2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは、プロフリーダイバーの篠宮龍三(しのみや りゅうぞう)さん。フリーダイビングから見る海の魅力についてお話を伺いました。
リュック・ベッソン監督の名作からフリーダイビングの世界へ
移住して20年ほどとおっしゃる沖縄県宜野湾市からリモートで出演してくださった篠宮さんは、フリーダイビングのプロです。フリーダイビングとは、タンクなどの呼吸器材を一切使わずに、ひと息でどれだけ深く潜れるのかを競うスポーツ。まずは、この競技を始めたキッカケについて教えてくださいました。
「リュック・ベッソン監督の『グラン・ブルー』という映画がありまして、その映画がフリーダイビングを扱った映画だったんです。実在の人物のジャック・マイヨールとエンゾ・マイオルカの2人をモデルにしたフィクションなのですが、観たときにすごい感動しまして。世の中にはこういうすごいスポーツがあるんだなと思って、実際に自分もやってみたいなと思うようになったんですね」
映画を観ていると、自分が実際に潜っていくような感覚になっていくそうですよ。
深く潜っていけばいくほど濃い深くて美しいブルーの世界に
競技を始めた後、2008年にはアジア人で初となる水深100mを達成。また、水深115mの日本記録保持者でもあります。ひと息で100mまで潜って帰ってくるのは、どれぐらいの時間がかかるのでしょう?
「だいたい下りが2分ぐらいで、上がってくるのに1分半ぐらいで、計3分半前後ですね」
篠宮さんのフリーダイビング映像を観てみると、ビルの高さだと30階に相当する水深100mへと一直線に潜っていきますが、潜っていく時にはどんな感覚なのか伺ってみると
「水面付近は光があふれていて、生物も多いですし、皆さんがイメージされるような明るい海という感じです。そこから徐々に光が失われていき、生物もいなくなっていき、50mを過ぎたあたりからはもう暗くなります。70mぐらいだと、もう水面を見上げても、どこに太陽の点があるのか分からないぐらい。水の層が分厚すぎて、右も左も下も上も全体が青一色の世界になってしまうんですね。それが映画のタイトルにもなりました『グラン・ブルー』という世界観。そこからまたさらに深く潜っていくと、暗闇に近い青と言ったらいいんですかね、本当に濃い深くて美しいブルーの世界になっていきますね」
命がけのフリーダイビング。その魅力は?
深く潜ると水圧などもありますが、身体はどうなるのでしょう?
「やはり息ができない、水圧がどんどんかかってくるという状況は、人体にとっては緊急事態なわけですね。すると、生命維持のために、血液が手足の末端から頭・心臓・肺に集まってくる現象が起きます。これは『ブラッドシフト』と呼ばれていて、血液が中心にどんどん集まってきて、一番大事なところを守ろうとするわけですね。反対に手足は、血液があまり入っていない状態になるので、ちょっと冷えてくるという感じ。一方で体の中心はあたたかくて、とても不思議な感覚になっていきますね」
「人体にとって緊急事態」とおっしゃるように命がけのスポーツですが、何に魅せられたのでしょう?
「この競技を始める前はダイビングをしていまして、タンクを背負って空気を吸いながら潜っていました。素潜りの場合は、自分の身ひとつ。スポーツでありながら、そういう自分の身体の可能性にチャレンジするみたいなところ、ひと息でどれだけ行けるのかというところがすごく面白いなと思って。そこが魅力ですかね」
脳が20%も酸素を消費するので無心で潜る
潜っていく時には、どんなことを考えていらっしゃるのでしょう?
「他のスポーツ、例えば球技だったら、次はどういう展開にしようといった戦略的なことを考えながら動くと思います。けれども、フリーダイビングの場合は、ひと息でため込んだ酸素だけで潜って帰ってくるスポーツなので、余計なことを考えると脳がたくさん酸素を消費してしまうんですね。脳という臓器は約20%の酸素を消費していますので、なるべく脳に酸素を消費させないように省エネモードで入っていく必要がありまして。ですので、一種の瞑想状態といいますか、ほかのダイバーのこと、順位や数字のことはあまり考えないようにしていましたね。年に一回ぐらいは、無心になれて無欲の状態で1本すごく気持ちいいのが潜れます。そして、結果もついてくる。ただ、やはり競技となると、もちろんライバルもいたり、今回はメダルがもらえるかなと考えちゃったりもします。だから、なるべくそういうことを考えないように楽しいことを逆に考えて、打算的なことに頭を使わないようにしていました」
フリーダイビングはいつまでできる?
