水中写真家 / 屋久島ダイビングライフ代表

高久至

2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回のゲストは、水中写真家で屋久島ダイビングライフ代表の高久至(たかく いたる)さん。日本中を潜り歩いた中で出会った海、そして、屋久島の海の変化についてお話を伺いました。

日本1周の旅をして各地で潜る

「海も山も全て目の前」とおっしゃる鹿児島県の屋久島。この島の「志戸子(しとご)」という集落に住んでいらっしゃる高久さんは、プロの水中写真家として活動されています。まずは、水中写真家になったキッカケについて教えていただきました。

「いつ始めたかははっきりしてないのですが、大きなキッカケとしては2016年に日本1周の旅に出たこと。車にタンクをたくさん乗せて、日本中1年間かけて潜り歩いたんです。とにかく日本の海のことをもっと知りたい、伝えたいという思いで回ったのが始まりです」

海は子どもの頃から大好きで、実家の秋田県では小さい頃からおじいさんに連れられて海に行っていたとおっしゃっています。

知床の海に初めて潜った時は衝撃を受けた

日本各地の海に潜ったとおっしゃる高久さんに、印象的だった海を伺ってみると

「本当にどこも印象深かったので難しいですが、例えば、ひとつは北海道の知床半島。いま自分が潜っている屋久島の海と全く違うんですよ。冬に行くと、見られる生き物全てが100%違うぐらい。海はつながっているので、東京で潜ったとしても似たような魚がいますが、知床に初めて潜った時には1匹も知っている魚がいなくて驚きました」

どんな魚がいたのでしょう?

「例えば、“ナメダンゴ”という魚。ゴルフボールみたいに丸くて、お団子みたいな形をしていて、そこに大きな目がくりっとついていて、めちゃくちゃかわいいんですよね。その近辺でしか見れなくて、もうびっくりしましたね」

そのほかにも、知床で有名なクリオネも、流氷ダイビングで行った時にたくさんパタパタ泳いでいたそうで、「思った以上にいっぱいいてびっくりしましたね」と振り返ってらっしゃいます。

アザラシがつないでくれた出会い

旅をしているとさまざまな出会いもありそうですが、思い出深い出会いはあったのでしょうか?

「それもたくさんあります。日本各地の色んなところで潜らせてもらう時に『こんなことをしている人間です、潜らせてください』と言うと、面白がって色々と連れ回してもらえることも多くて。北海道の礼文島では、たくさんのアザラシがいたんです。ただ、そこが人の家の前だったんです。だから、お宅訪問をして『ちょっとお邪魔させてください』みたいな感じでお願いして、庭先からずーっと観察していました。そうしていくうちに、そのお宅の方ととても仲良くなって、ウニやアワビといったおいしいものを食べさせてもらえたりして、すごい思い出深かったです」

photo by Itaru Takaku

高久さんのHPを見ると、この写真のアザラシが表示されますが、礼文島で出会ったのは、まさにこのアザラシだとおっしゃっています。

「この写真はカヤックの最中に上から撮影しました。カヤックを漕いでいると、もうアザラシが気になってしょうがなくて。ずっと後ろからついてくるんですよ。こっちを警戒しているのもあると思いますが、ずっとこっちを見ていて。一定の距離でついてきては、また同じような感じで覗いているという」

「子育てを島でしたい」と考えて移住

続いて、屋久島の話題へ。屋久島に移住したキッカケは何だったのでしょう?

「屋久島に移住したのは2009年で、キッカケは子どもができたこと。何となく子育てを島でしたいという思いがあったので、とにかくどこか島に行きたいと思い、色々考えた結果、屋久島になりました」

決め手は何だったのか伺ってみると

「初めて訪れたのが2月でした。めちゃくちゃ寒くて海も荒れていて、たいして潜れなかったのですが、それでもとても面白い海だなと感じたのがひとつの理由です。そして、一番の理由は険しい自然。山は九州で一番高くて、海に関しては沖縄などと違ってあまり知られていなかったんですよ。未開拓というか未知の部分にすごい惹かれたというのがありますね」

屋久島は黒潮の影響で透明度が高くてキレイな海

そんな屋久島の海に潜ってみると、どんな景色が広がっているのでしょう?

