2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは、炭素回収技術研究機構(CRRA)の機構長で、気候変動を解決する方法から人類の火星移住を実現するための研究を行っている村木風海さん。CO2削減装置の開発、サイエンスを楽しむそのスタンスと想いについてお話を伺いました。
海が大好き!名前に「海」が入っている「風海(かずみ)」さん
村木さんのお名前は、風に海と書いて「かずみ」さん。子どもの頃から海が大好きだそうです。
「小さい頃から海は大好きで、やっぱり名前に入っていると意識してしまうんですかね。ただ、海なし県の山梨出身なんですよ。高校卒業までの18年間、ずっと山梨にいて海が見たいとウズウズしていて。いま僕の研究所はお台場にあります。ちょうど最近引っ越ししたばかりで、東京国際クルーズターミナルの真横になったので、毎日船を見ながらお仕事をしています」
大学2年生で日本半周の航海へ!
船といえば、村木さんは日本半周の船旅も行っています。
「大学2年生の頃に、1級小型船舶操縦士の免許を取ったので船が欲しいなと。でも、船なんて何億円もしそうだし、大学生の自分には到底無理なんじゃないかと思ったのですが、ピンとひらめいて。スマホの片隅に入っていた『ジモティー』というアプリがなんか呼んでいるような気がして、開いてみたら、船0円という掲載があったんですよ。新潟にあるというので、そのまま大学の授業をほったらかして新幹線に飛び乗って、その日にそこへと行きました。すると、立派な13~4mクラスの大きな水色のキレイな船が置いてあって。地元の方にこれが欲しいとその熱意のままにプレゼンしたら、『わかった。君のことが気に入ったからこの船をあげる』とおっしゃってくれたんです。それでいただいた船が、『第五金海丸』という地元ですごい漁獲量を誇っていた伝説の船。その船乗りの方が亡くなられて、ご家族の方が引き取ってほしいということでいただいたんです。ただ、その船はもう陸揚げされていたので、そのあとに悩んだのが、新潟からどう持ってこようかと。僕達が実験するので契約していた港が千葉の勝浦だったので。トレーラーでは無理だなということから思いついたのが、船を自分たちで修理して、自分たちで操縦して千葉まで持ってこようというもの。それで新潟まで通って丸1年修理しました。そして、大学3年の夏休みに、津軽海峡越えへの1600キロ59日間、実際に自分で操縦しました」
その様子はYouTubeチャンネルで観られるとのことです。「津軽海峡でエンジンがボーンといったり、八戸で台風に遭遇して沈みそうになったりと冒険でした」とおっしゃるように波乱万丈な航海の様子をぜひご覧ください。
大航海を経て変わった海への想い
「僕の初航海だった」と振り返っていらっしゃるように、教習所を卒業して初めての操縦が、日本半周だったそう。ただ、その1600kmの旅路を終えて変化があったとおっしゃっています。
「大学生だった自分が1600kmの旅路を終えた頃には、ちょっと顔つきも違ったかもしれないですね。そして、海に対する向き合い方も変わりました。一番感動したのは、三陸沖。津軽海峡を越えて太平洋へ出た瞬間は、荒波で台風も来ていたので、文字通り死にかけて必死でした。そこを乗り越えた三陸沖で見た太平洋の朝焼けに感動したんです。36時間ぐらい連続航海しなきゃいけない日で、30時間ぐらい経った時にはフラフラで。そんな中、船上で朝焼けを見たんです。その時に、こんなにきれいな景色が見られる日本の海、地球自体を研究者として守っていきたいなと思いました」
温暖化の解決を阻んでいるのは技術ではなく「意識」
日本の海を守っていくための活動もされている村木さん。まず伺ったのが、研究開発を進めているCO2回収装置「ひやっしー」についてです。
