池之上真一

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回は、北海商科大学教授で日本海洋文化総合研究所 代表理事の池之上真一さんに、灯台と海洋文化に関するお話を伺いました。長年、海に関わる建造物を研究し、近年は灯台の歴史や活用に携わっていらっしゃる池之上さんが提唱する「灯台ナラティブ」とは、一体どのようなものなのでしょうか。

灯台が見直される理由:航路標識から文化遺産へ

池之上さんによると、灯台は近年、改めてその価値が見直されていると言います。その背景には、GPSの普及により航路標識としての役割が薄れる一方で、新たな価値が見出されていることがあります。

  • 産業遺産としての再評価:灯台は日本の近代化を支えてきた産業のシンボルであり、その歴史的・文化的な価値があると認識されるようになってきたこと。文化庁が文化財に指定する動きも広がっています。
  • 観光資源としての魅力:海と陸の間、絶景の岬にそびえ立つ姿は、多くの人々を魅了し、SNSの普及もあって観光目的のために訪れる人が増えました。

その結果、日本財団の「海と灯台プロジェクト」などもスタートし、地域おこし協力隊が灯台を拠点に活動を展開するなど、地域活性化の核として活用され始めているのです。

「灯台ナラティブ」が語る、もう一つのストーリー

池之上さんが提唱するのは「灯台ナラティブ」。“ラナティブ”とは、単なる歴史的事実を「ストーリー」として伝えるのではなく、携わる人々の主観や感情が込められた「物語」として伝えることを指す言葉。

「灯台には、灯台守、船乗り、漁師、地域住民、観光客など、様々な人々の思いが詰まっています。彼らが紡いできた物語を象徴し、語り継ぐ装置として灯台は存在しているのです」。

例えば、日本で最も古く建てられた東京湾の観音崎灯台は、関東大震災などで度々被害を受けながらも、そのたびに再建されてきました。古いものがそのまま残っているのではなく、その歴史の裏には、横須賀の人々や船乗りの思い、そして、未来につなげようとする人々の情熱が込められています。この「ナラティブ」な視点を持つことで、灯台は単なる建造物ではなく、温度を持った存在として感じられるようになります。

見過ごされがちな海の遺産を発掘する

池之上さんは、灯台だけでなく、港の古いコンクリート堤防など、一見地味に見える海の建造物にも注目しています。こうした価値ある海に関わる建造物資産を発掘するには「地域の人々の声に耳を傾けること」が最も重要だと話します。

池之上さんの地元・函館では、日本で2番目に古い近代漁港のコンクリート堤防を調査する中で、漁師だけでなく、歴史家や土木技術者、さらには寺の住職など、意外な人々のつながりから新たな発見があったといいます。実は函館には日本最古のコンクリート寺院があって、コンクリートという共通の素材が、漁港とお寺を結びつけていたのです。

「生かす」文化遺産:未来のための知恵

池之上さんは、文化財をただ「守る」だけでなく、「生かす」ことに重きを置いています。

「文化とは、人々が海や自然と末永く幸せに暮らすために生み出してきた知恵や技の積み重ねです。それを未来のために使うことが大切だと考えています」。

観光も同様に、地域の人々と訪れる人が共に新しい価値を創造する「持続可能な観光」が求められています。災害ボランティアに参加して地域のファンになるなど、ホストとゲストが協力して観光を作り出すことで、地域は活性化し、海の資産は次世代へと引き継がれていくのです。

海への深い愛情:ダイビングとビーチコーミング

池之上さんの海への愛は、幼い頃に海を見て育った原体験にあります。大阪で育ち、福岡の大学への進学を選びましたが、それは「ダイビングをしたい」という思いから。入学式当日にダイビングショップに駆け込んでライセンスを取得したそうです。

現在は、家族は函館に住み、自身は大学がある札幌住まい。池之上さんは美しい夜景や美味しい海産物があるだけでなく、歴史的な魅力も秘めている函館の海が好きで拠点を函館に置くことを望み、家族もそれに同意したそうです。

函館の海では、津軽海峡に面した大森浜でのビーチコーミングがお気に入り。

「子どもたちと貝殻を拾ったり、北前船の時代に使われていた陶器の破片を見つけたり。歴史好きの私にとっても、とても楽しい砂浜です」と池之上さん。

最後に、未来を担う次世代に、灯台をどんなふうに伝えたいか伺いました。

「灯台は、今と未来を繋いでいくための装置だと考えています。灯台が持つ『ナラティブ』を通じて、次の世代の人々が、地域の未来や海との関係を考えるきっかけになってくれると嬉しいです」。

灯台の灯は、航海の安全を照らすだけでなく、海と人々が紡いできた物語を未来へとつなぐ、希望の光でもありました。

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