「しんかい6500」で何度も潜水!
深海を研究する専門家

藤倉克則

2024年6月からスタートした音声コンテンツ「Know The Sea」。私たちの宝である海を未来へつなぐため、さまざまなゲストをお招きして、海の魅力、海の可能性、海の問題についてお話を伺い、interfm番組内やPodcastなどを介してお届けしていきます。このコンテンツは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環です。

記念すべき第1回目にお招きしたのは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の上席研究員・藤倉克則(ふじくら かつのり)さん。6月19日(水)に放送されたInterfmの番組「MUSIClock with THE FIRST TIMES」内で、何百回も潜っているという「深海」についてお話を伺いました。

出身は海なし県!なぜ深海の研究を?

「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」は、海の研究を通じて、科学技術の向上や学術研究の発展、地球や生命の理解などに広く貢献しています。そんな中、主に海洋生物の研究をしている藤倉さんは、意外なことに生まれも育ちも海がない栃木県だそう。一体なぜ深海の研究を始めたのでしょうか。

「子どもの頃から魚やザリガニなどに触れるのが好きで、あと、私の父も魚屋で釣り好きといったように、水の中の生き物が身近でした。そして、大学へ進学する時、自分が何をしていたら一番楽しいだろうと考えてみたところ、『水の中の生き物に触れている時が一番楽しい』と思ったので、そういったものを勉強できる大学を選びました。その後、就職も水の中の生き物を扱える職業に就きたいなと思ったんです。その時に、当時の海洋科学技術センター、今の海洋研究開発機構で『深海に潜って調査する仕事がある』と知り、応募したところ採用されて今に至ります」

有人潜水調査船やロボットが変えた深海の研究

その昔、深海の調査・研究は、長いロープの先に網や箱を取り付けて、サンプルを回収していたと言います。ただ、その方法だときちんとした研究ができなかったそうです。

「自然科学の研究の基本は、『人が見て不思議だなと感じる』こと。その不思議だなというものの仕組みに仮説を立てて、それを実証するためにいろいろな実験や検証を行いますが、網などを使った方法だと最初の『観察する、見る』ということができないんです」

それでは困るということから、有人潜水調査船やロボットという実際に人間の目で深海を見られるというような機械が開発されたのだそう。さらに、機械の登場によって、深海の複雑な地形での調査も可能になったのだとか。現在では、大きな船で目的地へ向かい、その後、有人潜水調査船やロボットを海の中へと降ろして行われます。

そんなさまざまな問題を解決した有人潜水調査船とロボットはどんなものかというと、「有人潜水調査船は潜水艦を小さくしたようなイメージ」だそう。その動力は、携帯電話の電池を巨大にしたものだと言います。ロボットはというと、海上の船とケーブルでつなぎ、そこから電力や信号などを送って調査を行うそう。「歩くというよりは海底から2メートルぐらい上を走るイメージです」

初めて深海へ潜る時は「正直怖かった」

今までに何度も深海に潜っている藤倉さんに、初めて潜った時のことを伺ってみると、

「正直、怖かったです。当時は“しんかい2000”で潜ったのですが、いくら周りに安全だよと言われても、潜るまでの準備をしている時がすごく嫌で、船内に入った時も嫌で、『このまま海がシケて中止にならないかな』と思ったほどでした。ところが、不思議なんですけど、ハッチという蓋を閉めてしまうと怖さがなくなっているんです」

今でも「入るまでが嫌だ」という藤倉さんですが、「しんかい2000」から数えると、これまでに40~50回も深海に潜っているそうです。ロボットで深海に行った回数も含めると、なんと何百回にもなるのだとか!

そんな深海のエキスパートが、深海にはどんな世界が広がっているのかを教えて下さいました。

「潜っていくと昼間から夜になるイメージです。海の表面にいる頃はもちろん明るいんですけど、だんだんと暗くなっていき、1000メートルぐらいになると、もうほぼ真っ暗です。ただ、その代わり、青白く光る発光生物が見えたりします。まさに夜に星が光ってるようなイメージで神秘的ですよ。そして、やがて海底に着くので、そこで潜水船のライトをつけます。すると、そこは荒涼とした世界ですね」

深海の一部は特殊な生態系!広がるパラダイス

地球の生き物は基本的に、太陽の光を受けて植物が光合成をし、それを草食動物が食べ、それを今度は肉食動物が食べるという食物連鎖、まず光合成から始まるシステムの中で生きています。深海の生物も基本的には同じだそうですが、ある特殊な場所では「化学合成生態系」という違う仕組みになっているとおっしゃいます。

「例えば、海底火山がある場所や断層という亀裂があるようなところには、硫化水素とかメタンという化学物質が海底から湧き出てくるんですね。その化学物質を使うと、バクテリアとかアーキアと呼ぶ微生物が大量に繁殖できるんですよ。そうすると、その微生物を食べたりとか、体の中に共生させたりするエビやカニ、貝といった生き物が生息するようになります。普通の深海には目に見える大きな生き物は少ないのですが、メタンがあるところは、もうそこだけ別世界!パラダイス!」

硫化水素やメタンなどがある海底は、一面が生き物だらけになるのだとか!そして、ほかの場所と違って、最初に何かものをつくり出すのは植物ではなくて「微生物」。こういった特殊な生態系、食物連鎖が深海にはあり、これが「化学合成生態系」とのこと。

「ある意味で教科書に付け加えなくてはいけないぐらい、そもそものシステムが違う」と力説する藤倉さんは、こういった特殊な環境で生き物がどう工夫して生きているのか、その仕組みを知るということについて、「とても面白いこと、ワクワクする!」と楽しそうでした。

無限の可能性が広がる深海。ただ、開発と保全のバランスが重要

「地球において生き物がいるエリアの中では恐らく最大」だという深海。そこには、ユニークな生態があったり、新種が山のように出てきていたりと、まだ無限の可能性が秘められているそう。その中のひとつが「メタンハイドレート」。天然ガスであるメタンが氷状になっているもので、深海に眠っているものを活用しようという動きがあるとのこと。ただ、その中で、気にすべきことがあると藤倉さんはおっしゃいます。

「さっき言ったように、メタンがあるところには生き物がいるので、やたらめったら壊してしまっては困ります。開発と保全のバランスをどうとるかはとても重要なことだと思いますね。2020年には、『海の10%を保全する場所にしましょう』と国際的に決められました。議長国だった日本は率先して行い、深海域も海洋保護区にしていきました。とはいえ、保護区は何もしてはいけない聖域ではなく、ちゃんと守りながら使いましょうということだと思うんですよね。そして、こういう活動は、いま日本も含めて世界的に盛んに行われています」

藤倉さんにとってのKnow The Seaとは?

最後に、海を知るために藤倉さんが必要だと思うことについてお聞きしました。

「私たち人間というのは、海を利用しないと生きていけません。ただ、あまりにも行き過ぎた利用は、その後に環境問題を起こしているので、『利用と守るというバランス』をどう取るかだと思います。そして、科学的な情報も生み出しながら、そういう生活ができるようにすることが、私も含めた海の研究をしてる人達の夢じゃないですかね」

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