シーベジタブル 共同代表

友廣裕一

2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回のゲストは、シーベジタブル共同代表の友廣裕一(ともひろ ゆういち)さん。日本全国の陸と海で実施する海藻の養殖、そして、食と海洋環境における海藻の広がりについてお話を伺いました。

海藻の養殖として世界初の取り組みが!

さまざまな海藻が描かれているオリジナルのTシャツを着て、スタジオにいらっしゃった友廣さん。そんな彼が取り組んでいるのが、海藻の養殖です。まずは、陸上での養殖について教えてくださいました。

「我々シーベジタブルは、スジアオノリという海藻を陸上で生産することから始まった会社です。スジアオノリは、もともと川の河口域で育つ海藻でして、“汽水”という真水と海水が混ざるところでしか育ちません。最も大きい天然の産地が高知県の四万十川だったのですが、その収穫量は毎年半減していき、2020年にはゼロになってしまいました。アオノリはニッチな食材なのですが、ないと困る人達がいて、例えば、お好み焼き、たこ焼き、ポテトチップス、七味とかに入っています。収穫量がゼロになる少し前の2016年に、シーベジタブルは創業しまして、最後の無くなりかけている、もう仕入れられないかもしれないという中で、『なんとか陸上でつくってくれないか』というお声がけをいただいて、会社を立ち上げました。なぜ陸上でかというと、例えば、果物のブドウであれば、地球温暖化で気温が上がったら産地が北に行く、北海道が良い産地になりましたということがあると思います。けれども、アオノリの場合は汽水でしか育ちませんので、栽培できる場所がすごく限られる。栽培できるぐらい広い汽水域がある川がそんなにないんですよね。だから、陸上で育てるしかないということで、高知県の室戸岬に拠点をつくり、創業しました。そこでの養殖では、海の近くで井戸を掘る方法をとりました。すると、海水が染み出てきて海水を取水できるのですが、地熱で温度が安定する。それを使うことで、化石燃料を使って温度調整をする必要がなく、環境的にも負荷が低くなる。この方法を海藻の量産で利用することは、世界初となりました」

手間はかかるものの最高の海藻が育つ

自然の力を利用した世界初の海藻養殖という偉業の一方で、大変なこともあるとおっしゃっています。

「手間がかかるんですよ。もともとほとんどの海藻は、天然のものをとってくるだけなので、栽培しなくていいんです。一方で、僕らは水をくみ上げて水槽で育てています。そのすべての水槽を1週間に1度洗うという作業があって。最も小さいもので直径1m、ほかにも、2m、5m、10mとあり、一番大きいものだと20m以上。それを1週間に1回全部洗っているので、学校のプールを掃除している感覚ですね」

ただ、手間はかかる一方で、品質は高くなるそうです。

「天然で育てるものよりも、香り成分がすごく多いというデータも出ていて、最大4.5倍も香り成分が多いという結果が出ています」

そんな良質の海藻の中から、“すじあおのり”を持ってきて頂きました。オシャレなパッケージは、社内のデザイナーが担当。Tシャツのデザインも全て担当されているとのことです。

世界一のレストランのシェフから「海のトリュフ」と称される

開封してみると、良い香りが広がります。また、青のりというと、細かく刻んだものを思い浮かべますが、この“すじあおのり”は、柔らかい繊維状になっています。

「本来はこの形状なんです。なぜ一般的な青のりが細かく刻んだものかというと、川のものだと、異物が付着してしまいます。中には食べてはいけないものもついてしまいます。ですので、一般的な青のりは、乾燥させて、粉末にして、異物選別をするという工程をしないと市場に流通しません。僕らも売っていると『青のりってこんな形していたのか』、『短く生えているのかと思っていました』と言われます」

味も一般的な青のりとは違うそうで

「デンマークのコペンハーゲンにある“ノーマ(noma)”というレストランは、世界一を5回も獲得していて、映画にもなっているのですが、そのレストランのシェフが僕らのこの青のりを食べて『海のトリュフ』だと表現してくれたんです。その表現を聞いてから僕らも考え方が変わりました。ハーブとかスパイスという位置づけで捉え直した方が、可能性をちゃんと捉えられるんじゃないかと思っています。実際に、フレンチやイタリアンのシェフがたくさん使ってくださっていて、広がっていると感じています」