「なかなか表現が難しいのですが、夏に潜るととにかく黒潮があたっていて青い。黒潮は『黒い潮』と書くように、プランクトンが少ないから栄養もないのですが、その分ものすごくキレイで温かくて。それが年間の半分くらい当たっているというのが屋久島のひとつの特徴です。その黒潮があたっている時に潜ると、とにかく美しい。透明度のいいキレイな海です」

また、屋久島の海といえば、ウミガメが有名です。「特にアカウミガメに関しては、北太平洋で一番の産卵上陸地と言われていて、ものすごい数が屋久島へ産卵のために訪れています」と教えてくださいました。水中で写真を撮っていると、ひょっこり現れることもあるそうですよ。

photo by Itaru Takaku
photo by Itaru Takaku

1週間連続で虹が見れることも!

また、屋久島では、生活していると陸でも特徴的なことがあるそうで

「屋久島らしいというのは、よく雨が降るんです。『1か月に35日雨が降る島』と表現されているほどで。また、島の場所によって全然天気が違うことが多くて、標高2000mという高い山があるから、東と西で全然違うんですよね。だから、晴れているなと思って、ちょっと違う方に行ったらもう土砂降りだったいうことがある。それぐらい気候が読みにくいところではあって。ただ、その代わり虹が多いですね。虹がよく出るので、1週間とか連続で見れることも普通にあります」

如実に感じる海の変化と温暖化の影響

そういった屋久島での暮らし・仕事の中、海の変化について何か感じることはあるか伺ってみると

「とりわけこの5年ぐらいですかね、温暖化で各地の海が変わっているとニュースでも流れていると思いますが、屋久島で毎日潜っていると、それをてきめんに感じるんですよね。年々見たことのない魚が流れ着いたりしていて、15~6年前自分が来た頃には、1匹か2匹しか見かけなかった魚が今はもう2~300匹で群れになって、沖縄のようだなという景色が広がっていたり。また、サンゴの種類も増えています。とりわけ今年はサンゴの白化が、住み始めてから今までで一番多かったです。これまで屋久島は、どちらかと言うとサンゴが増えていく一方で、白化はまだしないぐらいの緯度だと思っていました。けれども、それがもう屋久島ならず、東京の方ですらサンゴが白化したというニュースになっていたので、やっぱりちょっと尋常じゃないレベルで温暖化が進んでいるなと感じています」

海のことをまず知ってもらいたい。そのために伝えていきたい

おっしゃっている海の変化や問題について、どんなことを伝えたいのでしょう?

「それがひとつの大きなテーマでして、やっぱりなかなかどうやっていくかが難しいところなのですが、やはり声を上げながら、少しでも皆さんに知ってもらえるように努めていきたいなと思っていて。特に毎日潜っている身だからこそ感じられる本当の危機的な状況を、少しでも多くの人にまず認知してもらうこと。他人事ではなく、変わっていくと、どんどん人間の生活自体が大変なんですよというのを何とかうまく伝えていきたいなと思っています」

高久さんのHPの「ENVIRONMENT」というページには、缶の中から顔を出す魚やゴミに集まる魚といった写真がアップされています。

「そういったシーンばかりを毎日目にしています。缶と魚はかわいいなと思いながらも撮っていますが、ただ、海に浮かんでいるゴミが海底に沈むと、今度はそこにウミガメが絡まって死んでしまうという光景なんかもあって。そういうことを日々見ていると、やはり何とかしたいなという思いが強くなってきます」

photo by Itaru Takaku

高久さんにとって海とは?

最後に、高久さんにとって海とはどんな存在か伺いました。

「海とは欠かせないもの。自分にとってほとんど全てみたいな感じですね」

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