私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
前回に引き続き、沖縄美ら海水族館館長で日本を代表するサメの研究者、佐藤圭一さんをリモートでお迎えしました。沖縄美ら海水族館といえば、ジンベエザメが悠々と泳ぐ「黒潮の海」大水槽で知られていますが、その研究活動は多岐にわたります。今回は、佐藤さんの研究者としての原点や、海の未来に向けた思いを伺いました。

偶然の出会いから始まった「サメ一筋」の研究人生
栃木県という海がない場所で育った佐藤さんが、サメの研究者になったのは「実はたまたま」でした。海の科学に憧れて北海道大学に進学した佐藤さんは、そこで偶然、サメ研究の権威である仲谷一宏先生と出会います。
「仲谷先生に出会ったことで初めてサメの世界に触れました。それからもう30年以上、この世界で生きてきました」と語る佐藤さん。北海道から沖縄へ、サメ一筋で研究を続けてきた情熱が伝わってきます。
長年の研究活動の中で、海の環境変化を感じることはあるのでしょうか。
「サメだけでなく、いろんな生き物に影響があると思います。沖縄だとサンゴの白化、北の海では魚種が変わる。イカが獲れなくなったり、逆にブリが獲れるようになったりしています」。
そして、サメに関して最も大きな変化は「大型のサメが絶滅危惧種になること」だと指摘します。 「餌となる魚が減る、海水温が変化する、そして人間が獲りすぎた、そういったことでサメが減っている事実はあります」。

90種ものサメが生息する豊かな沖縄の海
沖縄周辺には、なんと90種ものサメが生息していると言います。これは世界のサメ全体の約6分の1にあたる数です。
「種類が多いのは、沖縄の周りの海が浅い海から深い海まで、多様な環境があるからだと考えています」と佐藤さんは説明します。
サメの半分以上は深海に生息しており、私たちが抱くサメのイメージとは異なる世界が広がっていることを教えてくれました。佐藤さんの著書「サメすご図鑑」(KADOKAWA)には、そんな知られざるサメの世界が凝縮されています。

「なぜ役に立たない研究をするのか?」:好奇心こそが原動力
佐藤さんたちが執筆したもう一冊の本「沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか? サメ博士たちの好奇心まみれな毎日」(産業編集センター)という、インパクトのあるタイトルにも驚かされます。なぜこのタイトルにしたのでしょうか。
「ある人から『水族館で研究やって何か意味あるんですか?』と聞かれたことがきっかけです。意味というより、特に役に立つわけではないけれども、これは大事なことだと伝えたくて、本のタイトルにしました」。

この本を読んだことで「もっとサメや海のことを知りたい」と好奇心をかきたてられた人も多いはずです。佐藤さんは、この好奇心こそが研究の原動力だと力説します。
「研究で一番大事なのは、『我々は実は今何も知らないんだ』ということを見つけ出すことなんです。今誰も関心がないことでも、将来大発見につながる可能性がある。研究とは、金銭的な利益のためではなく、知ることに価値を求める行為だと思います」。 そして、水族館で働く者の責任として、ジンベエザメを将来飼育できなくなる可能性も考慮し、今知り得たことを全て記録し、後世に残していくことが大切だと語ります。
宇宙と同じぐらい未知の領域:サメの人工子宮研究
佐藤さんの研究の中でも、特にユニークなのが「サメの人工子宮」です。これは佐藤さんの発案から始まった研究だと言います。
「サメのお腹の中は、宇宙と同じぐらいわからないんです。生命がどうやって誕生し、狭い空間で育っていくのか、明確にはわかっていません。それを理解するために、お腹の中を再現する装置を作ってみよう、というのがきっかけでした」。
この研究では、小さなサメの一種であるフジクジラを実際に育て上げることに成功しました。
「フジクジラは生まれる時には10cmほどしかない小さなサメですが、そのお腹の中を再現するだけでも大変な作業が必要でした。特殊な液体で満たした装置の環境を維持するのは人海戦術で可能ですが、小さな母親がそれをやっていると考えると、生き物が想像を絶する複雑なことをしているのだと改めて理解できました」。
実際に育てたフジクジラを水槽に放つ瞬間は、「夢が叶った」と感じる瞬間だったそうです。
サメの生まれ方は種類によって様々で、お腹の中で弱肉強食が起こり、1個体だけが生まれるものもいるそうです。まだまだ解明されていないことが多く、研究のしがいは尽きないと言います。
「生き物がくれた原動力」:沖縄美ら海水族館の教育事業
沖縄美ら海水族館は、館内展示だけでなく、教育事業にも力を入れています。館内でのバックヤード解説やイルカのトレーニング体験に加え、来館できない人々のための様々なプログラムを提供しています。

「体の不自由な方や病院にいる子どもたちに対して、オンラインで水族館を見学するツアーをやったり、福祉施設に出向いて生物と触れ合っていただく『移動水族館』も行っています」。
これらのプログラムを通して、子どもたちから驚くべき反応があったそうです。
「病院に入院している子どもたちがプログラムを体験することで、沖縄に行くために絶対に病気を治すぞ、という強い意志を持って、実際に退院して会いに来てくれた子もたくさんいるんです」。
生き物や海の魅力が、病気と闘う子どもたちの「原動力」になってくれたことに、佐藤さんも大きな喜びを感じたと言います。
最後に、沖縄美ら海水族館を通して伝えたいメッセージを伺いました。
「私たちは、この海と生態系が将来にわたって保たれることが非常に大事だと考えています。それを守るために私たちも努力しますし、皆さんも私たちの活動を見て、ぜひ足を運んで協力していただければ嬉しいです」。

佐藤さんのお話を聞いて、沖縄の美しい海と、そこで生きるサメたち、そして彼らを守る人々の熱意に触れ、改めて海への関心を深めることができました。沖縄美ら海水族館を訪れた際には、ぜひサメたちにもっと親しんでみてください。

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