私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは、海や川での事故を減らそうと活動している「海のそなえプロジェクト」のメンバーであり、日本水難救済会の理事長を務める遠山純司(とおやま あつし)さん。海上保安官として40年間、海の最前線で経験を積んできた遠山さんに、水辺の安全に向けた取り組み、海との向き合い方についてお話を伺いました。
水難事故ゼロを目指して──必要な「新たな常識」と「そなえ」とは?
まずは参加している「海のそなえプロジェクト」について伺いました。
「この30年、陸上の交通事故は約4分の1に減少している一方で、海や川での水難事故はほとんど減っていません。これを何とかしなければならない。何が原因なのか、有効な対応策を構築したいというのが、『海のそなえプロジェクト』のスタートです」
プロジェクトのウェブサイトには、「海を安全に楽しむために。これまでの常識を疑い、新たな『そなえ』をみんなでつくる。」という言葉が掲げられています。この「新たな常識」とは、一体どういう意味を持つのでしょうか?
「例えば、プールで25メートル泳げれば泳力があると認識されていますが、それが本当に海や川で通用するのかという調査をしたところ、実際には水難事故に遭った方の半分以上が、プールで25メートル以上泳げる人だったんです。また、従来の安全教育で教えられてきた『大の字になって背浮きをして浮いていれば助かる』という方法も、波や流れのある海や川で通用するのかという疑念がありました。海のすごさは経験しないとわからない、人の力ではどうにもならないものがあります。(学校の)先生も教えられるスキルや経験がない人が多い。教える人がいないというのが現状です。そこで、先生だけに依存するのではなく、海での安全を教える経験や技術を持った人、地域に当たり前に教えてくれる人たちを増やした上で、教育も進化させていく。大の字 背浮きだけではなく、海や川で通用するような方法を進化させて全国に普及させていく、そんなネットワークをつくることを目指しています」
その講習会には、消防士、ライフセーバー、海上保安官、そして一般の方まで、さまざまな人が参加していると言います。
海上保安官として40年。その人生で実感した海の「美しさ」と「怖さ」
遠山さんの活動の原点には、海上保安官としての40年間の経験があります。
「陸上勤務だけでなく、巡視船に乗っての海上勤務、海外勤務も経験しました。そうした中で、ひとたび時化(しけ)の海になると、自然の猛威は人の力でどうにもならないことを身をもって知りました。目の前に遭難者がいるのにアプローチできず救助できなかった、必死の捜索にもかかわらず見つからなかったという悲しい経験もありました。でも、だからこそ、この海の怖さをどう伝えるか。一方で、美しい広大な海をもっともっと若い世代に理解し、楽しんでもらいたい。どんどん海に行ってもらいたい。この2つの思いがあります」
崖っぷちの遠山さんを救ってくれたのは「広大な海」
そんな遠山さんの人生において、海が大きな転機となったと教えてくださいました。
「小学校6年の時に、海での仕事がしたいと思うようになりました。しかし、海上保安大学校の試験に2回失敗し、2年間浪人しました。3回目が最後のチャンスで崖っぷちだったんです」
失意のどん底にいた時、友人が連れて行ってくれたのが“海”だったそうです。
「水平線を見て、広大な海を見たら、自分がなんと小さい人間なのかと感じました。こんなことでくよくよ悩んでいる場合ではない、とっとと勉強して最後のチャンスを頑張ろうと。活力、モチベーションにつながったあの時の海は忘れられません」
2度の世界一周を経験!陸では決して体験できない感動とは!?
海上保安大学校の練習船の教官も務め、世界一周を船で2回も経験した遠山さん。その海の魅力について
「世界の海を目の当たりにして、時化の海もありましたが、美しい日の出や日没、虹など、言葉で表せない魅力があるんです」
遠山さんが撮影したという写真には「海はロマンの塊」とおっしゃるものが映し出されています。
「水平線はまっすぐに見えると言いますが、360度見ていると、丸くなっているのを感じるんですよね。まさに地球を感じる瞬間です。その中をまっすぐに切り開く航跡は、『自分の力で今、海を切り開いているんだぞ』という感覚を与えてくれます。これは陸にいたら分からない素晴らしいものです」
大西洋・太平洋を横断する際には、周りに位置を確認できるものが何もないため、星の高度や太陽の高度を自分で測り、計算して位置を特定する昔ながらの方法も行ったそうです。
「今はGPSがありますが、練習船では学生に海のイロハを教えるために、六分儀という計測器を使って天測を毎日繰り返していました。そして、最初に陸地が見える『ランドフォール』の時の感激は陸上にいたらわからないものです」
海での安全対策は「臆病」がキーワード!プロも実践する”そなえ”とは!?
海の「恐ろしさ」と「素晴らしさ」の2面性を伝えてくださいましたが、素晴らしさを感じるためには、危険な海をどう避けるかという術をまず学ぶべきだと強調。そして、プロでも基本的なことを必ず実施するとおっしゃっています。
「私たちも、海に出る時はまず天気予報を確認し、その場所が本当に危なくないかの確認を繰り返します。言い方を変えれば、ものすごく臆病なんです。ダイビングをする際も、常に後ろを振り返り、機材の確認や残圧、一緒に潜っている人の安否まで、絶えず気を配っています。そういう安全意識を海に出る前にしっかり持つ。まずそこから始める、そこから教えるんです。
最後に、水難事故ゼロを実現するために必要なことを伺いました。
「私たちが目指しているこれからの海の安全教育は、事故が起きてからではなく、『事故を起こさないためにどうそなえるか』。それが、私たちが目指す安全教育の最も大きな軸足だと信じています」

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