2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは、東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター特任講師で、一般社団法「3710Lab(みなとラボ)」主宰の田口康大(たぐち こうだい)さん。デザインや教育などを通して海とつながる活動されていらっしゃる田口さんにお話を伺いました。
3つの意味を込めた「3710Lab(みなとラボ)」
主宰されていらっしゃる「3710Lab(みなとラボ)」は、特徴的な名前ですが、まずはどんな意味があるのか教えていただきました。
「3つ意味がありまして、まずは、地球の表面積上で海が7割で陸が3割という比率で、3と7を足すと10になるので3710。あとは、『みなと』というふうに読ませているのは、みんなが集まる場所が『港』だから。3つ目は、みんなで一緒に考えたいというのがあって、3と7で『みんな』、10で『TO』て読ませて、『みんなとラボしよう』というテーマを込めています」
海との掛け算でさまざまなプログラムを提供
そんな「みなとラボ」の設立は2015年。海と人とを学び、哲学をテーマに次世代の教育をデザインし、提供するプラットフォームとのことですが、具体的にはどんな活動をされているのでしょう?
「少しずつやっていることが変わってきてはいるのですが、海と何かを掛け合わせているのが基本です。例えば、学校でプログラムを提供したり、ワークショップをやったり、学校以外でも地域と連携しながら海をテーマにプログラムを行っています」

いま特に力を入れているのが「デザインから海とつながる」
みなとラボの特徴のひとつは、色々な人と協力しながら、それぞれのアプローチでプログラムをつくっていることだそう。中でも、いま特に力を入れているのが「デザイン」だとおっしゃっています。
「デザインと聞いた時に、多分いろいろと思い浮かべるものがあると思います。例えば、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、ソーシャルデザインなどさまざまですが、我々はそのデザインという力を海にもっと引っ張ってきたいというのがそもそもありまして、プロダクトデザイナーやグラフィックデザイナーなど、デザインの色んなジャンルの方々と、それぞれの特徴を生かしたプログラムをつくっています。例えば、企業にお勤めの若手デザイナーさん10人が集まって、それぞれが海に思いを馳せられるプロダクトをつくろうと。そして、プロダクトデザイナーの深澤直人さんを講師にお迎えして、3回のワークショップを行い、最後にお披露目するということを実施しました」
どんな作品が生まれたのでしょう? 「地平線で海を見るとまっすぐに見えますけど、実はちょっとなだらかなんです。すごい面白かったのが、それを描く定規をつくった人がいて。実際に見たらほぼ真っすぐなんですけど、それを重ねていくと、ちょっとだけ緩やかになるという。その定規の他にも、色んなものが生まれましたね。さらに、みんなで体育館でそれを描いてみようというワークショップをやろうかといった広がりも生まれました。あとは、砂浜からあがってきた時の足の形を残したラグをつくったり。デザイナーは、家に帰ってきた時に、そのラグがあれば、海に入っていく感じなのか、海から上がっていく感じなのか、いずれにしても海とのつながりを想起できるだろうということで、ラグをつくっていました」

書籍化され、商品化を目指すなど広がる成果
行ったワークショップから大きな広がりを見せているそうです。
「デザイナーの方々は、何かの課題に対して形にしていくのがお仕事です。けれども、海が課題になる時は、例えば、海洋ごみは解決しなければいけない問題ですが、その課題のもっと手前の海へと人をつなぐためのデザインは何になるのかと考えてもらって、その中で海について学ぶこともありますし、逆にデザイナーだからこその提案もあったりします。そんなワークショップの成果として、『OCEAN BLINDNESS』という書籍にまとめました。さらに、この中から実際に商品化を目指そうという動きが出てきています。企業にそのアイデアを持ち帰って、例えば、テレビが得意といった企業では海の視点をどうつなげていけるのかを、また違う形で展開しているというのが現状ですね。例えば、ホッチキスをつくるメーカーの方も参加していて、そのホッチキスを海洋プラスチックのリサイクルでつくりたいと。実際には難しかったみたいですが、このように企業に持ち帰って、企業の中に海の視点を広げてくれる役割も担っています」
親もワクワク!海と結びつけた「教育」
みなとラボでは、そういったデザイン以外にどんなプログラムを行っているのか伺いました。
「みなとラボのメインの事業で、大きな柱のひとつが『教育』です。海と教育を結びつけた時に、いろんな形があると思うんですよね。知識を伝達するというのも教育だと思いますが、僕らが何をやっているかというと、例えば最近では、流れている水を想像するワークショップ。道を歩いている時に、その道の下に水が流れているとはあまり意識しないですよね。でも実際には、水が流れていて、海から雨になって山に降り注いで、それがまた地下を通ってきて海に流れているという循環があるわけですね。でもそれは想像でしかわからない。では、それを想像してみようというワークショップ。想像してみて、ここにどういう水が流れているかを描いてみる、さらに、それはどういう音がしているのかというのをオノマトペで表現してみて、それを作品にし、みんなで見るということを行いました」
実際に、どんなオノマトペでの表現があったのでしょう?
「例えば、『ゴーゴー』とかもありますし、水滴のように『ピチョンピチョン』もありますし、本当にいろんな形があって。そのオノマトペを交換し合ったりすると面白いんですよ。自分が思い描いたその水の流れに、ほかの人のオノマトペを重ねてみるという。漫画みたいな感じですね。絵があって、そこにオノマトペの文字で重ねるという感じなんですが」
想像がより膨らみそうなワークショップですが、参加者はどんな反応だったのでしょう?
「小学1年生から6年生まで年齢制限なく行いました。親御さんも参加されていたのですが、ちょっとずつ大人の方が楽しくなってきて。そういった中で、親子の交流が生まれていくのを狙いとしているところもあり、また、友達同士で新しい交流ができるなど、海をきっかけにそれらが生まれてきてうれしいなと思います」