栄養も豊富なミラクルフード

香りも味も格別とのことですが、さらに、「シーベジタブル=海の野菜」と言うように栄養も豊富だと教えてくださいました。

「青のりは、意外と知られていませんが、栄養が豊富で、例えばタンパク質が30%も含まれています。あとは、鉄分がほうれん草の64倍ぐらいあり、ほかにも、マグネシウム、カルシウム、カリウムといったミネラル系も含まれているのでミラクルフードですよ」

日本の海域だけで1500種類以上!しかも全て食べられる

そんなスジアオノリだけではなく、日本には多くの海藻がありますが、何種類あるのでしょう?

「実は日本の海域だけで1500種類ほど生えているそうで、しかも、海藻は全部食用になると言われているんですよ。毒がないという意味で食用になるという。そして、日本では、全国で50種類ぐらいが食べられている言われていますが、局所的な食文化がたくさんあるのが特徴で、この島でしか食べられていない、この地域でしか食べられていないという海藻がたくさんあります」

しかし、その食文化が今、危機に瀕しているとおっしゃっています。

「色々な生き物に海藻を食べられてしまい、海藻がどんどんなくなっていく『磯焼け』が起こっています。海藻がなくなると食文化ごと消えていきます。今まで天然でとっていたので、とれなくなったら誰もどうしようもないんですよ。例えば、おばあちゃんの味として『海藻の料理がすごいおいしかった』ということがあったとしても、もう二度と食べられない、思い出の味に変わっていくという料理が日本中にあります」

今までやっていなかった海での養殖にトライ

そういった海藻と食文化を守るために、シーベジタブルでは海での養殖も行っています。その方法について伺ってみると

「我々のもとに研究者が今たくさん集まってきていて、海藻の種をつくる技術を開発しています。そして、30種類ぐらいの海藻の種を量産できる技術ができました。そこで、次に行ったのが、海で新しく栽培する。今までなかった方法を新しく確立して、栽培できるようにしています」

「種をつくる技術」というと簡単そうに思えますが、陸上の植物の種とは違うそうです。

「海藻の種類によって、種の出し方が違います。例えば、陸上植物だと、花が咲いて受粉して、実がなって種ができる。でも、海藻はそこが違うんですよ。種類によって増え方が違うので、そのメカニズムを解き明かすところからスタートするんです。そして、それができたら、その海藻に合った育て方を研究して、実装していきます」

今では、ヒジキやトサカノリ、昆布の養殖が可能になっているそう。また、千葉県などで愛されている“ハバノリ”という海藻も栽培しているとのことです。

海での栽培は海の生態系にも好影響!

さらに、海での養殖は、“食”への貢献だけではなく、海自体にも良い影響があると分かったそうです。

「誰も今までデータを取っていませんでしたが、今回、日本財団さんと一緒に、北海道で昆布、瀬戸内海でヒジキ、九州でトサカノリを栽培し、栽培している海と栽培してない海でどれぐらい生物の資源量が変わるかという調査を行いました。すると、実際に、いろんな生き物が増えまして、特に“ワレカラ”や“ヨコエビ”という小型の生き物が増加したんです。これらの生き物は、生態系のピラミッドで言うと、一番下が海藻だとしたら、その上の生き物。この小型の生き物がどれぐらい増えるかによって、その上の魚といった生き物の資源量が変わってくるんですね。そこで、サンプリング調査などを続けたところ、すごい生き物の量が変わるんですよ。例えば、海藻の表面に付くコケみたいな珪藻というものを食べる生き物がいたり。本当に海藻があることで、あらゆる生き物が増えていく。海で海藻を栽培するのは、陸上で言ったら、砂漠に木を植えるみたいな行為と等しくて、生態系を豊かにするための行いだと言えるんじゃないかなと思っています」

