私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺っていく「Know The Sea」。Podcastなどを介してお届けしているこのコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。
今回は「森が育む海の恵み」というテーマについて、株式会社グリーンエルム代表で林学博士の西野文貴さんに、森と海の知られざる関係、そして持続可能な海の未来への思いを伺いました。
「魚付き林」が解き明かす、森と海の密接な関係
なぜ森の専門家が海を語るのか?そのキーワードとなるのが、日本の古くからの知恵である“魚付き林”です。
「魚は海にたくさんいると思うんですけども、実はこの魚付き林というのは、海岸近くの森から栄養が染み出したり、空気が供給されたりすることで、そこに魚がたくさん集まりやすい。そういう場所を昔から『魚付き林』と呼んでいるんです。」
森の恵みが海の恵みと直結しているというこの概念は、海岸にある森だけでなく、意外にも内陸の山の森まで関係していると西野さんは言います。
西野さんが初めて「魚付き林」という概念に触れたのは、学生時代にアフリカでマングローブ林を調査した時のこと。
「マングローブの調査後、町で釣り餌のエビを買ったら、ビニール袋の底にマングローブの葉っぱが入っていたんです。それだけ地元の人たちの生活に密着していて、海のマングローブ林にはエビや魚が集まる生態系があるんだと知りました」。
その後、日本でも魚付き林の活動をしている人がいないかと調べたところ、“森は海の恋人”で有名な牡蠣漁師、畠山重篤さんの存在を知ったそうです。
「畠山さんに直接お会いして船に乗せていただき、『海から山を見ながら、森や川、海全部つながってるんだよ』という話を投げかけていただいたのがすごく印象的でしたね」。海から陸、そして森を眺めることで、また違った視点や気持ちが芽生えたと言います。
魚付き林の歴史は非常に古く、文献によれば西暦940年頃から、海岸近くの森に魚が集まるという実績から、そうした森を積極的に残そうという意識が根付いていたようです。これは、先人たちの豊かな知恵と言えるでしょう。
山から海へ運ばれる「命の栄養素」:鉄分と循環の仕組み
海岸沿いの森だけでなく、そのさらに奥にある山の森も重要だと西野さんは語ります。では具体的に、山から海へは、何がどのように運ばれているのでしょうか?
「山で何が起こっているかというと、木が生えて成長し、葉っぱをつけ、花を咲かせ、それが地面に落ちていく。そして微生物がそれを分解していくと腐葉土ができます。実はそこにはミネラル豊富な栄養がいっぱいできていて、それが山を循環させる糧になるんですが、そのミネラルが雨によって川に流れ出すんです」。
そして川を流れる間に、ミネラル、特に鉄分と結合して、海の海藻やプランクトンが摂取できる状態になるというのです。
「まるで川の中で料理されているみたいですね」という問いかけに、「うまい!そんな感じ!」と西野さん。
実際に、製鉄会社の研究でも、ある種の海藻に鉄分を与えた場合とそうでない場合との比較で、鉄分を与えないと海藻が大きくならないという結果が出ているそうです。
「沿岸に近い海の生き物は、鉄を摂取するために、川から来た栄養分を求めてやってきていることが科学的に検証されて、やはり山に木を植えることは正しいんだと実証されているんです」。山と海が、ミネラルという「命の栄養素」によって深く結びついていることがわかります。
魚付き林の「適材適所」:広葉樹と針葉樹の役割
しかし、魚付き林を構成する植物は何でも良いわけではないと西野さんは指摘します。
「特に日本は南北に長く、海流も4つも流れている多様な国です。海岸でよく見る植物は松だと思いますが、実は松のような常緑樹だけでなく、広葉樹も非常に重要なんです」。
スタジオに持ち込まれた常緑樹と落葉樹の葉を比較しながら、その理由を説明してくれました。
「常緑樹の葉は、固い組織を持つため分解が遅いですが、落葉樹の葉は柔らかく早く分解されやすい性質を持っています。海にある本当の自然の森も、松は常緑で分解が遅い。けれどもそこに落葉の広葉樹があると分解が早い。両方があるのがすごくいいんです」。
それぞれの役割も異なります。
「松が常緑で海岸に植えられるのは、海からの風で砂が巻き上げられるのを止めるための砂防林、いわゆるストッパーの役割です。冬に枯れてしまうと困るので、常緑の松が適しているのです」。
自然の仕組みの巧妙さと、それを知恵として活かしてきた先人たちの凄さに感銘を受けます。
「里山ゼロベース」が目指す「森作りは人作り」
魚付き林は、自然に任せるだけでなく、人が手を入れることでより豊かになると西野さんは言います。
「日本は気候環境が良いので、300年何もしなければ森ができると言われますが、木を植えることでその時間を短縮できます。魚付き林も、自然に任せて待つよりも、自分たちが植樹をして早く自然に戻し、そのスピードに任せて生態系を豊かにしていくんです」。
西野さんが代表を務める「里山ZERO BASE」というプロジェクトでは、全国の放置された杉やヒノキの人工林を買い取ったり借りたりして、自然の森、つまり魚付き林につながる森作りを行っています。
「日本には約7000種の植物があり、地域によって森の種類も200種類ほどあります。私は林学博士として、その地域に合わせた森の設計をさせていただいています。日本初の『森の設計師』として、全国の森をプロデュースしています」。
森の設計は、その地域の植生調査から始まり、自生する木から種を取って苗を育て、植樹、そして管理へと続く長い道のりです。
「最終的に日本や世界の環境を変えるのは教育がすごく大事だと思っていて、我々のプロジェクトのロゴには『Nature Education』と入れています」と西野さん。
幼少期に木を植えた経験が今も心に残っているという西野さん、「お前が今持ってる木は何百年も生きるよ」という父親の言葉から時間の軸を感じたように、子どもたちにもその思いを伝えたいと語ります。
「木を植えるというのは、ただ単純に地面に植えるのではなく、心に木を植えること。そして森作りは人作りにもつながると思っています」。
「里山ZERO BASE」の活動は、公式インスタグラムなどで発信されています。林学博士の西野文貴さん、貴重なお話をありがとうございました!

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