2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは、星景写真家の北山輝泰(きたやま てるやす)さん。海と星空の写真、海洋環境の変化による影響についてお話を伺いました。

バックの星空は朝焼け?夕焼け?実は・・・
山梨県にお住まいの北山さんにリモートでお伺いしましたが、背景には美しい景色が。何の写真なのでしょう?
「モンゴルで撮影した夜中の写真です。それまで満天の星が見えていて暗かったのですが、ほぼ満月に近い月がのぼってくると、地平線の付近がぼんやり明るくなってくるんですよね。オレンジのところが月がまもなく昇ってくる空で、上の青いところはまだ空が暗いところというその境界線の瞬間の写真です」
海と星は写真としては非常に相性が良い!
そんな美しい写真を撮る北山さんは「星景(せいけい)写真家」。星空と風景が同じ画角の中に写っている写真のことを星景写真と呼ぶそう。その中で、海と星空の写真も撮影されていらっしゃいます。まずは、その海と星空の魅力について教えてくださいました。
「星景写真を撮影しに行こうとすると、空が暗いところを求めるわけです。そうなってくると、陸地で撮影すると『光害』と呼ばれる都市の生活光が、ある意味で邪魔をして地平線付近の星がなかなか見えないんですよ。一方で、場所にもよりますけれども、海に行くと地平線の先には陸地がないので、暗い星が撮影できるわけです。ですので、その光害を避けたいなと思った時には、積極的に海に行くので、非常に星と相性がいいです」

狙って撮っている「皆既月食とムーンロード」
海と星空の写真にも、皆既月食や灯台といったさまざまな対象とともに撮影されていらっしゃいますが、撮る前に何かターゲットを決めているのでしょうか?
「撮影に行く時にいつも行うことなのですが、撮る星空が先に決まっています。例えば、皆既月食だと、それに合わせて、今回は東の方向で見えるとか南の方向で見えるとかあるわけですよ。ですので、例えば、東の方向で皆既月食が見られるのであれば、東の方が開けている場所を探そうということで海に行くわけです。ロケーションを決める前に星が決まって、それにマッチするロケーションを探すという流れですね」
皆既月食とともに、月の光が海に反射してできる「ムーンロード」も撮影されていますが、これはたまたまなのでしょうか?
「これは狙っておりまして。この皆既月食が起きるタイミングというのが、東の空すれすれでのぼってきてすぐの時もあれば、南の空の高いところで皆既月食になる時もあるわけです。撮影した時は、東の空の低いところで皆既月食が起きるという条件でした。月が低いところにないとムーンロードはできないので、今回の皆既月食はもしかしたらムーンロードが撮れるかもと思って、狙いにいきました」
狙った通りに撮影できると、とてもテンションが上がるそうですよ。

自然の難しさも感じつつ、助けられてもいる
夜明け前の海などで撮影するため、「時期的にやっぱり冬の海というのは風も強いですから、寒さとの闘いにはなります」というように、自然相手にシャッターを切る難しさがあるとおっしゃっています。
「私はある程度撮る写体が決まっていて、夜の中でもこれを撮りたいという時間は10分以内なんですよね。その瞬間を迎え撃って撮るわけですが、すごいワクワクドキドキします。また、やっぱり自然相手なので、自然の気分次第で撮れる時もあれば、自分が想定していた以上の光景になることも結構あるわけです。例えば、雲が出たことによって濃淡が生まれて立体感のある写真になることも。ですので、自然の中での難しさもありながら、自然に助けられている部分もあります」

