グローバル・マリン・コンサルティング 代表

田村陽子

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回は、グローバル・マリン・コンサルティングを展開し、持続可能な漁業や海洋生態系の実現に向けた仕事をしている田村陽子さんにリモートアプリを通してインタビューしました。田村さんの背景には、石垣島の美しい米原海岸の映像。海の透明度に目を奪われます。現在は石垣島と東京の2拠点で生活されている田村さんですが、出身は秋田県。子どもの頃に男鹿半島の海と山の中で遊んだ記憶が、田村さんを自然をフィールドにした活動へと向かわせました。東京海洋大学やワシントン大学で海洋環境を学び、今は海洋コンサルタントとして働いています。

「海のエコラベル」で持続可能な漁業を世界へ:MSC認証の最前線

田村さんの現在の主な仕事が「海のエコラベル」と呼ばれる持続的な漁業の認証制度、具体的にはロンドンに本部を置く非営利団体「海洋管理協議会(MSC)」が実施するMSC認証の審査です。

「過去10年ほど、国際的な審査チームの一員としてMSC認証の予備審査や本審査に参加したり、認証取得に向けて改善が必要な漁業に対してアドバイスを行っています」と田村さん。

MSC認証の審査は、多岐にわたる側面から行われます。

「持続的な漁業とは魚の再生産サイクルを守ること。毎年生まれる赤ちゃんが親になり、子孫を残すサイクルを壊さずに漁獲することです。これを超えて乱獲してしまうと、次の世代が育たず持続できなくなります」

さらに、漁業で意図しない魚種が獲れてしまう混獲の影響も重要な審査対象です。中には絶滅危惧種が含まれる場合もあるので、影響を排除する取り組みが求められます。

審査は、詳細な基準に基づいて行われ、地域の状況やデータ収集、漁業関係者へのヒアリングを通じて、1年以上かかることも珍しくないそう。

「私は日本の漁業に特化して見ているので、日本の漁業管理を熟知しながら国際的な基準に照らし合わせて審査を行っています」と専門性の高さと責任の重さが伺えます。

資源枯渇の危機と「サステナブル・シーフード」の重要性

現代漁業や海の生態系が抱える問題について、田村さんは深刻な現状を指摘します。

「世界的に見ると、天然の水産資源の生産量は過去30年間で頭打ち。これ以上は増やせない、まさに限界まで漁獲してしまっている状態なんです」

このままでは資源は枯渇する一方。そこで、資源を持続的に守りながら水産量を維持・成長させるために、世界で重視され、広がっているのが「サステナブル・シーフード」です。

「サステナブル・シーフードは、資源を守りながら持続的に漁獲され、生態系への影響を軽減し、きちんとした管理体制で行われている漁業から得られた生産物を指します」。

田村さんは、持続可能な漁業へ転換するためのアドバイスも行っています。具体的な改善策として、漁獲量を守るための出漁日数の削減、幼魚を逃がすための網目の大きさの変更といった漁法の工夫、保護区の設置など、地域や漁業に合わせた最適な方法を漁業者と共に考え、提案しているそうです。

日本漁業の課題:国際基準への転換と消費者の役割

地元漁業者との密な連携が不可欠なコンサルティング。しかし、日本では漁業改善を支援する体制が十分に整っていないという課題があると田村さんは言います。

「MSC認証制度は持続的な漁業を推進し、改善を促すことを目的としていますが、現時点ですぐに認証を取得できる日本の漁業はほとんどありません。なぜなら、認証を目指して頑張っても、まだ改善が必要な場合、それを支える企業や行政、消費者のサポートが海外に比べて不足しているためです」

海外では、認証を目指す漁業を消費者が積極的に購入するなど、支援の輪が広がっているのに対し、日本ではまだ仕組み作りが追いついていないのが現状だと指摘します。

現在、日本でMSC認証を取得している漁業は、北海道漁連のホタテ海面養殖、岡山県邑久町漁協の牡蠣養殖、そしてマグロやカツオ類などが挙げられます。

「認証を取得した漁業の最大のメリットは、その水産物が持続的に獲られたものだと消費者にわかるようにMSCエコラベル(青い魚のマーク)が商品に表示されることです。日本ではイオン系のスーパーや生活協同組合(CO・OP)、コストコなどで取り扱いが多く、最近ではコンビニのおにぎり、ちくわ、マクドナルドのフィレオフィッシュなど、私たちの身近なところにも広がっています」と、消費者が意識して商品を選ぶことの重要性を強調しました。

海への尽きない情熱:さまざまな海での経験を胸に

大学院卒業後、国際協力のコンサルティング会社でメキシコやガラパゴスの海洋保全プロジェクトに携わった経験は、田村さんの海への見方を深めたといいます。

「様々な国で違う海を見たり、異なる文化の中で異なる管理がされているのを知ることで、どんどん海の魅力にはまりました」と、世界の海から得た刺激を語ります。

途上国を中心に漁業管理に携わってきた経験から、田村さんは日本の漁業の課題も感じています。

「日本は水産業が古くから発達し、誇りを持った文化がありますが、世界では国際基準や科学に基づくやり方が広まっています。日本も良いところは生かしつつ、国際的に発達した科学を取り入れ、持続的な漁業へ転換していくことが重要だと考えています」。

現在、石垣島と東京の2拠点生活を送る田村さんですが、ガラパゴスでの生活を通じて島の素晴らしさを感じたこと、さらにMSC認証の仕事がリモートで可能になったことから、石垣島にも拠点を持つに至ったそうです。 「仕事で疲れたらシュノーケルや山に行ってリラックスしています。山と海の環境が両方整っているのが石垣島の魅力です。標高550mほどですが、沖縄県最高峰の山から流れ出る豊かな水が多様なサンゴ礁の生態系を作り、その循環を感じられるところが素晴らしいです」。

海は「つながり」の象徴:未来への思い

最後に、田村さんが考える「海」、その海への思いを語っていただきました。

「海は、水を通して様々な生命や生活がつながる場所だと思います。海の中には多様な生物がいて、陸の山から流れる水も循環して海とつながっています。私たちの生活はその間にあり、共に影響し合っている。世界の大陸も海でつながっていますよね。そういった魅力的なものをテーマに活動できることがとても嬉しいですし、なるべく人間が海と共存できるよう、これからも環境の問題に向き合っていきたいと思っています」。

海の豊かさと持続可能性のために、国際的な視点と現場での経験を活かし、情熱を傾ける田村陽子さん。その活動が未来の海を守る力になることでしょう。

このコーナーはAuDeeでも配信中です。ぜひアクセスしてみてください!

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