私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
先月に引き続き、今回は静岡県駿東郡清水町の「幼魚水族館」館長で、岩壁幼魚採集家の鈴木香里武さんをお迎えしました。「ごきげんようぎょ!」の挨拶とともに登場した香里武さんが、幼魚への尽きない情熱と海への深い洞察を語ってくれました。
0歳からの漁港通いが育んだ「幼魚愛」
香里武さんのルーツは「伊豆の海」。ご両親が熱心な海好きで0歳の頃から連れられて漁港に通っていたそうです。そして、「香里武」という名前もご両親の海が高じてつけられた本名。両親が魚採りをしている間に、自然と海を覗くようになった幼い香里武さん。
最初は幼魚と意識せずに、網で掬っていた小さな魚が「赤ちゃんなんだ」「ここに隠れに来ているんだ」と分かってから、小さな体に秘められた壮大な生き様に魅了されたといいます。
心理学から海洋学へ:幼魚の「人生」を解き明かす研究
成長した香里武さんは、大学と大学院で心理学を専攻しました。「魚とは関係ないのか」と思ってはいけません。研究テーマは「魚を見た人」。水族館は癒しの空間と言われますが、魚のどこに人は癒されるのか?いちばん癒し効果がある魚は何か?といったことなどを追求したそうです。深い(笑)。その上で、今また大学院に入り人生ならぬ魚生、幼魚が何を食べ、どのように成長していくのかを研究している根っからの魚好き。 「メジャーな魚は研究されていますが、赤ちゃんの頃はまだ分かっていないことだらけ。それを研究することで養殖や水族館での飼育方法にも役立てたい」と将来のビジョンを語ります。
「会いたくても会えない」希少な存在:海のルールとロマン
岩壁幼魚採集家として、今も伊豆を中心に各地の漁港を巡り、幼魚を探す香里武さん。
「エリアによって幼魚の種類が違うのが面白いんです。海流、水温、地形…全てが影響します。足元の幼魚から海の環境を感じ、学ぶことができるのは、海の壮大さを知る良い入り口だと思います」
タモ網とバケツがあれば、誰でも気軽に始められて、お金もかからないので小さな子どもでも楽しめる身近な遊びだとして提案します。
しかし、漁港は漁師の方達の仕事場。香里武さんはルールを守る重要性を強調します。
必要な場合は漁協に許可を取る。現地の張り紙などを確認して獲ってはいけない生物は獲らない。使ってはいけない道具は使わない。漁港で遊ぶ時は、ルールとマナーを守って楽しみましょう。
最も印象深かった幼魚の出会いとして香里武さんが挙げたのは「リュウグウノツカイ」。深海魚として知られる、成長すると5mを超える魚ですが、意外にも赤ちゃんの頃は浅い海で暮らしているそうです。 「1.8センチのシラスくらいのサイズでも形はもう完全にリュウグウノツカイでした。足元で深海魚の赤ちゃんに出会えた時に『海は縦にも繋がっているんだ!』と衝撃を受けましたね。漁港の底力を知り、すごくロマンを感じました」とその時の気持ちを熱く語ってくれました。
幼魚が教えてくれる海の現状と未来
香里武さんは、幼魚という小さな存在から海の環境問題へと視点を広がます。
「海洋環境問題は壮大でイメージしにくいテーマですが、ぜひ足元から参加してほしいんです。漁港は海の環境のリアルを知る良い入り口です」
漁港には、人間の生活の変化を反映するように、ペットボトルやマスクといった海洋ゴミが多く寄せられていると指摘します。
さらに、幼魚の種類が季節によって変化するパターンが、近年崩れてきていることにも言及。
「冬と春にいるはずの魚が全然いなくなったり、海藻が枯れて隠れる場所がなくなったり。魚の種類の変化を見るだけで、地球温暖化の影響がはっきりと分かります」
香里武さんは、そんな厳しい現実の中にも、幼魚たちの逞しい姿があると言います。
「幼魚たちは、大きな魚や海鳥から身を守るために物の下に隠れる習性があり、本来は流木や海藻に隠れますが、ない場合は海洋ゴミの下にも隠れることがあるんです。彼らは健気に命を守っている」
だからこそ、香里武さんは提案します。 「漁港に行ってゴミが溜まっているのを見たら、『うわぁ汚いなぁ』で終わるのではなく、ゴミごとタモ網ですくってみて欲しい。そうすると、ゴミの下に思わぬ幼魚との出会いが隠れています。幼魚採集を楽しみながら、拾ったゴミは分別して捨てる。楽しみながら長く続けられることこそ大事で、そうすれば活動の輪も広がり、少しずつ海の環境、未来は明るくなっていくと思うんです」
幼魚を「文化」へ!香里武さんの壮大な夢
長年の夢だった幼魚水族館を立ち上げた香里武さん。次なる目標は、「幼魚を文化にする」ことだと語ります。
「ブームではなく文化にしたいんです。誰もが『幼魚』と聞いてイメージできる世の中にしたい。そして、魚に興味がない人でも、自分の推し幼魚を3種類ぐらい挙げられるような世の中にしたいですね。推しが暮らしている海は守りたいですから」
幼魚が文化となれば、環境意識や食育にも良い影響が生まれると信じ、その目標に向かって邁進していくと語る香里武さんの目には熱が籠っていました。

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