水中カメラマン

中村征夫

2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、interfm番組内やPodcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回のゲストは、水中カメラマンの中村征夫(なかむら いくお)さん。6月23日(日)に放送されたInterfmの番組「SUNDAY FINISHING LINE」内で、「海中顔面」の撮り方や日本と世界の海などについてお話を伺いました。

ニックネームは「半魚人」。水中でベストショットを撮る方法は?

中村さんは、半世紀以上も海に生きるものたちを撮り続けてきた水中写真の第一人者。あまりに海から上がってこないことから、友人の作家・椎名誠さんから「半魚人」というニックネームをつけられたそうです。そんな中村さんは、6月12日に「海中顔面大博覧会」という写真集を出版。狙って撮っているとおっしゃる水中での写真の撮り方の秘訣を伺ってみると

「距離は触れるぐらい近づいて撮ります。水の中はプランクトンがたくさんいるので、対象から離れると不鮮明な写真になってしまうため、できるだけワイドで寄りたい。その時、目と目を合わせると、ガンを飛ばしたとか何か文句あるのという形で逃げちゃいます。だから、できるだけ目はそらします。また、レンズを向けると飛び道具が飛んでくるんじゃないかと思うのかすごく嫌がるので、『君の隣にある丸い石に興味があるんですよ』という感じで、丸い石にピントを合わせておく。そうして、ひょいと(対象に向けて)右側に振ったり左側に振ったりすると、ピントが合った写真が撮れます。野生の生き物の裏をかくのがとても快感。僕にだまされて君は大丈夫?とも思っちゃいますが」

写真集を通して「海の生き物の生き様を見て欲しい」

写真だけではなく、キャッチコピーとメッセージも中村さんによるものですが、こういった写真集が海に触れる、海を考えるキッカケになって欲しいとおっしゃっています。

「海に潜らない人がほとんどです。そんな中、写真集として出版するという意義は、海の中に顔をつけてみると、そこは見入る世界なんだと。そして、こんなにたくさんの生き物がいて真剣に生きているんだと、生き物たちの生き様を見てもらいたいです。また、海の環境がどんどん悪化していて、生き物たちが南から北の方に大移動していますよね。岩手の海では、沖縄方面から来た1cmにも満たないような赤ちゃんが目の前を横切っていきました。そういった環境の変化を考えるキッカケになる写真も載っています」 そういった写真が無料で見られる写真展も、東京・六本木にある「FUJIFILM SQUARE」で開催。100点以上が展示されるこのイベントは、2024年6月14日から7月4日までとのことです。

日本のような海を持っている国は他にはない

日本だけではなく、世界中で撮影されている中村さんに、印象的だった海を伺ってみると

「国々によって『海のお国柄』があるなと思いました。例えば、サンゴであればうわーっとサンゴだらけですし、藻場であればもう藻場だらけとか。海の色も全然違います。けれども、日本のような海を持っている国はないのに気付くんですよね。沖縄の南西諸島のサンゴ礁からひとっ飛びすると、流氷が訪れる北海道の知床半島に行けます。そして、黒潮が流れる太平洋側もあれば、対馬暖流とかが流れる日本海があり、また違う顔を持っています。そういうことを考えれば、日本の海の姿というのは本当に豊かだなと。森が豊かだから、その栄養が沿岸域に流れ込む。そして、植物プランクトンを食べるために、エビやカニの赤ちゃんとか動物プランクトンが岸にやって来る。そこから海の食物連鎖が始まるんです」

魚を残さず捨てずに食べて欲しい

海を知る、守る上で最もダメなことは、残して捨ててしまうことだと教えて下さいました。

「残して捨ててしまうのが、魚たちにとってはイチバン無念だと思います。海の中に潜った時、死んでいる魚を見ることありません。なぜかというと、弱肉強食の世界なので、弱っているうちにも食べられてしまうから。でも、食べられてもちゃんと次の命につながっている。人間に捕えられた時、食べられるのはいいけど、捨てられるのがイチバン無念でしょう。そんなことをしていると、バチがあたるのではないかな。その影響がもう既に出てると思いますけどもね」

81歳にはまとめたい「東京湾の写真」

最後に、ライフワークである東京湾の写真についても伺ってみると、目標を掲げてらっしゃいました。

「今どこへ行きたいかと聞かれたら、東京湾に行きたいですね。81歳でちょうど50年になるので、東京湾の写真をまとめます。ちなみに、『半魚人』以外にも呼ばれているニックネームがあって、それが『ヘドグラファー』。ヘドロとフォトグラファーを合わせたもので、東京湾のヘドロ写真を撮り続けているんですが、そう呼ばれるのは僕にとっては名誉なことだと思っています」

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