私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは、富山県で釣りと漁業を通じて地域活性を目指す株式会社ウオー代表取締役、中川めぐみさんです。もともとIT業界で活躍されていたという異色の経歴を持つ中川さんに、会社を立ち上げたきっかけや、海への情熱を伺いました。
ITから釣りへ。驚きと感動が詰まった最初の釣り体験
中川さんの会社、ウオーは3つの柱で事業を展開しています。1つ目は、釣りや漁業を切り口にした観光コンテンツの企画・PR。2つ目は、企業向けの社員研修やチームビルディングとしての釣り・漁業体験。そして3つ目が、海の魅力や課題を伝えるライターや講演活動です。
実は、中川さん自身はもともと釣りの経験がありませんでした。転機が訪れたのは、30歳の頃。当時勤めていたIT企業で新規事業のアイデアを求められた際、勤めていた企業が運営する人気ゲーム「釣りスタ」からヒントを得て「釣りの予約サイトやECサイトはどうか」と提案したのがきっかけでした。
「その市場調査で初めて釣りをしたらハマったんです」と語る中川さん。釣り好きだったわけではなく、偶然の出会いが人生を変えたのです。
初めての釣りで特に感動したのは、その手軽さと奥深さでした。
「釣りってハードルが高い趣味だと思っていたんですけど、探してみると、全部レンタルでレクチャーしてくれる釣り船があるんです。洋服と足元だけ気をつけていけば、専門的な道具は全て貸してくれて、本当に丁寧に教えてもらえました」。
初めての女性ばかりで行った釣りでは、全員がアジを10匹以上釣り上げ、大いに盛り上がったそうです。
さらに、釣りを通じて再認識した海の魅力は、単なる癒しだけではありませんでした。
「大海原やカモメに癒やされたというのもありましたが、それと同時にゲームでは味わえない、魚がかかった時のブルブルっていう生命反応にすごくテンションが上がって。癒しと狩猟本能を交互に味わえるところにハマりました」。

全国100地域を巡る旅で生まれた「ツッテ」プロジェクト
初めての釣りで海の魅力に目覚めた中川さんは、友人知人に請われるままプライベートで釣りデビューサポートの活動をするようになり、2018年には個人事業主として独立。「ツッテ」というブログを立ち上げ、年間100回も釣りをしながら全国を回るという驚きの行動に出ます。
「地域活性の仕事がしたいという思いが根本にあったので、その切り口として釣りを選びました。まずは現地をいろいろ勉強しようと思って回ったんですが、年間100回というペースで異常にやったら面白がってくれる人がいるんじゃないかと思って」。
その予想は見事に的中。ブログが注目を集め、各地の自治体や企業から「一緒に観光コンテンツを作ろう」と声がかかるようになりました。
「すごくハードだったんですけど、100釣りしてよかったです」と、過酷な挑戦が大きな成果につながった喜びを語ります。
思い出深い釣りとして挙げたのは、やはりアジ。
「誰でも気軽に釣れるアジが、釣りたてだとびっくりするぐらい美味しいんです!」。
特におすすめなのがアジフライだそうで、「釣りたてのアジは水分がすごいあるので、フライにするとぶわーっと膨張して、食べた瞬間にふわっからの魚汁がジュワーってなるんです。これを食べた人はみんな感動してハマってくれるんですよ」。 自分で釣った世界一美味しいアジフライ。その感動を多くの人に知ってほしいという中川さんの思いが伝わってきます。


