根岸えま

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回は、宮城県気仙沼市で漁師の担い手育成事業を手がける根岸えまさんにお話を伺いました。東京生まれ東京育ちの都会っ子だったえまさんが、東日本大震災のボランティアをきっかけに気仙沼に移住し、漁師の妻となり、今や若き担い手を育て上げるキーパーソンとなった、その熱いストーリーに迫ります。

震災後の気仙沼で出会った「かっこいい大人」

えまさんが気仙沼へ移住を決意したのは、震災ボランティアでの訪問がきっかけでした。津波で船や養殖イカダ、家までも流された漁師たちを目の当たりにしながらも、彼らが口にした言葉が、えまさんの心を強く打ちました。

「彼らは、『これから自分たちの手で、主産業である漁業をなんとかしていきたい』と心から話していました。仕事が好き、海が好き、そしてそこに圧倒的な使命感を持って働いているその姿に、本当に『かっこいい大人』として魅せられました。」

特に心を動かされたのは、ベテラン漁師の家でご馳走になった夕食の席での出来事でした。

目の前に並べられた立派な刺身を指し、「これ俺が獲った魚だから食え」と言われた瞬間、えまさんはそれまで東京で抱いていた「魚はスーパーに並ぶモノ」という認識が覆されました。 「その刺身を前に、漁師さんの命がけの漁の話を聞く中で、本当に命を懸けて獲ってきてくださったものなんだという実感が湧きました。感謝の気持ちで涙ながらに食べたあの魚は、私の人生で食べた魚で一番美味しかった」と、当時の感動を振り返ります。

漁師の「癒やしと活力」を生む活動

移住後、えまさんは漁師をねぎらい、その魅力を発信する活動を精力的に行っています。

『鶴亀の湯、鶴亀食堂』

気仙沼の魚市場からすぐの場所で運営しているのが、「鶴亀の湯、鶴亀食堂」です。ここでは、朝の水揚げを終えた漁師さんが朝食を食べたり、銭湯に入って疲れを癒したりできます。

「一仕事終えてホッとできる場所として、皆さん『ここがあってよかった』と口々に言ってくださいます。また『ここに帰ってくるためにまた行ってくる』と言って出港していくのを見ると、私たちも頑張ろうと思えます」と、この場所が漁師の癒やしと活力を生む拠点となっていることを教えてくれました。

『出船送り』『気仙沼つばき会とカレンダー』 また、遠洋マグロ船の漁師のかっこよさを広く伝えるため、気仙沼つばき会として活動。長期間の航海に出るマグロ船をみんなで見送る「出船送り」を一般参加型で行ったり、漁師のかっこよさを世界に発信する「気仙沼漁師カレンダー」の制作(現在は終了)も行い、その魅力を広く届けてきました。

漁師の担い手育成:若者を「お試し研修」でサポート

2020年からは気仙沼市と協力し、漁師の担い手育成事業を立ち上げ、これまでに20名近くの若手漁師を気仙沼に迎え入れています。担い手不足が叫ばれる中、市外から多くの若者が集まっているのは驚くべき実績です。

新規就業のハードルを下げるため、えまさんは以下のような手厚いサポートを行っています。

お試し研修:いきなりの就職ではなく、まずは1週間〜10日間の研修で、漁師のライフスタイルや体力的な適性、人間関係も含めて体験してもらいます。

生活環境のサポート:県外からの移住者には、家探しを一緒に行い、生活基盤を確保します。

仲間づくり:仕事以外の「居場所」として、同世代の若手漁師を紹介し、仲間づくりをサポートしています。 若者たちが気仙沼に来る動機は、「この街だったら自分のやりたいことができそう」という期待です。自分で船を持ちたい、漁師をやりながら飲食店も経営したい、といった個々の夢に対し、えまさんたちはアイデアを出したり人をつないだりしながら「やろうよ!」と一緒にサポートしています。その結果、若手漁師たちは会うたびに胸板が厚くなり、たくましく成長しているそうです。

遠洋マグロ船の妻として、海を見つめる

えまさん自身も、遠洋マグロ船の漁師の奥様です。夫は1年のうち10ヶ月近くをインド洋や太平洋といった世界の海でマグロを獲る航海に出ており、陸にいるのはわずか2ヶ月ほど。衣食住全てが船上という過酷な仕事です。

「寂しいですけど、海に向かっていく夫の後ろ姿にはなんとも言えないかっこよさがあります」と、妻としてその仕事への尊敬を語ります。

離れている間は、船上でもWi-Fiが使えるためLINEなどで定期的に子どもの写真や動画を送って夫を支えています。「家族がいるから頑張れる」という夫の言葉を胸に、帰ってきた時には家でリラックスできるよう迎え入れています。

お子さんには、「海が好きな子になってほしい」という願いを込めて子育て中。家の近くの海で、船に向かって「パパー、頑張ってねー!」と手を振る愛らしい姿に、遠くにいる人を思える優しい子であってほしいという母親の思いを重ねています。

鶴亀の湯や鶴亀食堂、出船送りは一般の方も参加可能です。ぜひ気仙沼を訪れ、命をかけて日本の食卓を支える漁師たちの熱い思いと、美味しい海の幸に触れてみてはいかがでしょうか。

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