かつては教科書に掲載されていた海
「つなぐ」をキーワードに、さまざまな活動をされている田口さん。それは今の時代、「海と人とが離れていると感じる」からだとおっしゃっています。
「僕は教育が専門でして、もともと海とは関係ない仕事でした。ただ、海に関わる大きいキッカケとなったのは、東日本大震災です。東日本大震災があった後に、東北生まれというのもありますが、海が怖いというイメージが先行したと思うんですよ。では、その怖い海とどういう風に関わっていくのかを考えなければいけないなと思って。でも、その考える空間が社会にはないですよね。ですので、そういう考える空間をつくらなければいけないと思ったのと、そこから色々と調べていたら、色んなところで海と人が離れ過ぎていると感じてきたんです。例えば、教育の視点でいうと、学校の教科書の中から海がどんどんなくなっています。戦後の1950年代は、海だけで1冊の教科書ができているほど、海がすごい重要だったわけです。でも、60~70年代になっていくと、1次産業から2次、3次産業と工業の構造が変わっていく。すると、海が教科書からなくなるんです。その結果、海に触れずに成長してしまうことが実際にあるんです」
そういった海離れを感じている中、みなとラボを設立して10年で手応えも感じているそうです。
「10年前だと海に関わるプロジェクトは、清掃活動や魚など、いくつかしかアプローチがなかったと思うんですよね。でも、今はいろんなアプローチが増えていて。デザインもそうですし、アートもありますし、写真、文学、民俗学などさまざまなアプローチが生まれてきています。それをつくったひとつのキッカケが、私達にあるのではないかと勝手に自負しています」
海洋教育を推進するための研究と実践
みなとラボでの活動の一方で、東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センターで特任講師もされている田口さん。こちらではどんなことを教えているのでしょう?
「『海洋教育』という文言で活動していて、ひとつは全国に海洋教育を普及させていくのが目的です。けれども、海洋教育と言われてもイメージがつかないですよね、海も色々とあるので。では、全国で海洋教育を広めていくときに、何をやらなければいけなくて、どういうフレームワークでやらなければいけないのか、また、学校だったら評価もしなければいけません。そういった海洋教育を推進するための全体を、研究としてつくって実践しています」
海の魅力は「愛」と「恐れ」の両方があるから
みなとラボでも東京大学でも、海にまつわる活動をしていますが、その際に大事にしていることがあるとおっしゃっています。
「海は、『愛』と『恐れ』のどちらもあるからこそ、魅力的だと思うんですよね。実際に、島国である日本は海から離れて暮らすことは難しいです。そうであれば、恐れ、例えば、津波や高潮などとどう付き合っていくかも考えなければいけません。でも、そればかりだとシリアスになり過ぎてしまい、海が嫌になってしまいます。ですので、海の魅力、楽しさも同時に感じないと、海と関わり続けていくことできないなとは思っているので、その両方を大事にしています」
田口さんにとって海はどんな存在?
最後に、田口さんにとって海はどんな存在なのかを伺いました。
「海というのは、『対話する相手』だと思いました。海とどう関わっていくんだろうということを常に考え続ける、対話し続けている感覚があるんですね。また、海を介して色んな人と対話しているので、海が対話相手でもあり、対話をつないでくれる存在でもあって。となると、私にとって海は対話の相手。人と対話する時って、相手をコントロールできないですし、海もコントロールできないんですよ。近づきたいし、近づきすぎることもできないし、離れると今度は遠くなっちゃいますし。その適当な距離を生み出さなければいけないなと思っています」







