中村卓哉

私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回は、20年以上にわたり沖縄県辺野古の海を撮影し続けている水中写真家、中村卓哉さんにお話を伺いました。父であり、同じく著名な水中写真家である中村征夫さんとの思い出や、辺野古の海の知られざる姿、さらに「最後の秘境」と呼ばれるパプアニューギニアの海について、深く語っていただきました。

「生きている」という感動:10歳の出会い

中村さんが海中世界の虜になったのは、10歳の時。小児ぜんそくで体が弱く、水泳の授業にも出られない幼少期を過ごしていました。そんな中村さんを心配したご家族のサプライズで、夏休みに沖縄の慶良間諸島を訪れた際、ダイビングを体験することに。

「最初は怖くて、父に手を引っ張られて海の中についていきました。でも、ふと水面を見上げると、自分の吐いた息が泡になってキラキラと太陽の光を浴びながら、ボコボコと音を立てて上がっていくのが見えたんです。手で触ると弾けて、その時に『自分は生きているんだ』と実感しました。」

陸上では感じることのできない、五感で感じる「生きている証」に感動を覚えた中村さん。夏休み明けに、父が撮ってくれたダイビング中の写真をクラスメイトに見せると、ヒーローになり、それが自信につながったと言います。

辺野古の海との運命的な出会い

大学を卒業し、父の助手を経て27歳で独立した中村さんが沖縄に移住したのは、誰にも告げない突然の決断でした。

「思い立ったらすぐ行動する」という性格は、父譲りだと話します。沖縄に移住後、テレビのニュースで辺野古への米軍基地移設工事が始まることを知ります。ニュースでは海の映像が一切流れていないことに疑問を感じ、「どんな世界なんだろう」と興味を抱き、手探りで潜ったのが辺野古の海との初めての出会いでした。 実際に潜ってみると、そこは豊かなサンゴ礁だけでなく、藻場や砂地、干潟まで広がる生物多様性に満ちた海でした。珍しいハゼや、海藻の林が広がる光景に、中村さんは心を奪われたと言います。

「クマノミ城」に秘められた海の物語

中村さんの写真集『辺野古ー海と森がつなぐ命』には、辺野古の海の知られざる姿が記録されています。その中でも特に印象的なのが「クマノミ城」と名付けられた一枚です。

辺野古の米軍基地のすぐ目の前、濁った泥地の海に、コンパスを頼りに潜り続けて見つけたのが、この場所でした。大きな岩をイソギンチャクがびっしりと覆い、そこにオレンジ色のハマクマノミが50匹以上も群れている光景は、まさに竜宮城のようでした。

しかし、中村さんが撮り続けた写真には、この「クマノミ城」の変化が記録されています。2013年には、バイパス工事や護岸工事の影響で赤土が流れ込み、イソギンチャクが激減。その後、2018年には少しずつ回復している様子が見られます。

「人間が海に与える影響が、写真からも見て取れます。だからこそ、生き物目線で記録し続けることが大切なんです。」

中村さんは、辺野古の問題を伝えるにあたり、あえて基地の映像ではなく、海の中の生き物の日常を撮り続けています。この豊かな生態系が失われてしまうかもしれないという危機感を、静かに、しかし力強く訴えかけています。

森と海をつなぐ命のストーリー

中村さんは、海だけではなく森にもカメラを向けました。

「この海の色はどこからきたのか気になって、干潟やマングローブ、さらに上流の森にも足を運びました。すると、ヤンバルの森を流れる清流にハゼや甲殻類がいて、その清らかな水がマングローブや干潟を通り、沖合のサンゴを育んでいることに気づいたんです。」 一滴の雨が森を潤し、やがて海へと流れ、豊かな生態系を育む。この壮大な命のサイクルを伝えるために、中村さんは水が主人公のストーリーで写真集を一冊作ろうと思い立ちました。

ジュゴンとの奇跡の出会い:パプアニューギニアの秘境

中村さんは、ダイビングアンバサダーを務めるパプアニューギニアの海も撮影しています。世界中のダイバーが「最後の秘境」と呼ぶこの海は、「何でも出会える可能性がある海」だと語ります。

この海で、中村さんが長年追い求めていたのがジュゴンでした。8年かけて制作した写真集『パプアニューギニア 海の起源をめぐる旅』にもジュゴンを写した一枚はなかったと言います。

ところが、去年のテレビ撮影で再びパプアニューギニアを訪れた際、ローカルの子供たちに「ジュゴンはどこにいる?」と尋ねると、「今いるよ」と目の前の海を指差したのです。 「本当にいたんです。まるで野良猫のように、何十頭も島の周りにいました。辺野古の海でずっと会えなかったジュゴンが、こんなに人との距離が近い場所で暮らしているんだと、嬉しさもありましたが、複雑な思いも感じました。」

海が上げる悲鳴:地球温暖化の影響

パプアニューギニアの海は、温暖化に強いと言われる「コーラル・トライアングル」に属していますが、去年の夏、浅瀬のサンゴがほぼ真っ白になる白化現象が起きたと言います。

「パプアでここまで白化したのは初めてです。辺野古もそうですが、今まで守られてきた場所も悲鳴を上げているのを感じました。」

この地球規模の問題を伝えるため、中村さんは現在、30年にわたる撮影の集大成となる一冊の本を制作中です。世界中の海中世界を体感できる貴重な記録となるでしょう。

中村卓哉さんのカメラは、これからも海が語る物語、そして地球の未来を私たちに伝え続けてくれます。

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