そんなフリーダイビングは、年齢に関係なく楽しめるスポーツだそうです。
「僕の場合は競技は引退していまして、大会にも出ていません。ただ、トレーニングなどはずっと続けています。また、世界には60代や70代でも良い記録を出している選手もいますし、年齢関係なく楽しめるんじゃないかなと思います」
グラン・ブルーの世界を見るとやみつきになってしまうそうで、「一度見たらやめられない。さらに深いブルーが見たくなってしまって、また挑戦を続けるという感じです」とおっしゃっています。
20年前に出会った親子クジラ
続いて、話題はフリーダイビング中に撮影されている写真について。篠宮さんは、クジラの写真も、Instagramにアップしています。そのクジラとの出会いについて教えてくださいました。
「初めてクジラに出会えたのが20年ぐらい前の沖縄の海でした。その時は親子クジラが泳いでまして。子どものクジラは、まだ生まれて1~2ヶ月ぐらいだったと思います。こちらのことを気になって、遊びたくてしょうがないというか好奇心がある状態のようでしたが、お母さんクジラがそれを必死に止めるという感じで。人間のように『そっちに行ったら危ないから駄目よ』といったやり取りが見てとれて、非常にかわいらしいなと思いましたね」
競技を引退したタイミングで、クジラを中心とした水中写真を撮るようになったとおっしゃっています。


「One Ocean」というメッセージに込めた意味と活動
そして、フリーダイビングや写真を撮る中で、向き合うことも多いであろう海洋問題や海の環境の変化について伺ってみると
「クジラを撮影するには外洋に出て行きますが、外洋でもたくさんの海洋ごみが浮いています。また、水面だけではなく、水中にもゴーストネットやゴーストロープと呼ばれる使用されていない漁具・漁網が中層を漂っていまして。それにクジラが引っかかっちゃったり、抜けなくて苦しんでいたりするシーンを見ると、胸が痛いなと」
そうおっしゃる篠宮さんは、海を守るために「One Ocean」というメッセージを掲げていらっしゃいます。
「『One Ocean』というメッセージは、2つの想いを込めていまして、ひとつはエコロジー。もうひとつはコミュニケーション。エコロジーという面では、海は『7つの海』と言われていますが、全部ひとつにつながっていますので、1カ所で出してしまったもの、化学物質などが地球をまわってしまうわけですよね。コミュニケーションは、現役時代には、いろんな国の選手と会うことがあり、普段生活していたら絶対会わないだろうという国の選手ともたくさん会うことができました。海を介して仲間が増えていくというのはすごく楽しかったんですね。ですので、みんなをつないでくれる海を、みんなで大事に守っていこうと。ひとつの海はみんなの共有する宝物のようなものだよねという気持ちを込めています」
具体的な活動もされていらっしゃるそうで
「仲間が行っているビーチクリーン活動に参加したり、フリーダイビングのスクールの中で水面や海底に絡んでいる漁具、釣り糸、ルアーなどがあったら拾ってきたり。そういうのはフリーダイビングじゃないと取れないゴミだと思いますので。あとは、機材もちょっと特殊なものになっていまして、カーボンの足ヒレを装着しています。それをつくっているメーカーが、マダガスカルの森に木を植える植林活動もしているんですね。1本買うと1本の木を植えてくれるという。そういう活動をしているところに、少しでもお金が落ちるようになったら、自分も使っていることに対してプラスの気持ちを持てますよね。また、海外から取り寄せていますので、どうしてもその分CO2も排出しています。でも、木を植えているんだなと思ったら使いやすいし、いい気持ちで海に潜れると思います。あとは、森がすごい元気なところの海に潜ってみると、サンゴがものすごい元気です。一方で、山を崩しているところに潜ると、サンゴが全くいない、生物がいないんですね。ですので、完全に海と森はつながっているなと思います。だから、陸地からも大事にしていかなきゃいけません。海がちょっと身近じゃなくなってきていると思う時もありますが、自分のホームのように思ってくれるような人が、もっと増えたらと思っています」
クジラの写真集の出版にクジラツアーを開催中!
最後に、今後の目標や夢について伺いました。
「今、クジラの写真集を出していまして。1冊目はザトウクジラをメインとした写真集を2年ほど前に出版しました。次は、フリーダイビングで撮れるものないかと考えたら、やはりクジラがいいかなと。一番深く潜るクジラがマッコウクジラなのですが、2000m以上潜ると言われているんですね。これはフリーダイバーとしては大先輩だなと思いますので、そういうクジラの姿を見てもらうことですごさを感じてもらい、あとは彼らが住む海というのは彼らの家ですから、それを大切にしていこうという気持ちを持ってもらえたら」
クジラと泳ぐのはドルフィンスイムとはまた違った魅力があるとおっしゃっています。
「イルカも好きで、ハワイや小笠原で泳いできました。一緒に遊んでいると時間を忘れて、ワンちゃんと遊んでいるみたいな気持ちになります。クジラの場合は、体長が15mぐらい、観光バス1台分ほどありますので、大きくて畏れ多いという感じ。生き物としても食物連鎖の頂点に立っているわけですから、王者の風格があってすごいな、かっこいいなと思いますよ」




そんな篠宮さんはクジラツアーも開催されていらっしゃるので、参加されたい方は篠宮さんのSNSからお問い合わせください。また、初心者からプロまで養成されているフリーダイビングのスクールも運営。そちらも興味のある方は篠宮さんのSNSやHPなどからご連絡ください。