が切り替わる直前の1〜2日間だけが、スクを獲るタイミングです。

「この短い期間を過ぎて藻類を食べ始めると、お腹に磯臭さが出てきてしまうんです」。

干満の差が大きい旧暦の6月と7月の特定の時期にしか獲れないスクを、海人たちは小舟から海に飛び込み、網を使って群れを追い込んで獲ります。鹿谷さんは、漁港で獲れたてのスクを買って、刺身で食べたことがあると言います。「お刺身にすると、すごく濃い旨味がして、噛みしめるほど美味しいんですよ」。

自然の回復力を信じて:未来へのメッセージ

沖縄の海を30年間見続けてきた鹿谷さんは、生き物の数が昔の10分の1に減ってしまったという現状を語ります。しかし、同時に自然の回復力も信じていると言います。

「1998年に大きなサンゴの白化が起きましたが、その後見事に持ち直した時期もありました。だから、海の環境を良い状態に保ち、温暖化が収まったときに、生き物たちが帰ってこられる海を残しておくことが大事なんです」。

そのために、私たちにできることはたくさんあります。

「赤土を流さない、農薬やゴミを流さない。こうした陸からできるアクションを、子どもたちや若い世代に伝えていきたいです。将来、彼らがどんな仕事に就くとしても、その仕事が自然環境にどういう影響を与えるかを想像できる人が増えたら、陸からの影響は減らせるはずです」。

「50年後、100年後の子どもたちに、またサンゴ礁を楽しんでもらいたい」。

その思いを胸に、鹿谷さんは今日も「豊かな海だよ」と伝え続けています。

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