2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは、総合研究大学院大学 統合進化科学研究センターの教授・渡辺佑基(わたなべ ゆうき)さん。研究されてらっしゃる海洋生物の生態系についてお話を伺いました。

ペンギン、アザラシ、サメなどの生態を研究
まずは、渡辺さんの専門分野について教えていただきました。
「私の専門は、海の生態学です。ペンギン、アザラシ、それから今はメインがサメで、そういった大型の海洋動物の生態を研究しています。その生態というのは、厳しい自然の中で、海の動物たちがどうやって命をつないでいるのか、生き延びているのかを研究していまして、その中でも私は“バイオロギング”というアプローチをメインに使っています。動物の体に計測機器を取り付けて、その動物の行動だったり、回遊のパターンだったり、それから体内の状態、例えば心拍数とか体温とか、あるいはその周りの環境だとかを測るといった手法を用いて研究しています」 ちなみに、バイオは「生物」という意味、ロギングは「記録する」という意味で、それを渡辺さんたちがくっつけて「バイオロギング」と名付けたそうです。
南極の氷がなくなるとペンギンはピンチに・・・実はならない?
そのバイオロギングは、スマートフォンにも使われているさまざまな小型センサーの技術の進化を、動物の研究に生かそうというものだと教えてくださいました。では、具体的にどんなことがわかってきたのでしょう?
「最近のペンギン研究について紹介しますと、その内容は、地球温暖化が進み、南極の氷が溶けつつある中で、ペンギンたちがどんな影響を受けているのかというものです。私達が南極の昭和基地で行った研究によりますと、南極にいるアデリーペンギンは、夏になると子育てをするんですね。巣をつくってヒナを育てる。そのヒナに餌をあたえる際、お父さんペンギンとお母さんペンギンは交互に、氷の上をとことこと歩いていき、氷の隙間を見つけたらドボンと海に飛び込んで、海中でオキアミや魚などをとって、巣へ戻ってきてヒナに与えるという生活をしています。その生活は温暖化が進むとどうなるのかというと、私が最後に南極に行った時は、たまたま氷がないシーズンで、普段は真っ白な氷に覆われてる地域に青々とした海が広がっていたんですね。そのようなシーズンに、ペンギンたちに何が起こるのかということを知るのは、ペンギンたちの将来を予測することにもつながって、非常に興味深かったんですけれども、実際に何が起きていたかというと、普段ならペンギンは歩いて食べ物を探しに行くはずが、目の前の海にドボンと飛び込んで、すっと泳いで行くんですね。そうすると、歩くよりも泳いだ方が早いから、行動範囲が一気に広がる。しかも、普段は氷の割れ目を見つけてそこから飛び込むのに、氷がないシーズンはどこでも好きなところで潜水ができる。また、歩くよりも泳ぐ方が圧倒的に速いので、氷がない年は遠くにいたにも関わらず、早く戻ってきていたんです。早く戻ってくるということは、巣で待つヒナにとっては、より頻繁に食べ物がもらえる。要するに、そのGPSデータを見ると、氷がない方がいいのではないかと思いました。実際に、ペンギンの体重やヒナの成長速度を調べると、氷のない年では、親ペンギンがたくさん食べられるから体重が重かったんですね。さらに、何日かに1回ヒナの体重も測定するのですが、成長速度が速かったんです」
氷がないと南極のペンギンは大変なことになると思っていたそうですが、バイオロギングで調査してみたところ、アデリーペンギンにとっては、氷がない方が多くのエサにありつけていたそうです。さらに、それだけではなく
「普段は、ヒナが巣立ちまでできずに、途中で十分な食べ物をもらえずに、だんだんと弱って餓死する。あとは、“トウゾクカモメ”というどう猛な鳥がいて、ヒナを攫って食べるため、生まれたヒナの何割かは死んでしまうんです。けれども、氷のないシーズンに限っては、途中で死ぬヒナがほとんどいなくて、生まれた全てのヒナがすくすく育って、無事に巣立っていったことが分かりました。また、たくさんのヒナが巣立っていった影響から、数年後にはそのヒナが、今度は親として戻ってくるため、個体数がそこから増え始めることに。この調査で分かったことは、南極の氷がなくなると、ペンギンは大変な目に遭うというイメージがありますが、私達が実際目にしたのはそうじゃなく、真逆だったということです」
