宮城県石巻市 漁師

渥美貴幸

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

「海のパイナップル」とも呼ばれる珍味、ホヤ。その養殖業を営む宮城県石巻市鮫浦湾の漁師、渥美貴幸さんにお話を伺いました。東京ではまだ馴染みの薄いホヤですが、一体どんな魅力が秘められているのでしょうか?

ホヤってどんな生き物? 貝じゃないって本当?

「ホヤはよくスーパーなどで『ホヤ貝』として売られているので、貝の仲間だと思われがちですが、実は脊索動物という分類なんです。私たち人間と同じような仲間なんですよ」と渥美さんは教えてくれました。

ホヤは生まれたばかりの頃はオタマジャクシのような姿で泳ぎ、その時に「脊索」という構造を持っています。その後、岩場などに付着すると脊索はなくなっていきますが、一生のうちに一度でも脊索を持つ時期があるため、脊索動物に分類されるとのこと。意外な事実に驚きです。

珍味と呼ばれる理由:「五味」が凝縮された味わい

宮城県はホヤの生産量が日本一。地元の方々はどのようにホヤを味わっているのでしょうか?

「やはり、新鮮なものがすぐに手に入るので、生で食べるのが一番多いですね。お刺身で食べる人が多いと思います」と渥美さん。獲れたての新鮮なホヤをそのまま味わうのが、宮城流の楽しみ方のようです。

ホヤが「珍味」と呼ばれる所以は、その複雑な味わいにあるとされています。

「ホヤには旨味、甘味、塩味、酸味、苦味の五味が凝縮されていると言われています。特に旬の時期は、甘味や旨味が強く出て、とても美味しくいただけますよ」と渥美さんはその魅力を語ります。

しかし、この五味を東京でなかなか味わえないのはなぜなのでしょうか?

「やはり鮮度が非常に重要なんです。水揚げして適切な扱いをしないと、劣化がものすごく早い。よくホヤは『臭い』という印象を持たれることがありますが、それは鮮度が落ちて時間が経ってしまったホヤを食べているから。鮮度が落ちると苦味や臭みが出てしまうんです」と、鮮度管理の難しさを教えてくれました。ホヤは想像以上にデリケートな生き物なのですね。

逆境を乗り越え、国内消費を2倍に!

ホヤ養殖は、2011年の東日本大震災と原発事故によって大きな打撃を受けました。

「津波の被害では、宮城県内のホヤはほぼ全滅してしまいました。全て流されてしまったんです」と、当時の甚大な被害を振り返る渥美さん。

さらに、原発事故の影響で最大の輸出先だった韓国への輸出が禁止に。当時、ホヤの8割が韓国に輸出されていたというから驚きです。国内での消費も難しいホヤを、どのようにして大量に韓国へ運んでいたのでしょうか?

「『活魚車』という、水槽に海水を積んでホヤを生きたまま運び、何度も水を入れ替えながら、一度に8トンから10トンもの大量のホヤを韓国へ運んでいました」とのこと。しかし、震災後から現在もこの輸出禁止は続いているそうです。

震災、そして輸出停止と苦難の日々が続いた中でも、渥美さんは前向きに進んできました。

「一大消費地だった韓国への輸出がストップしてしまったので、国内で消費してもらう活動に切り替える必要がありました。震災後、宮城県のホヤの生産は復活したものの、行き場を失ったホヤが大量に増えてしまったんです。そこで、震災後に知り合った仲間たちと一緒に、ホヤの食べ方や保存方法を一生懸命普及させました」 その結果、なんと国内のホヤ消費量は震災前の2倍にまで増加したと言います。これは、渥美さんたちの地道な努力が実を結んだ証です。

独自のブランドホヤへの挑戦:鮮度を保つ工夫

国内消費を伸ばすために、渥美さんは独自のブランドホヤの確立にも挑戦しました。

「水揚げから関東で食べるまでに1日以上時間が経ってしまうため、時間による劣化を抑える工夫をしました。例えば、ホヤの体内の糞を抜いて送ったり、真水が入ると味が落ちてしまうので、氷が溶けてもホヤに触れないように冷やしたりしています」

試行錯誤を重ね、常にホヤと向き合う中で、ホヤへの愛情も深まっていったと言います。

「本当にホヤをやってきて、震災後から様々な人とのつながりの中で、一人でやってきたとは思っていません。多くの人とのつながりの中で、『ちゃんと美味しいホヤを届けたい』という気持ちが強くなりました。ホヤが私にたくさんのご縁を運んでくれたと思っています」

温暖化の危機:ホヤの未来を守るために

しかし、今、ホヤの養殖には新たな問題が浮上しています。温暖化による海水温の上昇です。

「一昨年の7月頃から、ホヤが一気に死んでしまい、去年の水揚げは8割減になってしまいました。一般的には高水温の影響と言われていますが、黒潮の大蛇行やプランクトン量の減少など、まだわからない部分も多いです」

宮城や北海道など各地で養殖されているホヤですが、その生まれ故郷は渥美さんが養殖する石巻の鮫浦湾だとされています。これまで天然の稚ホヤを捕獲して養殖してきましたが、海水温の上昇によって親ホヤが減り、稚ホヤが獲れなくなる可能性も出てきていると言います。

「本当にその通りで、親ホヤがいなければ子どもも減ってしまいます。去年は稚ホヤの質もあまり良くなかったので、来年も再来年も現状では8割減の見通しなんです。かなり厳しい状況が続いています」

この困難な状況を乗り越えるため、渥美さんは新たな挑戦を始めています。

「残されたホヤをきちんと未来につなぐために、人工採苗という、少ない親からでも効率よく稚ホヤを採取する方法や、高水温に負けない強いホヤを育成していくことにも協力して取り組んでいきたいと思っています」

震災以降、困難な日々が続いていますが、漁師として海の魅力を感じる瞬間もたくさんあると言います。

「今はたくさんのホヤが死んでしまいましたが、本当に良いホヤが獲れた時はすごく嬉しかったですね。これからもホヤの養殖は続けていきたいですし、宮城県以外の北海道や岩手でも美味しいホヤが養殖されています。宮城産にこだわらず、皆さんにホヤを食べる文化を続けてほしい。そして、いつかまた宮城県で今まで通りホヤが作れる日が来るのを待っていてほしいと願っています」

東京でホヤを味わうには? 渥美さんおすすめの食べ方は?

今回の渥美さんのお話を聞いて、ホヤを食べてみたいと思われた方も多いのではないでしょうか? 都内でホヤが食べられるお店を探すには、震災後に仲間たちと立ち上げた「ホヤホヤ学会」が役立ちます。

『ほやほや学会』のサイト内にある『ほやMAP』で都内や日本全国でホヤが食べられるお店が地図で表示されます。ぜひ参考にしてみてください」

最後に、渥美さんおすすめのホヤの食べ方を聞いてみました。

「やはり生も美味しいですが、個人的には天ぷらがおすすめです。油との相性がとても良いので、ぜひ天ぷらで味わってみてください」

天ぷらと日本酒、想像するだけで口の中にホヤの五味と豊かな香りが広がりそうです。

このコーナーはAuDeeでも配信中です。ぜひアクセスしてみてください!

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