「高校2年生の時に僕が発明したもので、ボタンひとつで二酸化炭素を空気から吸えちゃうという、言わばCO2の掃除機です。地球を冷やす目的のために『ひやっしー』という名前を付けました。スーツケースサイズの装置で、その上にタブレットが乗っていて、そこに黄色い字でチョンチョンニコッというニコニコ顔、某オレンジジュースを思わせるような顔が表示されています。温暖化を止める技術は色々とありますが、今は二酸化炭素を減らすだけではもう止まらないと言われていて。2030年には、世界中で出している二酸化炭素を半分にまで減らさないと、物理的に温暖化が止まらないんですね。そのためには減らすだけじゃなくて、今まで僕たちが200年ぐらい空気中に出してしまった二酸化炭素を、直接吸い取る技術が必要で。この装置はCO2直接空気回収「ダイレクト・エア・キャプチャー(Direct Air Capture: DAC)」と言いますが、そういう装置は実際にもう世界中にあります。スイスの『クライムワークス』という会社では、全長100mほどの巨大な装置もつくられていて、例えばそれを山梨県の3分の2ほどの面積に埋めるだけで、世界中のCO2が吸い取れちゃう。それぐらいの性能の装置があるように、技術は進歩していますが、町中で聞いてもDACという技術はまだまだ知られていない。だから、温暖化の解決を阻んでいるのは、技術でも予算でもなくて、一番は意識なんじゃないかなと。意識改革こそが地球を守ると思っているんです。だから僕は、ひやっしーはあくまで教育用・啓蒙用の装置。大型の装置もつくっていますが、ひやっしー単体で温暖化を止めようとするわけではなくて、最初のきっかけとしてアイコンとして発明していて。『ボタンひとつで温暖化に立ち向かうことができるんだ』と意識を変えたいなと思っているんです」
化学の民主化、自分ごと化を目指す!
そんなひやっしーは、集めた二酸化炭素の量をグラフで見ることが可能で、集めた二酸化炭素の量に応じてマイルがたまり、それで買い物までできるそうです。そして、村木さんにはひやっしーを活用してやってみたいことがあるとおっしゃっています。
「2030年のお正月にカウントダウンライブをやりたくて。『皆さん、ひやっしー持っていますか?』と呼びかけて、みんなで3、2、1でポチっとひやっしーを押して、『温暖化が止まった!やったー!』というような。えらい化学者がすごい装置の赤いボタンを押して止めるのではなくて、みんなでライブをやって止めた方が成功体験になるじゃないですか。そうすると、例えば2040年に、新型コロナウイルスの時のようなまた大きな問題が起きても、『あの時、僕たちは温暖化を止められたからやれるんじゃないか』と思える。だから、化学者だけの化学にしないで、化学の民主化、みんな自分ごとにしたいんですよね。そのためにひやっしーを開発しました」
温暖化を止めるための技術開発や装置づくりにも取り組んでいる!
その一方で、CRRAでは温暖化を止めるための技術開発も行っていると教えてくださいました。
「技術的には、ひやっしーは始まりに過ぎなくて。ひやっしーがひとり歩きしていて、本当に温暖化が止まるのと言われてしまっていますが、そうじゃないんです。いま全く新しい二酸化炭素を吸ってくれるシリカゲルのような吸収剤の開発もしていますし、『ひやっしーパパ』という年間で34トンものCO2を集められる産業用の装置も開発しています」
海バージョンの「ひやっしーまりん」も開発中だそうで
「海の中に溶け込んでいる二酸化炭素を吸い取れます。これは難しい技術で、僕が知る限り、世界では1社ぐらいしか行っておらず、空気から吸い取るよりもライバルが少ない分野。僕は今、船に後付けできて、船が走る時に自動的に二酸化炭素を海から取り除く装置を開発中です。海に溶けている色んなガスを、野菜の空芯菜みたいに真ん中が空いてる細い糸に通すと、空気の成分だけを分離できます。その分離した空気から、二酸化炭素だけを取り除く。それは私たちCRRAが得意としています。取り除いたら船の上でガスボンベに貯める。その時に必要な熱も、船はエンジンを冷却した後に温かい水が出てきますから、その廃熱ぐらいでできる。新たなエネルギーは余分に掛けずに、海のCO2を船が走ることで取り除くと」
そういった開発の原動力は何なのでしょう?