食べれば食べるだけ海の森を広げていける

砂漠に木を植えることと等しい行為だという海での海藻栽培。さらに、好循環も起こるとおっしゃっています。

「砂漠に木を植える場合は、そこで終わりという寄付的な行為だと思いますが、海藻が面白いのは、植えた後にもう一回収穫して食べられるんですよ。逆にいうと、食べれば食べるだけ海の森を広げていける。そこで、次のステップとして考えているのが、消費をどう増やしていくか。僕らは漁師さんと一緒にやっていて、漁師さんも広げていきたいと思っているのですが、結局売れるかどうかなんですよ。だから、次はそこを考えるべきだなと思っています」

そこで、シーベジタブルでは、社内に3人のシェフが。そして、ポップアップレストランとして海藻天ぷら専門店を開くなどしているとのことです。そのお味はというと

「海藻は、油との掛け合わせ、クリーム系やチーズともすごく相性が良いんです。海藻の天ぷらを並べると、それぞれ食感も風味も違って、肉や魚がなくても満足できました」

伊勢丹新宿、日本橋三越本店とコラボ!

そんな海藻グルメが味わえる、魅力に触れられるフェアを、伊勢丹新宿店と日本橋三越本店とコラボして開催。伊勢丹新宿店では9月18日から10月1日まで、日本橋三越本店では9月25日から10月1日まで行っています。どんなフェアなのでしょう?

「食品フロア全体で、我々の海藻を使っていただいた商品を展開しています。和菓子、洋菓子、和総菜、洋総菜、多国籍のお惣菜、生鮮、グローサリーからパンまで、伊勢丹新宿店さんと日本橋三越本店さんであわせて120店舗以上で、170商品以上の海藻を使った新しい食べ物が販売されます。例えば、“ノワ・ドゥ・ブール”という大人気の焼き立てフィナンシェのお店がありますが、そこで提供するのが、青のりを使ったチーズとナッツが入ってるフィナンシェ・サレみたいなもの。甘じょっぱくて、ワインに合って、いくらでも食べられます。あとは、“HiO ICE CREAM”というお店では、透き通ったミルクのアイスに青のりが入っているんですけど、めちゃくちゃ合うんですよ」

アイスクリームと青のりとは意外な組み合わせですが、これが栽培している海藻だからこその特徴なのだそうです。

「雑味がないというか、磯臭さがないとよく言われます。僕らの海藻は、どれも収穫してすぐに乾燥させたり、加工したりします。生の状態で置いておくと、魚と同じように臭いがついてしまいますが、そこは料理人が社内にもいるので、品質管理を徹底してやっています。ですので、『雑味がないからスイーツなどにも合わせられる』と言っていただいていますね」

もっと海藻を食べて欲しい!輪に加わって欲しい!

最後に、友廣さんに今後の目標について伺いました。

「今回のフェアもそうですが、海藻をもっと食べる頻度が増えていけばいいなと思っていて。おいしく食べてもらうことで体も健康になるし、海も豊かになっていく、そういう社会をつくっていけたらなと思っています。ですので、是非こういう機会も含めて、何かおいしい食べ方に出会っていただけたらいいなと。そして、この海藻の取り組みをずっとやってきていますが、悲しむ人がいないんですよね。みんながちゃんと幸せになっていく事業だなと思っているので、ぜひ皆さんにも輪に加わっていただけたら嬉しいです」

アーカイブ

  • 木村尚

    都会の里海 東京湾再生ものがたり(前半)

    木村尚

    NPO法人 海辺つくり研究会 事務局長、環境活動家

  • 木勢翔太

    魚が食べ物へと生まれ変わる現場へ おやこ体験留学

    木勢翔太

    株式会社雨風太陽「ポケマルおやこ地方留学」運営

  • 近藤倫生

    バケツ一杯の海水から集めたビッグデータで海の温暖化を探る

    近藤倫生

    東北大学大学院 教授

  • 齊藤いゆ

    お魚専門シンガーソングライターが歌う海と魚の魅力

    齊藤いゆ

    お魚専門シンガーソングライター

  • 鈴木香里武

    漁港は魚の生態と海の環境を知る身近な入り口

    鈴木香里武

    幼魚水族館 館長 / 岸壁幼魚採集家

  • 中村拓朗

    磯焼けの海に、命と多様性を取り戻すために

    中村拓朗

    水中自然観察家/YouTuber