一般社団法人「ドリームやまがた里山プロジェクト」事務局長

高橋雅宣

2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回のゲストは、一般社団法人「ドリームやまがた里山プロジェクト」事務局長の高橋雅宣(たかはし まさのり)さん。自動車の廃材を使ったライフジャケットとバリアフリービーチ構想について伺いました。

シートベルトやエアバッグが今度は海で人命を守る!

山形県の一大イベント「芋煮会」のシーズン真っ最中に、リモートで出演いただいた高橋さん。まずは、自動車の廃材でライフジャケットをつくろうと思ったキッカケについて伺いました。

「山形県には全国で唯一だと思うのですが、県内の全メーカーディーラーが株主という『山形県自動車販売店リサイクルセンター』があります。このセンターでは、使用済み自動車の解体・リサイクルを行っているのですが、その中でシートベルトやエアバッグをリサイクルして、ビジネスバッグやファッションバッグをつくっているんですね。そこで、車で人命を守ってきたエアバッグやシートベルトを、今度は海で人命を守るライフジャケットに生まれ変わらせようと、制作することにしたわけです。自動車廃材のリサイクルで安全な海をということで、この事業を日本財団さんに助成いただいてつくりました」

浮力を解決するために選んだのは・・・

「生命を守る」ことについて陸から海へとつなげるという素敵な取り組みですが、全てが順調ではなかったとおっしゃっています。

「ライフジャケットをつくるにあたり、浮力材という問題がありました。中に入れる浮力ですね。これをどうしようか迷っていたところ、同じく海に関係するもので解決しました。海洋ごみのひとつ“マイクロプラスチック”、これの要因だと言われている生鮮食品などを入れている発泡スチロールの箱です。これを廃棄する会社さんから譲り受けて、それを試したらうまくいきました」

バリアフリービーチ構想へとつながったキッカケ

ライフジャケットを制作した後、とあるイベントをキッカケにさらならアイデアが浮かんできたそうです。そして、それがバリアフリービーチ構想へとつながったとのことです。

「海水浴場で、ライフジャケットの着用率を高めるという海の安全講習会のような事業をしていました。その際、たまたま訪れた海水浴場で、障がい者の皆さんと施設職員の方が、浜辺で一緒に海を楽しむイベントを行っていたんです。それがヒントになって、色々と企画検討をして、そのアイデアを構築し、事業化するための議論を重ねていったわけです」

バリアフリービーチ構想はどんな内容なのでしょう?

「建物や街の中でバリアフリー化が進んでいますよね。山や自然全体もそうなのでしょうが、これが海となるとそうはいきません。そこで、私たちは海・海水浴場などのバリアフリー化、障がい者と健常者が一緒に海を楽しみ、マリンアクティビティなども体験できるバリアフリービーチをつくって、海から共生社会を目指したいというのが、バリアフリービーチ構想です」

車椅子のまま砂浜へ

そんなバリアフリービーチ構想での具体的な取り組みを教えてくださいました。

「日本財団さんから助成いただきまして、2020年に山形県鶴岡市の鼠ヶ関(ねずがせき)海水浴場に、車椅子のまま砂浜へおりることができる常設のスロープを建設しました。実は、この工事も自動車の廃材にこだわっていまして、コンクリートの中に廃棄される車両のバンパーや窓ガラスを粉砕して混入しています。この常設スロープによって、鼠ケ関海水浴場は今、バリアフリービーチの中心になっています。同様に、2022年には、2つ目のスロープを遊佐町(ゆざまち)の西浜海水浴場にも建設しました。それだけではなく、車椅子のまま砂浜を移動できる通路もつくりました。これも車にこだわっていて、古タイヤをリサイクルして黒いゴムマットをつくりました。それをイベント時には砂浜に敷設する。スロープとゴムマットによって、車椅子のまま直接砂浜へというバリアフリービーチの完成というわけです」

自動車の廃材活用というテーマの中、CO2の削減とSDGsの考え方も一緒に合わせたような形の構想だそうです。

障がい者の意見をもとに改良

海・砂浜が利用しやすくはなりましたが、さらなる改良を続けているとおっしゃっています。

「イベントを行う時には、必ずスロープと黒いゴムマットをつなげる形にしています。その中で、私も勉強させていただいたのですが、さまざまな障がい者がいらっしゃって、例えば、色弱者(しきじゃくしゃ)の方は黒いマットだと見えにくいそうなんです。そこで、どうすればいいですかと聞いたところ、病院の廊下によく淡い色の線が引いてありますが、あれと同じようにゴムマットの上に淡い白やクリーム色での線を引いてもらうと、色弱者の方も活用できますよというご意見をいただいて、色々と改良をしながら進めている状況です」

障がい者も両親も初めての体験に涙

さまざま取り組みをされている中、体験した方々はどう思っているのでしょう?

「ある時のイベントでは、人工呼吸器をつけている重度の方も参加されました。その際、BIGSUP(ビッグサップ)に車椅子のまま乗ることが可能で、サポートできるスタッフも揃っているので、その障がい者の方と親御さんに『行きましょうね』と言ったら、お母さんが大反対されまして。『万が一にも水が入ったらどうするんですか』と。そこで、我々からは『スタッフが慣れているから大丈夫ですよ。ぜひお子さんに体験させましょう』と、しっかりご説明しまして、お子さんと親御さんを一緒に乗せたんです。すると、お子さんの表情がかたかったので、私にはわからなかったのですが、お母さんがおっしゃるにはお子さんが笑ったんだそうです。ニコッって。『あんな顔を見たことなかった』とお母さんがおっしゃり、感激して涙を流されて。そのほかにも、小学校の高学年のお子さんが、海に初めて来た時がありまして。なぜ小学校高学年なのに海が初めてなのかと聞いたら、施設の方から『実はご両親ともに目が不自由』とお聞きしまして。ということは、お子さんを海に連れてこれなかったんですよ。だから、今回たまたまバリアフリービーチに親御さんが参加され、子どもも一緒に来たから海に入れたと。その時に初めて海の水がしょっぱいことに気づいたと話していました。そんなこともあって、色んな家族さんがいらっしゃるし、家族の中でも障がいとの色々な関わりがあるんだなと実感したイベントでした」

さらに進化させて山形モデルを全国へ!

最後に、今後の展望について伺いました。

「これまでは、障がい者の皆さんとそのご家族、そして、施設の方と一緒に楽しみ喜んでいただいていたのが、我々のイベントだったわけです。そうした中で一歩進んで、例えば、福祉や医療関係の大学の先生などと共同して、障がい者の皆さんや高齢者の方が海で楽しんだ後や楽しんでいる最中にどのような精神状態なのかといったことを検証できないかなと考えています。医学的までいくとハードルが高すぎるので、影響だったり、心理的・精神的な安らぎだったりを数値化できないかと考えていて、そんなことをモデル化するような事業に展開できないかと検討中なんです。海で身も心も元気になるという実証事業をやりたいと思っていて。実際、協力してもいいとおっしゃてくれている先生がいますので、例えば、その先生が論文などに仕上げて、それを全国のリハビリテーション関係や福祉などの施設・大学に広げてもらう。そうすれば、山形モデルでスタートしたものが、その先生の力を借りて全国に広がる。そういった形で、海に行くことによって身も心も元気になるぞと、特に高齢の方々も海に行けば元気になるぞということをモデル化できないかと考えています」

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