秋田もなみ

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回は、高知県室戸岬にある高知県海洋深層水研究所から、主任研究員の秋田もなみさんにリモートでお話を伺いました。秋田さんが語る、海洋深層水が持つ驚くべきパワーと、その研究の最前線に迫ります。

誤解されがちな「海洋深層水」の正体

まず、私たちがよく耳にする「海洋深層水」とは、一体どのようなものなのでしょうか。秋田さんは、飲料水として販売されているため「淡水」と勘違いされがちだと指摘します。

「海洋深層水とは、一般的に水深200メートルより深い海水を指します。この深さになると太陽の光が届かず、植物プランクトンの光合成が行われません。そのため、栄養塩が豊富に蓄積され、水温は低温で安定し、化学的・生物的に非常に清浄であるという特徴を持っています」。

高知県の海洋深層水研究所は、1989年に日本で初めての陸上取水施設として開設されました。室戸沖の深海から汲み上げられるこの水は、年間を通して水温が13℃前後で安定しており、その高品質さが研究の大きな武器となっています。

カニからノリまで!驚きの研究成果

秋田さんは、海洋深層水の持つ可能性を日々探求しています。中でも特に興味深い研究成果が、海の生き物への活用です。

世界最大のカニ「タカアシガニ」を海洋深層水で飼育すると、通常の海水よりも脱皮が早くなることが判明しました。

これにより、殻の傷をリセットしやすくなり、カニの長寿命化につながることが期待されています。また、脱皮後の殻の鮮やかさも長時間維持できることが分かりました。

脱皮後のタカアシガニ

また「ノリ」についても実験が行われました。温暖化の影響で海水温が上昇し、ノリの色が薄くなる「色落ち」現象が深刻化していますが、秋田さんたちは、この色落ちしたノリを海洋深層水に浸す実験を行いました。すると、なんと黒さが劇的に復活。海洋深層水で育てたノリは、色の元となる葉緑素が2倍以上も増え、成長スピードも速くなることが分かりました。

深層水(左) 表層水(右)

海洋深層水が持つ豊富なミネラルと清浄さが、海の生き物たちの生命力や健全な成長に大きな影響を与えていることが分かってきています。

陸の作物にも効果!無限に広がる活用法

海洋深層水の可能性は、海の中だけに留まりません。陸上の植物にもその効果が確認されています。

トマトの糖度アップ:栽培時に海洋深層水を混ぜて与えることで、通常のトマトよりも糖度が高くなることが確認されています。

お米の栄養価アップ:お米の栽培に海洋深層水を加えることで、マグネシウムの量が増加することが分かっています。

次世代エネルギーとしての可能性

さらに驚くべきことに、海洋深層水は「発電」にも活用できると言います。

これは「海洋温度差発電」と呼ばれる技術で、暖かい表層海水と冷たい海洋深層水の温度差を利用してタービンを回し、クリーンな電力を生み出す仕組みです。

「この技術は二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとして注目されています。発電に使った後の深層水は、少し温かくなるため、エビや藻類の養殖に再利用できるなど、複合的な利用ができる点も大きな魅力です」。

未知の可能性を秘めた「海の贈り物」

海洋深層水は、その安定した低温性や豊富な栄養、清浄さといった多様な特徴を持っています。秋田さんは、特に安定した低温性が、温暖化が進む地球において今後ますます重要になると考えています。

「海洋深層水にはまだまだ未知の可能性が秘められています。そのメカニズムを解明することで、食料問題や環境問題への貢献、そして新たな産業の創出など、様々な分野で革新的な技術を生み出せるのではないかと期待しています」。

高知県の誇るこの貴重な資源を最大限に活用し、持続可能な社会の実現に貢献したいと語る秋田さん。海洋深層水は、私たちの暮らしと海の未来を守る、まさに海底からの贈り物と言えるでしょう。

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