落語家

立川こしら

2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回のゲストは、落語家の立川こしらさん。子どもたちに海と環境問題を伝えている「海の落語」についてお話を伺いました。

全国の小中学校で出前授業を行っている「海の落語プロジェクト」

収録当日、長崎県の対馬市からお電話で出演してくださったこしらさんは、「海の落語プロジェクト」に参加されています。このプロジェクトは、海で起きている問題を、日本の伝統的な話芸である落語を通してお子さんたちに伝えるもの。こしらさんをはじめ、10名以上の落語家さんが参加していて、全国の小中学校を訪問。7年間でなんと250回以上の出前授業を行っていらっしゃいます。まずは、どういう経緯でプロジェクトがスタートしたのか教えていただきました。

「元々は、気象予報士の井手迫義和(いでさこ よしかず)さんと一緒に、一時期ラジオをやっていたことがありまして。その時に、地球の環境について『チーム・マイナス6%』と言って、いろんなものを6%削減しましょうよということをテーマに、色々と行っていました。そこで、地球の環境問題ひいては海の問題が、もう我々の世代で手をつけていかないと次の世代に大変な負の遺産を残してしまうと。だから、できることがあるなら、今から早めにやっていこうと言い出したのが、今から15年以上前です。それで少しずつ規模を大きくして、賛同者を集めて、今これだけの数の出前授業ができています」

落語で生徒たちの心をつかみ、海の問題を知ってもらう

出前授業というのは、具体的にどんなことをされているのでしょう?

「まずは落語の一番の取り柄である笑いですね。ここを使って、小中学生が飽きないように工夫する。この部分が落語の受け持つところです。私も子どもの頃を思い返すと、授業というと退屈なイメージがついちゃっていますから、授業ではなく、これから楽しい話をしますよと。そうして、みんなの集中力を高めておいて、その中に学びをいくつか入れていくというのが落語が受け持つパートです。そこで生徒たちの心をつかんでおいて、その後で専門家と一緒にパネルディスカッションやクイズ大会などを行い、子どもたちにも参加してもらいながら、より深く学んでいくという2部構成になっています」

子どもたちだけではなく、先生方からも大好評とのことで、先生からは「子どもたちが普段の授業ではあんなに前向きになることがあまりない。だから参考にさせてもらいます」という声もいただいているそうですよ。

教える側ではなく、教わる側だったと知った

そんな出前授業を数々行っている中で、印象的だったエピソードを伺ってみると

「世代的にも耳が痛い話だったのですが、ごみの問題ですから、やはりポイ捨てが出てくるんですよ。私が子どもの頃は、ポイ捨てなんて普通にありました。ところが、今の子どもたちは、生まれてからこれまでポイ捨てなんかしたことがないと答える生徒がすごく多くて。若い世代の方がちゃんとしてるんだと、逆に私たちこそ子どもたちに学ばなきゃいけないなと授業を行う度に思いましたね。教える側ではなく、実は我々の世代こそ教わる側だったんだと授業を通して感じることができました」

この日こしらさんがいた対馬でも学びがあったとおっしゃっています。

「対馬は、日本と韓国とのちょうど真ん中にある島。ここでは漂着ごみが問題になっています。対馬の北側の海岸には、実は海外のごみが流れ着くことが多いんですけれども、南側の海岸は、北に比べると海外のごみが非常に少ない。だから、ひと括りに海外から来ているゴミだと決めつけるのが危険だなと。実は我々住んでいる人たちが出しているゴミが、また海に流れ着いている。島だからといって外から来たゴミだけではない、自分たちもこうやってゴミを出してしまっているということを改めて考えなくちゃいけないなというのは、取材を通して知ることができました」

ご当地の海の環境や先人たちの経験から学ぶことも多い

また、ご当地の落語も披露されているため、ご当地の海の環境から学ぶことも多いとおっしゃっています。

「長崎県・大村湾についての落語をつくって披露する機会がありましたが、そこは海の近くですから、皆さんの海に対する信仰というのが古くからあるんですよ。昔から奉っているものがある。今の現代科学だとつい否定してしまいそうな考え方なのですが、海あるいは自然というものに恐れをちゃんと持っている。我々人類があまり調子に乗らないためには、こういった信仰や考え方がすごく大事だなと。海には神様がいて、悪いことをすると大変な目に遭うんだよという根源的な考え方というんですかね。科学的に言われると、ちょっと縁遠いものになってしまいますが、ここに民話や伝承というものが絡んでくると、より身近に感じられるんだなと取材を通して感じた一端でもありました。そこには、暮らしてきた人達の経験、それを乗り越えてきた過程とかが含まれているんですよね。昔の人たちは実はこういうことを言ってたんだと。今になって調べてみると、科学的に正しかったこともあるので、先人たちの経験というのも、我々がしっかり掘り起こして活用していく、そんな世代に入っているのかなとあちこちで感じることができますね」

貴重な裏話!海の落語のつくり方

そういったさまざまな海の学びを得ている中、どのように海の落語をつくっていらっしゃるのでしょう?

「基本的には2通りです。専門家とディスカッションをしながらつくっていくパターン。もうひとつは、実際に現地に行って取材をしながらつくるパターンとあります。専門家の方とお話をする場合だと、詳しいデータがもらえますから、それに基づいた未来予想なんていうのも数字上でできるじゃないですか。だから、ここから先どうなっていくか、それを止めるにはどうしたらいいかみたいな話がつくれます。現地で話を聞くと、これまでどんな歴史があったのか、どんな困難を乗り越えてきたのか、昔と今ではどう違うのかというところも、対比して見せることができるので、どちらも織り交ぜながらつくっていくことが多いですね」

実際に川崎を舞台にした落語では、地元の人も知らなかったことが盛り込まれているとおっしゃっています。

「川崎がまさか海苔の一大拠点だったなんて、実は地元の人も意外と知らない。そういった歴史と環境問題をセットにして考えることはあまりしていないと思うので、そういう意味では、歴史好きの人にもひょっとしたら環境というアプローチができるかなと感じています」

神奈川県川崎市を舞台にした「どこだ!」のほか、さまざまな海の落語は「海の落語プロジェクト」のWEBサイトのほか、YouTubeチャンネルでも視聴できますので、ぜひご覧ください。

苦労なく何かを知ることができるのが「笑い」

そんな落語といえば、やはり「笑い」ですが、笑いにはどんな力があると考えているか伺ってみると

「笑いは何よりもリラックスする効果があると思うんですよ。やっぱり緊張して勉強するぞとなると、なかなか頭に入ってこない。けれども、笑っている間に自然と身についた、自然と理解することができたというように、苦労なく何かを知ることができる、身につけることができるというのが、笑いの一番の要素・効果だと思っています」

古典を披露する落語家だからこそ未来への伝え方も知っている

最後に、落語と海の未来について伺いました。

「落語は古典ですから、古いことばかりに意識が持っていかれがちです。ただ、未来に残すためにはどうしたらいいか、そして地球の環境やいま住んでいるこの豊かな自然を未来に残すにはどうしたらいいか、それは歴史から学ぶことも多いと思います。ですので、古典落語をやっている、伝承芸能をやっている落語家だからこそ、未来への伝え方というのを、実は一番詳しく知っているんじゃないかなという自負も持っています」

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