私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回お話をお伺いしたのは、「すし作家」の岡田大介さんです。すし職人として28年のキャリアを持つ岡田さんは、海、魚、すし、海藻にまつわる様々な活動を通じて、私たちが普段何気なく食べている「すし」の奥深さと、その背景にある壮大な世界を伝えています。
「すし作家」という新しい肩書き
岡田さんの肩書き「すし作家」は、聞き慣れない言葉かもしれません。この肩書きについて「すしを握るだけでなく、すしを中心に取り巻く多岐にわたる世界を深く掘り下げ、それを伝えていく人」と岡田さんは説明します。
すしと一言に言っても、ネタの魚介類は水産業、シャリのお米は農業、お酢などの調味料は醸造業といったように、すしは様々な産業とつながっています。岡田さんは、可能な限り産地に足を運び、漁師さんの話を聞き、自ら海にいって釣りをしたり、スキューバダイビングで海の中で泳いでいる魚を撮影するなど、多角的な視点からすしの世界を探求しています。
この探求のきっかけは、すし職人として営業中に、釣り人のお客さんから鯛について尋ねられ、自分が知らないことの多さに気づかされたことだと言います。
毎日市場で買ってくる魚ですが、現地に行かなくては知ることのできない情報はたくさんあると岡田さんは言います。
「コハダ漁の現場に行ってみると、静寂の中で投網を打つ独特な漁法や、現地でコハダを生で食べる食文化に出会い、まだまだ知らないことがたくさんあると気づかされました」。
秋の味覚「サワラ」と、すしを美味しくする工夫
10月後半の今、岡田さんおすすめのすしネタは「サワラ」だそうです。

サワラは秋冬が旬で、すしや刺身はもちろん、味噌漬けや粕漬けなど、漬け込んで焼く料理にも向いていると言います。フライパンで焼くだけで身がふわふわになり、お味噌汁の具材や鍋料理にも最適だと教えてくれました。

また、岡田さんは『すし本~海から上がって酢飯にのるまで』という書籍を出版しています。これは岡田さんが自ら撮影した写真と文章で、魚がおすしになるまでの過程や美味しい食べ方を解説した、まるで「すし図鑑」のような一冊です。

この本には、「えんがわ」や「いくら」など、おなじみのネタも独自の視点で紹介されています。
特に「甘鯛は鱗を食べてこそ」という一文は、多くの読者に驚きを与えました。
「甘鯛の身のねっとりした甘さに加え、パリパリに揚げた鱗の食感を一緒に楽しむのが最高です」。


この本に載っている食べ方は、岡田さんが「この魚の一番美味しい食べ方は何か」を常に考え、何度も試行錯誤してたどり着いた答えだと言います。
一生に一度の逸品:「アラのえんがわ」
取材の過程で出会った魚の中でも、特に思い出深いのが高級魚の「アラ」です。
「クエを含め、ハタ科の魚が多い九州では、クエをアラと呼ぶことがありますが、アラは1属1種。アラという標準和名の魚です」

このアラは、タイトルの「クエじゃなくてアラだよ」という一言が印象的な写真集にも掲載されています。
アラのヒレの付け根にある肉は、ヒラメのえんがわに似たコリコリとした食感と強い旨味が楽しめます。しかし、アラ自体がなかなか市場に出回らず、手に入れるのが非常に難しいと言います。
「本の執筆中も、最後の最後まで掲載できるかヒヤヒヤした魚でした。釣れた時は思わずガッツポーズが出ましたね」。

写真集には「一生に一度でも食べることができたらとても幸せな魚です」と記されており、アラの希少性と美味しさを物語っています。このアラのえんがわを求めて、魚との出会いの旅に出るのも楽しいと岡田さんは話します。
「命をいただく」ことの大切さを伝える絵本
岡田さんは、お子さん向けに『おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで』という絵本も手掛けています。魚がすしネタになるまでの過程を分かりやすく説明し、子どもたちが「命をいただく」ことの大切さに気づくきっかけを与えてくれる一冊です。

「おすしは美味しいものだとみんな知っているけれど、その一貫をよく見ると、魚、お米、醤油、わさび、すべてが命なわけです。大人にとっては当たり前のことでも、改めて『何個の命をいただいているんだろう』と考えながら食べると、心が豊かになります」。
実際にこの本に登場する子どもたちは、魚の表情を見て驚いたり、美味しそうにリアクションしたりと、自然な表情を見せてくれました。魚をさばく様子を最初から最後まで見せることで、子どもたちに命の尊さが伝わったと岡田さんは感じています。

海からのSOS:海藻の減少
長年、海に接してきた岡田さんは、その変化を肌で感じています。
「海藻が減ることで魚が減るという現状が続いています。今年はサンマがたくさん獲れたという明るいニュースもありますが、海藻が増えたという話はどこでも聞きません」。
特に実感しているのは「海藻の減少」です。
海藻は、魚たちの住処であり、命のゆりかごです。このまま海藻が減り続ければ、日本の海の未来は危ういと警鐘を鳴らします。
夢:食卓から未来の海を考える
最後に、岡田さんの今後の夢について伺いました。
「これからも料理人目線だけでなく、海洋環境保全の目線も持ちながら、地球に住む皆さんがずっと美味しいすしを食べていけるように、自分ができることに取り組んでいきたい」。
すしという、日本の食文化を代表する一品を通して、海と私たち一人ひとりのつながりを伝え続ける岡田さん。その活動は、単なる食の探求にとどまらず、地球の豊かな海の未来を守るための挑戦でもあります。

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