「僕は、化学は我慢するためにあるのではなくて、人々を便利にワクワクさせるためにあると思っています。ですので、温暖化は我慢みたいなイメージを止めたいんです。僕は船が大好きなので、それを残すためにどうすればいいかと考えていて、こういう技術を開発しています」
海の環境変化について漁師の声を聞いてハっとする
また、海に携わる人を通じて気づかされたことがあるとおっしゃっています。
「南の島巡りが大好きで趣味でして。東京・竹芝の埠頭から船に乗って伊豆諸島へとよく行きます。中でも、利島が大好きで。その利島で漁師の方から伺った話が、圧倒的に魚がおかしいと。とれなくなっていたり、全く違う種類の魚がとれてしまうと。最前線の海ではそうなっているのかと知りました。やっぱり東京のオフィスにいるとなかなか分からない。海に携わっている方々の生の声を聞いてハっととさせられました」
未来はドラえもんの世界観にしたい!
ここまでさまざまな想いと活動について伺ってきましたが、村木さんはどんな未来にしたいのでしょう?
「ドラえもんの世界観にしたいなと思っていて。海外のサイエンスに対する考え方は、自然に立ち向かう。海外ではAIが暴走する映画がつくられたりしますが、ああいうように化学と人間は折り合いがちょっと悪かったり、敵対しているものだったり、自然とも敵対したりといったアンチな感じなんですよね。でも、日本のSFは、ドラえもんをはじめとしてキテレツ大百科なども、ゆるふわと言いますか、化学と自然と人間がみんな仲良しみたいな。ポジティブなやり方で、みんなでというのが大事で。だからこそ僕は、どこまでも底抜けに明るく前向きにゆるふわでポジティブに問題をサラッと解決していきたい。僕は地球温暖化を救ったヒーローぶるつもりは全くなくて、『温暖化なら昨日止めたけど? 年越しイベントでやったよね?』と、そのぐらいの脱力系でいきたい。肩肘張らずにもっとみんなでサイエンスを楽しもうよと思っています」
ただ、理解してもらえないこともあるそうで
「学会に行くと怒られちゃうんです。学者の先輩方から胡散臭いだの怪しいだの散々な言われ様なのですが、僕のやっていることはあえてですから」
そして、常に前向きにポジティブを意識しているとおっしゃっています。
「生きている限り楽しまないと。それこそ航海を通じて感じ取ったことですね。船が左に35度も傾いた時には本当にそろそろ終わりかと思いましたが、それを乗り切って生きて帰ってきた。『いま自分って生きている!生きているって最高!』ということを海を通じて実感しました。どんな困難もやっぱり楽しんだもん勝ちだなという考えを、航海を通じて体得したんじゃないかと思います」
CO2の燃料で船を操縦できるように皆さんとご一緒できたら
最後に、これからスタートするクラウドファンディングについて伺いました。
「CRRAは独立系の研究機関で、大企業の子会社であるとか、国の研究機関とかではない。地球から宇宙まで大規模なスケールで、100年200年と二酸化炭素に特化して研究していきたいと思っていたので、それはどこの研究所でもできないテーマだったんです。それこそ船の燃料を全て二酸化炭素にするという大規模なプロジェクトをやるためには、もちろん研究予算もかかります。そこで、今までは寄付を募りまして、本当にたくさんの方々からのご支援に支えられてきたのですが、今年の5月に社団法人から株式会社になりまして。ですので、今後は、株式という形でお金を集めることができるようになりました。実は今、株式投資型のクラウドファンディングがあって、クラファン感覚でCRRAのことを応援できて株主にもなれちゃうサービスがあります。そのサービスで12月頃を目途にプロジェクトを公開予定なんです。海の問題を解決するために全力で頑張っていきたいと思っていますので、ぜひお力をいただけたら。2026年ぐらいに、僕が二酸化炭素の燃料で船を操縦できるように、皆さんとご一緒できたらとっても嬉しいなと思っています」
