↑↑奄美大島で採集したオオウナギ(全長1.2m)
私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回のゲストは、魚類生態学の専門家である東京大学大気海洋研究所の脇谷量子郎さんです。日本人に古くから馴染みのあるウナギですが、その生態は多くの謎に包まれています。研究者から見たウナギの魅力、そして私たちがウナギとどう向き合っていくべきか、じっくりとお話を伺いました。
食べ物じゃない、ウナギは「かっこいい生き物」
「土用の丑の日にウナギは食べますか?」という質問に、脇谷さんは「美味しいとは思うんですが、正直、食べ物としてのウナギにはそれほど興味がないんです」と意外な答えを返します。
脇谷さんがウナギを研究するようになったきっかけは、子供の頃に遡ります。小学3年生の時、親に買ってもらった図鑑に載っていたウナギの写真に一目惚れしたと言います。
「なんてかっこいい魚が世の中にいるんだ、と。下顎がでっぷり出ていて、ただ事ではない大物感というか、存在感を顔から感じたんです」。
以来、お年玉をはたいてオオウナギをペットとして飼い始めるなど、脇谷さんにとってウナギは「かっこいい顔をした魅力的な生き物」であり、食べるものではないと言います。そのウナギ愛は現在も変わらず、お気に入りのウナギのドアップ写真が入ったスマートフォンケースを愛用しているほどです。

海の呪縛?ウナギの壮大な旅路に秘められた謎
ウナギの生態には、いまだ解明されていない謎が多く存在します。その代表的なものが、なぜ遠い海で生まれて日本の川に戻ってくるのか、そしてなぜ産卵のために海へ帰っていくのかという点です。
「これは究極の質問で、おそらく誰にも答えられないでしょう」と脇谷さんは言います。
ただ、研究で分かっていることは、ウナギの祖先がもともと海の魚だったということ。そのため、川で何年過ごしても産卵は海でしかできない、という「海の呪縛」が遺伝子レベルで残っているのではないかと推測されます。
さらに驚くべきは、私たちが食べるニホンウナギが、実はウナギの仲間全体から見ると「比較的新興勢力」だという事実です。ウナギの祖先は熱帯域、例えばインドネシアのような海と川の距離が近い場所で産卵していました。それが徐々に生息域を広げ、ニホンウナギのように日本まで来るようになった結果、産卵場所までの距離が長くなっていったと考えられています。
川の上流で見つけた「主」
生まれたばかりの稚魚「シラスウナギ」は、海流に身を任せて流されてきます。そして、日本や中国といった陸の近くまで来た段階で、川の水の匂いを感知し、川を目指して泳ぎ始めます。脇谷さんの研究によると、川に入ったウナギは、河口から上流まで川の全域に分散して生活することが分かっています。
「山登りのような上流域を回っていた時、こんな場所までウナギは来ないだろうと思っていたら、当たり前のように主のような大型のウナギがいたんです」。 その時、ウナギの途方もない生命力に感動したと言います。「君、すごいね」と心の中で語りかけたというエピソードからは、ウナギに対する深い尊敬の念が伝わってきました。
絶滅危惧種と向き合うために:私たちができること
ニホンウナギは2014年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されました。しかし、これは「食べてはいけない」という意味ではないと脇谷さんは言います。
「レッドリストは、種の絶滅の心配を評価する枠組みです。残念ながらウナギは減少しているのは間違いないので掲載されていますが、掲載されたから食べてはいけない、ということにはつながっておりません」。
私たちが主に食べているのは主に、天然の稚魚「シラスウナギ」を育てた養殖ウナギです。しかし、ウナギの資源管理は非常に難しいのが現状です。その広大な生息域をすべて把握しきれていないことに加え、稚魚の流通ルートが複雑で、個人の手でも簡単に運搬できてしまうため、漁獲量や消費量の全体像を掴むのが困難だからです。
「土用の丑の日」を見直す
脇谷さんは、ウナギを巡る問題の背景には、私たちの食文化も関係していると指摘します。
「土用の丑の日」にウナギを食べる習慣は、江戸時代に平賀源内が考案したとされるキャッチコピーからだという強い説があります。
実は、ウナギは脂が乗る秋冬が旬とされています。しかし、夏に売れないという理由でこの「土用の丑の日」にウナギを食べる文化が定着しました。これにより、夏に需要が集中し、大量のウナギを確保しなければならない状況が生まれています。
「これは、食品としてのロスを生む側面があり、野生生物の無駄遣いになってしまう可能性もあります」。
脇谷さんは「この食文化をなくそう」というつもりはないと前置きした上で、「誕生日だから、クリスマスだから、と個人レベルで食べる時期をずらすだけでも、需要の一極集中を見直すことにつながります」と提案します。
最後に、ウナギを食べるときは「これは野生の生き物である」ということに思いを馳せてほしい、と脇谷さんは語ります。
「これはウナギだけではなく、水辺の生態系全体を守る上で非常に大事なことです」。
今日のインタビューで、ウナギは単なるスタミナ食ではなく、壮大な旅をする神秘的な生き物であり、その未来は私たちの消費行動にかかっていることを改めて感じました。

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