かごしま水族館 海獣展示係 主任

大瀬智尋

2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、interfm番組内やPodcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

今回のゲストは、かごしま水族館 海獣展示係 主任の大瀬智尋(おおせ ともひろ)さん。6月22日(土)に放送されたInterfmの番組「RADIO DISCO」内で、水族館でのお仕事、そして、鹿児島の海についてお話を伺いました。

座礁したクジラやイルカの調査・研究もお仕事の一環

目の前に鹿児島のシンボル「桜島」、そして、錦江湾という海が広がっているという最高のロケーションに建つ「かごしま水族館」。館内には、鹿児島の海の生き物を中心に約800種1万点の生き物を展示。九州で唯一の展示となるジンベエザメ、そのほかにもカツオやマグロなどの群れが泳ぐ「黒潮大水槽」、水族館の中に入らなくても無料でイルカが泳いでいる様子が見られる「イルカ水路」などがある九州最大級の水族館となっています。

そんな水族館で働く大瀬さんは、ハンドウイルカやゴマフアザラシの飼育といったお仕事以外にも、座礁したクジラやイルカの調査・研究もしていると教えて下さいました。

「座礁した鯨類の調査は、私個人だけでやっている仕事ではなくて、水族館の全体で取り組んでいる調査・研究の一部となっています。その調査は、海に打ち上がっているイルカやクジラがいると水族館に連絡をもらってから。まず連絡をもらったら、連絡をくださった方に打ち上がってる鯨類が『生きているのか、死んでいるのか』を聞きます。また、打ち上っている場所、大きさなども尋ねます。どのぐらいの大きさかによっても持っていく道具とかも変わったりするので。そして、もし写真などが残っていたらメールで送ってもらったりもします。そうすると、どういった種類かが分かることがありますので」

生きている場合と死んでいる場合で異なる対処

座礁の連絡があった際、生きている場合はどんな対応をされるのか伺ってみると

「イルカとかクジラは、人よりも体長が大きかったり、重さもあったりします。そのため、助けようと思って近づいた時に、尾びれで叩かれて怪我をしたりする場合もあるので、まずは安全確保が重要ですね!また、近くの自治体などにも連絡をしてもらい、それから急いで準備をして職員が現場に急行します」

やはり危険が伴うため、無暗に近づくのは危険だそうですが、時には、呼吸確保をお願いすることもあるそうです。

「呼吸がしっかりとできるかを確認してもらい、対処法を伝えたりもします。海岸で波が寄せてきて、鼻の部分に海水が浸かってしまう可能性があるので、できれば鼻の部分を持ち上げて欲しいと」

一方で、死んでいる場合でも、安全確保が重要になると教えて下さいました。

「死んだ場合であっても、人の安全確保が重要!なぜ死んだのかという理由がわからないと思うので、人にうつるような病気がある可能性もあります。ですから、できるだけ近づかないようにしてもらい、生きていた場合と同じように近くの市町村の自治体に連絡をしてください。職員はそういった連絡のあと、現場に急行します。急いでいかないと、打ち上がったイルカとかが波で流されてしまう可能性があるので」

座礁のニュースのように、クジラなどは体の中にガスが溜まっていて、それが破裂する恐れもあるそうです。安全を第一に考えましょう!

座礁の調査・研究の結果、今までにない発見があることも!

かごしま水族館では、座礁した鯨類の種類や大きさなどを調べたあとは、国立科学博物館や大学の先生などと連携し、対応をお願いしているそうです。そんな中、調査・研究を進めると、さまざまな生態がわかったり、発見があったりするそうです。

「例えば、打ち上ったイルカが何を食べていたかとかもわかってきます。珍しいものだと、かごしま水族館に展示中の「タイヘイヨウアカボウモドキ」というクジラですね。全身骨格標本をホールに展示していますが、今までは図鑑とかにもイラストでしか描かれてなかった種類で、鹿児島の海には色んな生き物が住んでいるというのもあって、たくさんの種類が打ち上がっています」

鹿児島の海、水族館にも忍び寄る海洋ごみ問題

世界的に注目されている海洋ごみ問題。鹿児島の海でも海洋ごみの問題が起こっているそうです。また、水族館の特徴のひとつである「イルカ水路」にも、海洋ごみは関係していると教えて下さいました。

「イルカ水路からイルカを出す時もごみの問題がとても重要なんですよ。飼育しているイルカたちが健康な状態で飼育できるようにするために、まずイルカを出す前に、水路の中を潜ってごみ掃除をするんですよ。夜の間に流れ込んでしまったごみとかがあるので、取り除いて安全な場所、環境を作ってからイルカを出す。錦江湾はきれいな海だといっても、やはり色んなごみとかも流れ込んでしまっているというのが問題ではあると思います」

野生のイルカも見られる錦江湾には多種多様な生き物が生息!

かごしま水族館ではハンドウイルカを飼育していますが、実は水族館の目の前に野生のイルカがやってくるそうです。ミナミハンドウイルカ、ハセイルカ、ハンドウイルカの3種類が調査ではよく見られるとのこと。また、一般の方からはスナメリを見たという情報ももらっていると教えて下さいました。そんなイルカたちがやってくる理由のひとつは、錦江湾が豊かでたくさんの生き物が生息しているからだろうと大瀬さんはおっしゃっています。

「錦江湾は、干潟、岩礁域、サンゴ群落、深海などがあり、流氷がないだけでそれ以外の環境がほぼ詰まっている海なんですよ。ですので、多種多様な生き物たちが生息してると言えると思います。また、飼育しているイルカでいうと、大体1日10kgくらいの餌を食べます。錦江湾のミナミハンドウイルカに関しては、いま調査をしていて、約60頭ぐらいの個体識別ができているので、60頭いるとすれば、餌の観点から見ても、たくさんの生き物が住んでいると言えると思います」

大瀬さんが考えるKnow The Seaとは?

そんな鯨類の飼育に調査・研究というお仕事をしている大瀬さんに、いま注目している海の生き物を伺ってみると、「アオリイカに興味があります」との意外な答えが返ってきました。実は、高校時代にアオリイカを卵から育てるということをやり続けていたそうです。そういったさまざまな海の生き物のことを知っている大瀬さんが考える「海を知るために重要なこと」は

「海の生き物に興味を持ってもらうのが第一だと思っています。例えば、無料ゾーンのイルカを見てもらって、『あっ!イルカはこんな生き物なんだ!』というように、まず1種類の生き物を知ってもらう。すると、その生き物がいる環境だったり、どういうのを食べているのかなど、どんどんと興味を海の方に持っていけるのではないかなと思っています」

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