私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回は、NPO法人海辺つくり研究会事務局長で海洋環境専門家の木村尚さんをお迎えしました。テレビ番組「ザ!鉄腕!DASH!!」のDASH海岸でおなじみの木村さんが、東京湾再生への思いを語ります。
DASH海岸、17年目の真実
「ザ!鉄腕!DASH!!」のDASH海岸企画は、今年でなんと17年目に突入。
「最初は一回きりですよ、というお約束で出演したんですが、いつの間にか17年になりましたね」と木村さんは笑います。
東京湾の工業地帯に位置する、かつてゴミだらけだった海を再生させるという壮大な企画。番組側はなぜ木村さんにオファーをしたのでしょうか?
「おそらく、DASH村にいた明雄さんのような、スーパーマン的な漁師を探していたのだと思います。しかし、干潟や藻場を作るような漁師はなかなかいない。結果、東京湾中で『横浜に木村という男がいるから訪ねてみたらどうだ』と言われたらしくて、ある日突然訪ねてきました」
当初は裏方として関わる予定だったのが、気づけば表舞台のメンバーとしてその活動を全国に発信することになったのです。

東京湾再生への具体的な取り組み:干潟と藻場の復活
DASH海岸では、具体的にどのような取り組みが行われてきたのでしょうか。
「まずは干潟の再生ですね。干潟は浅いため埋め立てられやすく、日本の沿岸から多くが失われていきました。経済発展のために仕方なかった部分もありますが、ふと気づけば何かおかしいことになってきた、と多くの人が気づき始めたんです。
浅い海での藻場の造成も、海の再生には不可欠だとみんなが気づき始め、積極的にそうした場所を復元・再生していこうという動きが徐々に増えてきました。DASH海岸は、その先駆けだったのかもしれません」
番組を通して、干潟に新しい生き物が戻ってきたり、生き物が発見されたりするたびに、視聴者も一緒に喜びを感じてきたことでしょう。
「環境は適度に関わり続けながら、利活用していくのが大切だと思います。生き物も増え、綺麗になってきましたが、それでも元々の東京湾のことを考えれば、まだまだです。関わり続けながら、新しい発見や、もっと良くなっていくことをこれからも続けていく必要があると考えています」
幼少期の原体験:海が教えてくれた「生き物の獲り方」
木村さんの活動の原点には、幼少期の経験があります。
「私は昭和31年生まれです。裕福な家庭ではなかったので、多分、口減らし的に(笑)、母親の実家がある石川県の農家に一人で預けられていました。おじの家が海のそばにあって、そこに行くと美味しいものがたくさんいたんです」
海にいるうちに、次第に海に入り浸るようになった木村さん。
「当時、石川県の沿岸漁業の漁師さんたちが子供の相手をしてくれたんです。海の遊び方というよりも、魚や貝の獲り方、船の櫓の漕ぎ方、潜り方。それが楽しくてずっと海にいました。今は、その場所も地震と津波でひどいことになっていますが…」
そうした幼少期の原体験が、木村さんが海に関わっていく大きなきっかけとなりました。
「海の勉強をしようと思って、東海大学の海洋学部に入りました。でもむしろ仕事として社会人になってからの方が、学ぶことが多かったかもしれませんね」
「宝箱のような海」東京湾の知られざる魅力
木村さんが活動の拠点とするNPO法人海辺つくり研究会は、東京湾に深くフォーカスしています。
「やはり地元の海だからですね。地元の海もろくに良くできないやつが、よそに行って偉そうなことなんて言えないでしょう。地方からも声をかけていただくこともありますが、まずは地元だ、という思いで、調査も具体的な対策も自分たちでやってきました。それを手本にしていきたいという気持ちがありました」
木村さんの著書『都会の里海・東京湾』を読むと、東京湾が「宝箱のような海」であることが分かります。その魅力やエリアごとの違い、歴史、そして関わる人々の多様性に驚かされます。東京湾は本来、生物多様性が豊かな海であり、漁獲量のピークは1960年代(昭和30年代前半)だったと言います。
「当時、干潟が広大に続き、ほとんど二枚貝類が漁獲量の多くを占めていました。東京湾には黒潮の分流が差し込んできます。黒潮自体は栄養はあまりないのですが、それが多摩川や荒川など、東京湾に流れ込む河川の水とぶつかることで好漁場となるんです」
また湾の形のおかげで一度入ってきた魚が出ていかないため、餌も豊富でした。
「昔はだいたい7割が南方系の魚、3割が北方系の魚と言われ、極端な話をすればアイナメとホッケが一緒に泳いでいるような海だったんですよ」
しかし、近年は温暖化による海水温の上昇により、北方系の魚が減少し、ほぼ南方系の魚ばかりになってきていると言います。
「魚の分布はどんどん北上しています。ブリやトラフグなどもそうですね」
深海魚も東京湾で出会えるという事実にも驚かされます。
「水深200メートル以上が深海と言われますが、東京湾の入り口付近では水深が800メートルまで落ちる場所もあります。800メートル級の深海と、平均水深15メートルほどの浅い海、そして干潟や藻場も併せ持つ。しかも、流域人口3000万人もの人々が暮らす中で、これだけ生き物が豊かな場所は、実は世界中どこを探してもないんですよ。そのくらい面白い場所なんです」
だからこそ、木村さんはこの東京湾での活動に大きなやりがいを感じています。
「多分、日本で一番面白い海だと思いますよ」
海辺つくり研究会の活動と未来への願い
海辺つくり研究会では、具体的に以下の活動に取り組んでいます。
干潟の再生
アマモ場(海草)の再生
ワカメやアカモク、海苔など海藻の再生
ハゼの調査
「これらの活動を、なるべく自分たちで具体的にやっていこうとしています」
海の生き物にとって、干潟やアマモ場が非常に大切な場所であるということは広く知られるようになりましたが、こんな理由があるようです。
「東京湾沿岸は下水道の整備率がほぼ100%になり、見た目の水は綺麗になりました。しかし、なぜ生き物が増えてこないのかが長年の疑問でした。調べてみると、出てきた水が干潟や藻場を通過しないと、生き物たちが利用しやすい水になっていかないことが分かったんです。そのため、干潟や藻場を増やしていくしかないという結論に至りました」
こうした活動には、子どもたちと一緒に参加することの重要性を木村さんは強調します。
「2050年までに炭素排出を実質ゼロにするという目標がありますが、2050年というとあと25年後です。例えば今10歳の子が35歳になる頃です。そういう子たちの、さらにそのお子さんのためを考えても、早く何とかしなければなりません」
「自分のお子さんに、2050年になった時に『俺が子供の頃、こうやって一生懸命やってきてみんなで頑張ってきたから良くなってきたんだよ』と胸を張って話せるようになってくれたら、ありがたいなと思いますね」
海辺つくり研究会の活動に興味を持った方はぜひ公式サイトで活動予定をチェックしてみてください。木村尚さんの海への情熱と知識は尽きることがありません。来月も引き続き、お話の続きをお送りします。

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