潮はカメラの天敵
また、海での撮影ならではの注意点もあるそうで
「潮は本当に天敵なので、カメラになるべく潮が付かないようにカメラを覆うカバーみたいなものを併用しながら撮影したり、そもそもカメラが防塵防滴に対応しているものをなるべく選ぶようにしています。また、三脚は潮が付いたまま放置すると、サビが出てきちゃいますし、カメラに関しても水滴が付いてそれを放置するとカビの原因になるので、海での撮影は一番気を使いますね」
家族旅行中に思わぬシャッターチャンス
そんな苦労もありつつ、海での撮影を行っている北山さんに、印象的だったエピソードを伺ってみると
「以前、家族旅行で大阪から北九州に向かうフェリーに乗りました。そのフェリーの甲板で夜明け前に空を見ていたところ、東の大阪の方の空に水平線からオリオン座がのぼってきまして。さらに、それを追いかけるように金星がのぼってきたというすごい美しい瞬間があったんです。その時は、船に乗り海を移動しながら星を見るという経験がなかったので、すごい面白い光景だなと思って撮影したところ、非常にいい写真が撮れて。それは僕の中で思い出深い瞬間でした」

灯台の魅力を再発見
また、思い出深い海のスポットについても伺いました。
「おととしに新潟県の角田岬灯台と一緒に星を撮りに行ったことがあります。初めて行ったスポットでしたが、灯台の横に陸地に向かってのぼっていくような遊歩道があって、それをのぼっていって振り返った時に、灯台の明かりが水平線のところにポッポッと浮かびまして。遠くに灯台の明かりがぽっと光っていて、その上に北極星が灯っているという光景があったんです。灯台を遠くから見ると、真っ暗の中に浮かび上がるひとつの点光源でとても美しくて。間近で灯台を見て星の写真を撮ることは多かったのですが、離れて見る灯台もいいなと思って。そういうのをこれから巡って行こうかなと思いましたね」
写真では灯台の上に流星が降っていますが、ペルセウス座流星群とのことです。

海洋環境の変化が撮影に及ぼす影響
海においては、近年さまざまな環境の変化が起こっていますが、写真にも影響はあるのでしょうか?
「海水温の上昇は直結してきます。海水温が高くなってくると、どうしても雲ができやすくなってきます。すると、星を求めて海に行くのですが、その海のあたりが曇ってしまって星が撮れないことが近年増えてきている印象がありますね。本来透き通っているはずの冬でも、もやもやしているというのが増えてきている感じがあります」
皆さんは奇跡の瞬間を見逃している!それを伝えていきたい
また、変化については、年月を重ねることによるものもダイレクトに感じるとおっしゃっています。
「『元日の朝』というタイトルの写真がありますが、これは2022年1月1日、初日の出を迎える前の空。皆さん初日の出を見に来られますが、実はその前に細い月がのぼってきていたんです。この瞬間は、知ってる人じゃないと見ることができない光景なのですが、なかなかそういうのを知らない人が多いんですよね。日の出に合わせて来ていますが、その前に面白い瞬間があった。それを見逃している方が多いので、僕は自分の写真を通じて、星空を見る楽しさをもっといろんな人に知ってもらい、皆さんが生きている中ですごい珍しい光景や奇跡の瞬間があるんだよということを、いろんな方にお伝えしたいなと思いますね」

星の撮影にハマった教え子
そんな星に詳しい北山さんは、天文インストラクターもされていらっしゃいます。実は天文台で働いていたこともあり、もともと星を教えるのが仕事だったとのこと。その教え子の中には、嬉しい報告をしてくれる方もいらっしゃるそうで
「私の生徒さんのひとりで、登山が好きな高齢の男性がいまして。それまでは昼間に登山をして、昼間の写真を撮って帰るだけだったのですが、私と出会ったことで登山をして夜に星を撮るという新しい楽しみを見出したんです。それをなんと毎年の年賀状で報告してくれて。例えば、今回は何々座とどこの山を撮ったとか。そういう風に自分の生活の中に星が入ってきましたということをおっしゃってもらった時は、本当に嬉しかったです」
2029年の元日は天文史上まれに見るレアな夜空!
先ほど2022年の元旦のお話がありましたが、最後に来年2025年の元旦は何かトピックはあるのか伺いました。
「残念ながら1月1日が新月なので、先ほどのような細い月が見られるとかはないんです。だから、いつも通りの元日。けれども、2029年は1月1日に皆既月食が起きるんですよ。天文史上まれに見るレアな瞬間が1月1日の夜にあります」