魚払いで街を遊ぶ。「ツッテ熱海」「ツッテ西伊豆」の誕生
この「自分で釣った魚を美味しく食べる」という喜びから、新たなプロジェクトが生まれました。下田で大物を釣りすぎ、自分だけでは食べきれないと困っていた中川さんが、熱海の魚市場の社長に相談したところ、「魚が足りないから買い取りたい」と言ってもらえたのが始まりでした。
「その時現金でいただいたんですけど、このお金をこの近辺以外に持っていくのは違うなって思って、食事とかお土産とかで熱海の街に還元したんです。そしたら、『私今、魚払いで熱海の街を楽しんでる』って感じて」。
この「魚払い」という発想が、後に「ツッテ熱海」という企画に発展。観光客が釣った魚を、地域クーポンという形で買い取り、街で遊んでもらうという画期的なシステムです。
さらに、この話を知った静岡県の西伊豆町から声がかかり、「ツッテ西伊豆」が誕生しました。
西伊豆町は、少子高齢化が進み、漁師さんの高齢化も深刻。町で食べる魚を外から買うしかないという状況でした。
「本当は漁師さんを増やしたいんですけど、いきなりは難しい。じゃあ猫の手じゃなくて観光客の手を借りよう、と。釣っていただいたお魚を町が地域通貨で買い取って、魚も人もお金も全部町の中でぐるぐる流通する仕組みを作りました」。


このプロジェクトは、子どもたちの食育や職業体験にも活用されています。
「子どもたちが釣りも体験するし、『お魚ってこうやって売るんだ』『自分たちの釣った魚が、いつも行くあの飲食店で出してもらえるんだ』というのを学ぶんです」。
海が身近なはずなのに、心の距離が遠くなってしまった子どもたちが、海への興味や愛着を育むきっかけになっています。
富山で起業。「森作りは人作り」ならぬ「海作りは人作り」
全国各地で活動を続けてきた中川さんが、故郷である富山で株式会社ウオーを設立したのには、ある理由がありました。
「一つの地域で自分の事業を育てていきたいと思って、どこでやろうかなって考えた時に、地元の富山でご縁をいただいたんです」。
学生時代は富山に魅力を感じていなかったそうですが、大人になってから改めて富山に戻り、その良さに気づいたと言います。
「富山には、魅力的な漁師さんや起業家の方がどんどん増えていて、今帰らないと乗り遅れてしまうのがもったいないと思ったんです」。

そんな中川さんが、地元の漁師さんたちと日々触れ合う中で感じる魅力と課題について語ってくれました。
「漁師さんって、ちょっと怖いイメージを持たれる方も多いと思うんですけど、めちゃくちゃチャーミングな方が多いんです。話してみるとフニャーって笑うギャップがたまりません」。
また、PRやマーケティング能力に長けた漁師さんも多く、そうした魅力が知られていないのはもったいないと感じています。
一方で、漁獲量の減少や、獲れる魚の変化、魚離れといった課題にも直面しています。
「昔は北海道でブリは獲れなかったけど、今はたくさん獲れていたり、富山でも南方系のシイラが来るようになったりしています」。
しかし、中川さんはそれを悲観的に捉えるのではなく、「その知らない魚をどうやったらみんな美味しく食べられるか、楽しくチャレンジできるか、そういうところを楽しみながらみんなで解決していけたらいい」と前向きに語ります。
株式会社ウオーの挑戦:海の魅力を100%伝えるために
最後に、株式会社ウオーの今後の展望や夢について伺いました。
「漁師さんや海、釣りの魅力は100あるとして、今は30とか40しか伝わっていなかったり、漁師さん自身も自分のことを30~40でしか見てないと感じるんです。それはみんなにとってすごくもったいないこと」。
だからこそ、中川さんはその魅力を今までにない方法で伝えていきたいと語ります。
「『ツッテ』のような仕組みもそうですし、釣りの観光や漁業を、企業研修のような学びの場にするとか、いろんな人たちが海に踏み込んでその魅力や課題に気づけるようなコンテンツや企画をどんどん作っていきたいです」。
中川さんの話を聞いて、「自分で釣ったアジフライを食べてみたい」と思った人も多いのではないでしょうか。
「やりたいことからみんな初めて、海と接する機会をこの夏作ってほしいですね」。
株式会社ウオー代表取締役の中川めぐみさん、貴重なお話をありがとうございました!

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