私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは水産会社の加工場で働きながらさまざまな魚にまつわる事業に取り組みつつ、お魚専門シンガーソングライターとしても活動する齊藤いゆさんです。魚と海への尽きない思いを、情熱を込めて語ってくれました。
泳ぎ続ける魚愛!多岐にわたる活動と「いゆ」に込めた思い
函館お魚センター長、福田海産水産加工工場長、そして数々のプロジェクトの代表や理事を務める齊藤さん。その肩書きの多さには驚かされます。
「全部魚関係ですけれども、海業界でたくさん泳ぎたいと思っていろんな事業をやってます」
「いゆ」という名前は本名ではなく、沖縄方言で「魚」を意味する言葉。
「北から南、いろんな魚を名前から伝えていきたいと思って、齊藤いゆという名前で活動しています。」
本業として働く函館の福田海産で力を入れているのが未利用魚の活用。
「漁師の収入向上や“地魚”にしたいという思いから余っているイワシで『ハコダテアンチョビ』をつくったり、未利用魚のサメで『函館サメフライバーガー』を提供したりしています」
加工品や海鮮丼や地魚料理は、5月にオープンしたばかりの函館おさかなセンターで味わうことができます。「ふだん食べないような魚の胃袋やエラ、目なども提供しているんですが、お客さんからは『魚にはこんな可能性あるんだね』『食べられてよかった』という反応をもらっています」と目を輝かせます。
幼少期の「魚洗脳」が音楽への道を開いた
齊藤さんのSNSには、美味しそうなお魚料理が日々アップされています。
「もともと祖父が函館の漁師をしていました。私は『魚の洗脳』と呼んでいるのですが(笑)、幼少期におじいちゃんから魚の洗脳を受けまして、魚が大好きになったんです。釣りをしても捌いて食べるまでが楽しかったんですよね。そういうルーツもあって、もともと音楽家として活動していたのですが、やっぱり地元で魚を伝えたいという思いが強くなり、今は魚屋と魚の歌うたいの二刀流で“泳いで”います」
これはまさに「お魚の英才教育」と言えるでしょう。
歌声に乗せて海を泳ぐ「お魚専門シンガーソングライター」
「お魚専門シンガーソングライター」としての活動は2020年から始まりました。
「音楽をやっていく中で、自分らしさって何だろうという課題にぶつかった時に、やっぱり魚と音楽が大好きだったので、この二つを合わせたお魚専門シンガーソングライターという形で魚の魅力や漁業のカッコよさを伝えていきたいと思って活動を始めました」
魚をベースに曲を作ることに大変さは一切感じないと言います。
「魚の数だけ楽曲ができるので、逆に面白さしかないですね。魚の生態や海のこと、料理など、いろんなことを音楽にできる可能性は、まさにうなぎ登りでした」
音楽にすることで、魚や海へのメッセージがより伝わりやすくなると感じているそうです。
「聴覚から魚が泳いでくるってなかなかないと思うので、五感で魚を楽しんでもらえるよう伝えていくことが必要だと考えて音に変換しています」
齊藤さんの楽曲を聴くと、海を大切にしたい気持ちが膨らみ、同時に魚について学ぶこともできます。
「私と魚どっちが大事なの?」というユニークなタイトルの曲もありますが、これは齊藤さんの実体験ではないそうです。
「漁港で釣りをしているおばあちゃんを見て、おじいちゃんと一緒に釣りを始めたのかな?と想像して、そんな釣り人夫婦の物語を歌った曲です」
お互いに思うところはありつつも、最終的には釣り愛、海愛を感じる楽曲となっています。
海を訪れてインスピレーションを得て曲を作ることも多いという齊藤さん。 「海のことを深く考えるというよりは、海で感じたことや、伝えたいと思ったことを音に残していくようにしています」
海の変化と人々の「適応」:当たり前の現象としての捉え方
近年、サンマの不漁が続くなど、海の環境変化が漁業に大きな影響を与えています。北海道の漁獲量にも変化は感じられるか聞いてみました。
「やはり大きく変わっていますね。ただ、漁獲量というのは利用されている魚のデータで、獲れているけれどもデータになっていない魚もたくさんいます。例えば、サンマは減っているけれども、新しい魚の漁獲量は増えているというような現状も多くあります」
常に魚と触れ合っている齊藤さんは、こうした変化や危機感をどのように感じているのでしょうか。
「正直、変化するのは当たり前だと思っています。マイナスなニュースも多いですが、自然が変われば魚も変わるし、海が変われば魚も変わるので、その変化は全く当たり前の現象だと捉えています」
しかし、その変化に対応するためには、私たち人間の行動が変わる必要があると齊藤さんは強調します。 「海が変わって魚が変わった時、次に何が変わらなければいけないかというと、人が変わらなければいけないと思うんです。そして、人が変わる時には、消費が変わっていかないと流通も変わっていきません。私を含め消費者が、いま獲れている魚が何で、その魚の美味しさがどんなものかを知っているというのが、変化していかなければならない方向だと思っています。自然の変化に関してはもう当たり前なので、あとはみんなが変わっていったらいいなと思います」
魚を五感で楽しむ未来へ:函館に水族館を
齊藤さんは、魚屋とシンガーソングライターの二刀流として、今後も魚を五感で楽しめる活動を全力で展開していきたいと語ります。
「今、私が住む函館では、保育園に魚を持って行って、子どもたちに触ってもらいながら魚の名前を連呼して、みんなで歌ったり食べたりする活動をしています。そして、函館には水族館がないので、これから水族館を建てようと思っています」
その水族館には、函館や北海道の海の魚が並ぶのでしょうか?
「そうですね。ただ、海の魚だけではなくて、夢物語で終わらせたくないのですが、私が目指す水族館は、海は山があって、川があって、海ができるという自然の流れを一貫して体験できるような新たな形にしたいと思っています」
全てが繋がっていることを知る、ゴミ問題や海の歴史やルーツを遡れるような体験ができる場所。齊藤さんの描く水族館は、単なる展示施設に留まらない壮大なビジョンを持っています。
この夏、函館の美味しい海産物としては、イワシ、サバ、マグロ、ブリ、ウニなどが旬を迎えるとのこと。「全部、四季折々美味しいです!」と、齊藤さんは満面の笑顔で語ってくれました。 夢の実現と、これからも生み出される新曲の数々。齊藤いゆさんの「出世魚」としての活躍が、ますます楽しみです。

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