2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、Podcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは、株式会社青々のマネージャー・神林ゆうこさん。身近で海を感じられる「水族館」についてお話を伺いました。

水族館や博物館のトータルコーディネートを実施!
まずは、神林さんが勤める「青々」は一体どんな会社なのかについて、教えてくださいました。
「水族館やミュージアムの企画・運営を主に手掛けている会社です。例えば、この地域のこの場所にはどんな施設が必要かといった大きな事業企画から、水族館の中にどんな水槽を入れて、どういった魚を展示するか、どういった展示やイベントの企画をするかといった水族館を開業した後の運営までをワンストップで行っている会社です」
ビルを建てる段階から携わったり、小さなイベントの企画であったり、多種多様な形で手掛けているそうです。
中学生の時の体験が今の仕事に就くキッカケに
大阪出身の神林さんは、子どもの頃から「海遊館」や「神戸須磨シーワールド(旧・須磨海浜水族園)」、「鳥羽水族館」などに家族で出かけていたとのこと。そんな中、中学生の時に水族館で体験したことが今の仕事につながっているとおっしゃっています。
「子どもの頃は単純に水族館が好きという感覚でしたが、中学生ぐらいになってもっといろいろと考えながら展示を見られるようになった時に、たまたま隣にいた親子のお客さんが『この魚はなんて名前だろう』という会話をしていたんです。水槽の横にあって魚の名前を書いてある“魚名板”を見ているのですが、その魚の名前を見つけられなくて、疑問のまま帰ってしまったことを横で見ていた時に、すごくもったいないなと思ったんですよ。せっかく大きな水槽で魚たちをいっぱい飼っているのに、お客さんが得たい情報を得られない。その後、水族館のお客さんを観察していると、意外と見ていない水槽が多くて。文字はいっぱい書いてあるのですが。実際、自分に置き換えて考えてみても、確かに読んでないと思って。展示はあるけど見られていないのは、水族館としてもったいないなと感じたので、それをキッカケに水族館の展示をじっくり考える仕事を将来したいと考えるようになりました」
中学生の時からすでに企画・運営目線で水族館を見ていた神林さんですが、当時は水族館の展示を考える仕事があまりなかったそうです。その結果、大学受験する時には、なかなか周りの人に共感してもらえなかったり、就職活動をしてみても、なかなか仕事が見つからなかったりしていたと振り返ってらっしゃいます。ただ、「やっぱり水族館の中で何をお客さんに伝えたらいいかということを考える仕事をしたいと思い、ずっと志していたら、機会があって、今こういう仕事に落ち着きました」とおっしゃるように、今の青々で念願の仕事ができているとのことです。
手掛けた都市型水族館「AOAO SAPPORO」
では、具体的に「展示を考えた水族館」というのは、どういったものなのでしょう? 実際に運営を手掛けている水族館について教えていただきました。
「いま青々で運営を手がけているのが、北海道・札幌に去年オープンした都市型水族館“AOAO SAPPORO”です。『まちなかにある自然への入り口』をテーマに企画・運営をしていまして、海が近くにない場所でも、その地域に住む人々を中心に、なるべく身近に生物たちの営みや自然の素晴らしさを感じていただけるように企画をしました。海の近くにある水族館とは違って、街の真ん中の商業施設のビルの4階から6階に入っているため、水族館の中に入れられる水の量、いわゆる水槽の大きさに制約があります。ですので、例えば、ジンベエザメを飼ったり、イルカを飼育したりというのはできないのですが、そういった環境の中でも、お客様にたくさんの体験をしてもらえるように、どういうゾーンをつくるのか、水槽の置き方、水槽の横にどんな説明をつけるか、どういう照明にしたらお客様に観察に集中してもらえるかなどを、とても細かく設計してつくりました。町の中心部にある水族館ということで、お客様に日常的に気軽に楽しんでもらえるので、『この生物のどこに注目してもらえるか』というところまで細かく考えています」