南極のペンギン調査がさまざまな側面を知る機会に
南極の氷がない状態でのアデリーペンギンは、体重が増えて、ヒナもすくすく育って、個体数が増え始めるということが判明しましたが、そういった一面を知るのが大事だと渡辺さんはおっしゃっています。
「地球温暖化というと一面的に捉えがちなんですが、やはり色んな側面があって。実際に、全てのペンギンが、地球温暖化によって恩恵を受けていると言うつもりはないです。確かに、地域によっては、地球温暖化によってピンチになっている、個体数を減らしているペンギンもたくさんいるんですね。でも、それが一面であって、そうじゃない側面もあって。地球温暖化が海の生態系に与える影響はさまざまで、それは地域によって違うし、ペンギンの種類によっても違う。同じ種類のペンギンでも、より寒いところにいる個体と、より暖かいところにいる個体では影響が違ってくる。そういう風にさまざまな側面を含んでいるので、単純に一面的に生態系に悪い影響を与えている、動物は困っているという捉え方は間違っていることを私は学びました」
実際に、アデリーペンギンの事例でも、トウゾクカモメから見ると違ってくると教えてくださいました。
「例えば、氷がなくなった年、ペンギンは確かにすごく恩恵を受けて繁栄しました。ただ、別の見方をすると、ペンギンの卵やヒナを食べるトウゾクカモメは、その年はハンティングできず、ピンチに陥っていました。そういったひとつの面が立てばひとつの面が立たないといった側面があるので、色んな観点から見ることが大事かなと思います」

サメの研究でわかった新たな回遊
ペンギン以外の研究についても伺ってみると
「日本周辺のサメの研究を熱心にやっていまして。サメの背中に発信器を付けて、日本の周辺でどんな回遊をしているかを調べています。サメは温度に対して非常に敏感で、水温が変われば回遊パターンが変わり、分布が変わるんですね。一例を挙げますと、神奈川県の海には本来、“イタチザメ”という種類はほとんどいませんでした。このイタチザメは沖縄周辺にいるような獰猛なサメで、例えばハワイでサーファーが襲われたりしますが、イタチザメのケースが多いんですよ。そんなイタチザメが、神奈川県の海でもちらほらと見られるようになってきたという報告があって。そうすると、本来もっと南にいるはずが北上している可能性があって、それは温暖化の影響が強いと思われます。もし本当にイタチザメが北上してきたら、イタチザメは獰猛で色んなものを食べるので、生態系への影響も大きいでしょう。そして、まだそんなレベルではないですが、ひょっとしたら湘南の海にイタチザメが現れる。そういったことになったら、人間にとっても大騒ぎになるでしょうし、色んな影響があるはずで。そういった水温とサメ、あるいは大型魚類の回遊パターンや分布の変化というのに、非常に興味があって調べています」
渡辺さんの今後の夢は?
最後に、渡辺さんに今後の夢を伺いました。
「日本の海は、とにかく黒潮の影響がものすごく大きいんですね。日本列島の南方に沿って黒潮という世界有数の強い海流が流れていて、それはものすごい急流な川があるようなものなんです。そこには色んな魚がいて、そんな急流の中でどういう生活してるのかというのは興味があります。ちなみに、どれぐらい速いかというと、サメが普通に泳ぐ速度よりもひょっとしたら海流の方が速いぐらい。ということは、そこにいる魚たちは、少し気を許すだけで、どんどん流されてしまう。なかなか逆らえないぐらいの急流の中でも、魚たちは何とかやりくりしていて。例えば、カツオだとかマグロ、サメなど色んな魚が黒潮にのってやってきます。ですので、私の夢としては、その大型魚類たちが、どんな風に生活しているのかに非常に興味があって調べたいです。実際に、調べようとしていて、例えば、最近バイオロギングを使って研究しているのが台湾なのですが、台湾と日本は完全に黒潮でつながっています。ですので、台湾でサメに機械を付けると、ほぼ確実に日本に来るんですよ。それは魚に装着しておいても日本に来るし、魚から切り離された後に浮上したものも流されてくるんですよ。その黒潮の中でどういった生活をしているのかは、まだほとんど分かっていなくて、そこに興味を持っています」
夢に沿って新たな研究を始めている渡辺さん。新発見があったら報告にきてくれるそうです。楽しみにしていましょう。