ペンギンが快適に過ごせるように工夫
さまざまな工夫がされている“AOAO SAPPORO”ですが、展示の方法だけではなく、生き物の生態にも寄り添って細かく考えているとおっしゃっています。そのひとつであるペンギンのエリアについて伺うと
「外にペンギンがいるわけではなくて、室内にずっといる形になるので、なるべく運動不足になったりしないように、この展示の空間の中でも飽きずに過ごしてもらえるようにしています。例えば、照明にも朝・昼・夜とモードがありまして、明るさなどの演出が変わります。季節ごとに時間も変えています。あと、『ロックホッパーペンギン』とも呼ばれている“キタイワトビペンギン”を飼育していまして、両足でジャンプして移動する姿がとてもかわいいペンギンなのですが、そのペンギンたちが移動しやすい、運動もたくさんしてもらいやすいように、六角形のブロックを設置しています。そのひとつひとつが組み替えられるようになっていまして、ずっと同じ陸場の形ではなく、ペンギン達が開けたりとか、季節によって組み替えたりをして陸場の形を変えることができるようになっていて、なるべくキタイワトビペンギンたちが、快適に過ごしてもらえるように設計しています」
水族館で得た感覚や感動を持ち帰ってもらえる展示に
そして、展示の工夫としては、水族館の主役に目がいくよう心掛けているそうで
「水槽の周りにいろんな情報を置いたりすると、また、目線の高さや見える景色に配慮しないと、水槽の中にいる魚ではなくて、他のところに目がいってしまいます。ですので、なるべくこの水族館の中では、主役である水槽の中にいる生物に目がいくように、周りは極力削ぎ落としてシンプルにつくるように心掛けています。周りにたくさん文字を書くのではなく、その場で見ていただいた感覚や感動をそのまま持ち帰ってもらえるように配慮をしています」
こういった展示の工夫について、来館したお客さんからも好評とのことです。
「『この生物に注目して見ていなかった』、『この生物にこんな魅力があるんだ』と新たな発見をしていただける方がとても多いです。あとは、22時まで営業しているので、仕事帰りにふらっと来ていただいて、館内に北海道産の小麦を使ったパン屋さんやお酒を売っている場所があり、仕事帰りにお酒とパンを買ってゆったりしている方もいらっしゃって、身近で通いやすいから本当に嬉しいというお声をたくさんいただいてます」
「年に何回来ていただいても楽しいようにつくっています」と胸を張ってらっしゃるAOAO SAPPOROは、札幌市の“狸小路商店街”の入り口にある“moyuk SAPPORO(モユクサッポロ)”という商業施設の4階から6階で営業中です。
中学生と一緒に企画展を実施
そんなAOAO SAPPOROでは、お話してくださったように、情報を多く書く展示にはせず、「生き物自体への感動や共感から海を好きになってもらい、それが海への興味や関心への入り口になるという考え方」だとおっしゃっています。そのため、常設の展示では、海洋問題の発信は控えているのだそう。ただ、一方で、企画展などでは取り上げていると教えてくださいました。

「イベントや企画展では、海洋問題を扱っていまして、昨年は日本財団 海と日本プロジェクトの取り組みの中で、中学生と一緒に企画をして、北海道のししゃもの漁獲量が減少していることを取り上げました。その内容は、中学生が漁獲量データを自分たちで調べてきてくれて、それをレポートにまとめてくれたものを、水族館の中でどのような展示にしたらお客様に伝わるかを一緒にディスカッションし、最後はポスター展とプレゼンテーションを一緒につくり上げて企画展にしました」
北海道にはさまざまな魚介類や海の特徴がある中、なぜししゃもをテーマにしたのでしょう?
「北海道のむかわ町を取り上げたニュースで、ししゃもが獲れなくなっていて、去年は漁を中止してしまったということがありました。そういった中で、中学生から『“食(しょく)”が日本人にとっては馴染みがあるので、大人から子どもまで広く海の問題を考えるキッカケになるのではないか』という意見が挙がりました。そこから、ししゃもにしようとなり、実際にむかわ町へ取材に行ったりして企画をつくり上げました」
そして、一緒につくり上げた中で、中学生の海の問題に対する向き合い方に驚いたそうで
「私達も仕事の中で、シリアスな海洋問題を聞きますが、子ども達の方がより真剣にその事象を捉えているなと思いました。そこに対するリサーチ力とか伝えなきゃいけないという責任感といった部分にすごく驚かされまして、我ながら『こんなにゆったり仕事している場合じゃない、しっかりお客様に伝えていかなきゃ』と感じさせられるところがありました。また、どうやったら子どもに見てもらえるか、どうやったら大人から子どもまで差がないように情報を得てもらえるかなどをすごく真剣に考えていたので、中学生の視点じゃないと気づかない部分もたくさんあるなとすごく勉強になりましたね」
今後も、地域の海の問題や課題にも向き合えるように、色々な企業、地域ともコラボレーションしながら企画を進められたらと考えてらっしゃるそうです。
海が身近でない子どもたちへの入り口をつくりたい
プライベートでも海へよく行くという神林さんに、今と昔で海にどんな変化を感じているかを伺いました。
「出身が大阪で身近に海があったというわけではなく、子どもの頃にきれいな海で泳いだという経験がとても少ないです。ですので、海への興味・関心をくれたのがやっぱり水族館だったんです。そういった中で、住んでいる地域などによって、海に対する愛着や考え方に差が出てしまうというのは、今も昔も一緒だなと感じています。だから、近くに海がある人は海をよく知っているけど、海から遠い人にとっては馴染みがない場所だったりして、突然連れていかれても遊び方や生物の探し方が分からなかったりするんじゃないかと思っていて。ですので、今の仕事の中でもそうですが、海が身近でない子ども達になるべく身近に感じてもらえるように、自然への入り口をつくるのがとても重要だなと考えています」
自然とのつながりを長く濃く思い出に刻めるような場所づくりをしたい!
最後に、実現したい夢や未来についてお聞きしました。
「自然との関わりや学びを、できるだけ長く濃く思い出に刻めるようなシーンをたくさんつくっていけるように、その場所づくりをしていきたいなと思います。それが今は“青々”でいうと、水族館や博物館がメインになってくると思います。その水族館や博物館の中に入っていただく時間は、生物やその魅力に集中して、没入感に浸っていただけるような環境づくりをしっかりしていきたいなと思っています」








